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2024.01.26 コラム

半導体こそ経済成長の源泉 ~半導体の歴史と未来~

半導体産業こそ経済成長の要であり、現在注目を浴びています。本記事では、日本の半導体産業の歴史と現状を探り、成長性を分析しました。日本独自の半導体戦略や、ロボットの牽引する世界の半導体市場の将来展望について解説します。

(1)現代文明は半導体によって成り立っている

日本の半導体産業のルーツをたどると、1955年夏にトランジスタ式小型ラジオがソニーから発売され、内外で大ヒットし、花形輸出商品として戦後復興に貢献したことに遡ります。ソニーのトランジスタ式小型ラジオは、①「家電王国」に向けての先駆となり、② 「垂直統合モデル」を生み出し、③ 「メイド・イン・ジャパン」のイメージを一新したものでした。半導体の革新とは、「加工寸法の微細化」と「CMOS技術への転換」であり、半導体(CMOS)革新がなければ、現代文明は成り立たなかったと言われています。すなわち、ウーバー、スマホ、自動運転車、Chat-GPT、ロボット、リモートワークといった現代文明は全て半導体によって成り立っているのです。

(2)絶滅危惧の日本の半導体

日本の半導体産業は、1990年代以降、徐々にその地位を低下させ、凋落の一途をたどってきました。1988年の半導体生産の世界シェアは日本50.3%、米国36.8%、アジア3.3%であり、1990年の世界半導体売上高ランキングベスト10には日本企業が6社も名を連ねていました。ところが、2022年の半導体生産の世界シェアは日本10.0%、米国50.7%、アジア25.2%であり、売上高ランキングベスト10には1社も入っていません(図表2参照)。経済産業省の予想によれば、2030年には我が国の半導体生産はほぼゼロになるとみられています。ここでピーク時を振り返ると、当時の我が国はDRAM分野で世界トップであり、家電市場を制覇していたのです。ところが、その後の日米半導体協定、PC市場敗退、スマホ市場敗退によって我が国の半導体産業は凋落の一途をたどってしまったのです。日本の競争力ランキングと半導体シェアはリンクしており、競争力ランキングは1993年2位に転落するとその後の半導体シェアは低下傾向を続けています。アナログからデジタルへの転換が進み、デジタル時代に敗北した結果と言えるでしょう。

半導体の国際競争力
・出荷の国別シェア
1位米国51%、2位韓国18%、3位日本10%、4位欧州10%、5位台湾6%、6位中国5%。
・生産能力の国別シェア
1位韓国23%、2位台湾21%、3位中国16%、4位日本15%、5位米国11%、6位欧州5%、7位その他9%。
半導体デバイス産業の構造変化
・1990年
1位NEC(日本)、2位東芝(日本)、3位モトローラ(米国)、4位日立(日本)、5位インテル(米国)、6位富士通(日本)、7位TI(米国)、8位三菱電機(日本)、9位フィリップス(オランダ)、10位松下電器(日本)。
・2022年
1位サムスン(韓国)、2位インテル(米国)、3位SKハイニックス(韓国)、4位クアルコム(米国)、5位マイクロン(米国)、6位ブロードコム(米国)、7位AMD(米国)、8位TI(米国)、9位メディアテック(台湾)、9位アップル(米国)。

(3)世界の半導体産業の現状

半導体関連産業の市場構造をみると、川上産業として半導体材料約9兆円、半導体製造装置訳4兆円、半導体デバイス産業約75兆円、川下産業として電子情報産業約440兆円となります。要点を整理すると、①半導体関連産業全体の市場規模は約540兆円で世界GDPの約5.4%を占めている、②日本の強みは川上産業であり、材料分野、製造装置分野ともに競争力が強い、③デバイス産業は弱体化し、シェアはピークの50%から10%以下に低下している、④川下産業はデバイス産業と連動して弱体化が進んでいるといった点となります。半導体の国別競争力には2つのシェアがあり、出荷の国別シェアでは、米国51%、韓国18%、日本10%、欧州10%、台湾6%、中国5%となっています(2020年)。一方、生産能力の国別シェアでは韓国23%、台湾21%、中国16%、日本15%、米国11%、欧州5%、その他9%となっています(2022年)(図表1参照)。

(4)これからの日本の半導体戦略

日本の半導体産業が凋落した要因は、①日米貿易摩擦によってメモリが敗退した、②水平分業化の遅れ、③デジタル産業化への遅れ、④韓・台・中が国家戦略として半導体強化を進めてきた、といった点が挙げられます。今後の市場動向としては、「半導体産業は成長を続け、2030年に約100兆円へ」、「現在の主力市場はPC、スマホ、DCなどであり、今後は自動運転車、ロボットなどに期待」、「日本の売上高は現在の約4.5兆円から2030年に約13兆円に増大する」、といった点が見込まれています。こうしたなかでの強化戦略としては、「生産基盤の強化(TSMC誘致、既存工場の刷新など)」、「次世代半導体技術強化(ビヨンド2nm, ラピダスの設立など)」、「オープンイノベーションで将来技術育成(LSTC設立)(LSTC=Leading-edge Semiconductor Technology Center)」等を掲げています(経済産業省)。1月に竣工したTSMC熊本工場の概要は、投資総額約9,800億円でほぼ半額が政府補助であり、生産開始は2024年で、55千枚/月(12~16nm及び22~28nm)、従業員1,700人となっています。

(5)ロボット市場が牽引する半導体が拓く未来

わが国では、AI搭載ロボットが急速に伸びています。対話型ロボットは2020年の216万台から2025年には3,100万台、業務支援ロボットは同104万台から1,000万台、介護ロボットは同66万台から700万台、清掃ロボットは同263万台から1,658万台、産業用ロボットは同4万台から30万台、自動運転車は同1,463万台から2,587万台、ドローンは同244万台から1,246万台といった状況となっています。EVも多様化の方向にあり、第一段階のガソリン⇒電気、第二段階の手動運転⇒自動運転を経て第三段階は車の再定義として、「人を運ぶ空間」から「エンタメを楽しむ空間」へと変わっていくとみられています。半導体市場の将来展望としては、スマホ市場は飽和傾向となり、その後はロボット分野が牽引すると予想されています。確かに、日本は家電市場を制しましたが、PCとスマホ市場で敗退し戦績は1勝2敗となっています。ロボット市場を制して2勝2敗或いは敗れて1勝3敗となるのか?ロボット向けAIチップ、センサー、パワーデバイスの強化がカギを握ると言えそうです。

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穗積 拓哉
チーフ・インベストメント・オフィサー
穗積 拓哉
Takuya Hozumi
2008年に日興コーディアル証券(現:SMBC日興証券)に入社。 五反田支店、八重洲支店で個人・法人向け資産運用コンサルティング業務を経験し、 アセットマネジメント・マーケティング部にて投資信託のマーケティング業務にも携わる。 2014年より、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。ウェルスマネジメント・リサーチ部において、 グローバル株式チームの実質的なトップとしてMUFGの金融市場に対する公式見解であるハウスビューの作成業務に従事。 超富裕層向けポートフォリオの構築や資産の期待リターン、リスク推定、各種分析モデルのプログラム開発なども担当する。 2023年にIFA Leadingの創業に参画。