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2024.04.30 コラム

IMFによる世界経済見通し 2024年以降は安定的且つ緩慢な見通し

IMFによる世界経済の見通しが発表されました。コロナ禍での財政支出拡大を受け、各国ともに財政政策の選択肢が狭まっている中で、今後の持続的な経済成長を維持させることができるのでしょうか。

(1)世界経済は底堅い動きを続ける見通し

IMF(国際通貨基金)は、4月16日に2024年及び2025年の世界経済見通しの改定版を発表しました。それによると、世界の実質GDP成長率は2023年の3.1%から2024年3.2%、2025年3.2%と予想しています。前回予想(2024年1月)と比較すると、2024年で0.1%ポイントの上方修正、2025年は変わらずとなります。この要因として、多くの国でインフレ圧力が当初予測よりも和らぐなかで、世界経済見通しのリスクは昨年と比べて若干低下することが挙げられます。世界の総合インフレ率は2023年の6.8%から2024年に5.9%、2025年には4.5%と安定的に鈍化する見込みとなっています(図表1参照)。

ただし、経済成長のペースは歴史的水準と比べて低いほか、低中所得国では、より高い生活水準へ追いつくペースが鈍化しており、世界経済の格差が根強いことを示唆しています。こうした環境下で、金融政策当局は、インフレがスムーズに落ち着くようにしなければなりません。財政政策は、予算の柔軟性を確保し、優先的に投資に充てる余裕を作るため、或いは債務の持続可能性を確保するために財政再建に改めて注力する必要がありますが、先進諸国ではこうした問題への取り組みは十分ではありません。コロナ禍での財政支出拡大に加えてインフレ対策としての補助金等の財政支出拡大によって、各国ともに財政政策の選択肢は狭まっています。成長をパンデミック前の時代の高い平均水準へ押し上げ、高い所得水準への収斂を加速するためには、供給サイドを強化する改革を加速させることが不可欠となります。また、地経学的分断化および気候変動のコストとリスクを抑え、グリーンエネルギーへの移行を加速し、債務再編を促進するには多国間協力が不可欠となりますが、残念ながらこの点も十分な取組みがなされているとは言い難い状況となっています。

図表1 主要国・地域における実質GDP成長率

(2)金利高は住宅市場を通して消費者や家計支出に影響を与えることになる

金利高の影響を厳しく受けている者とそうでない者がいるのは何故でしょうか。IMFでは、住宅ローン市場と住宅市場の動向を基に、金融政策の効果を国別、時期別に調査しました。金融政策は以下の地域でより大きく影響しています。すなわち、①固定金利の住宅ローンが一般的でない地域、②住宅購入者がよりレバレッジを効かせている地域、③家計債務が高い地域、④住宅の供給が制約されている地域、⑤住宅価格が過大評価されている地域、となります。こうした要素は国によって大きく異なるため、金融政策の効果が大きい国もあればそうでない国もあります。

住宅ローンは家計債務の最も大きな割合を占めており、住宅は家計にとって唯一の重要な資産である場合が多くなっています。不動産は、大半の国において、消費や投資、雇用、消費者物価の大きな部分も占めています。住宅価格に比して住宅ローン額がより大きい国や、家計債務の対GDP比が大きい国の方が、金融政策の影響が大きくなる傾向があります。そのような環境においては、より多くの世帯が住宅ローン金利の変動にさらされることになり、家計の資産に対する債務の比率が高いほど影響が大きくなります。固定金利の住宅ローンの固定期間が短い地域では、家計が依然として金利上昇に伴う金融政策の打撃を受ける可能性があることを重要視しなければなりません。

(3)世界経済の中期的成長が弱まりつつある

世界経済を押し上げる原動力は弱まりつつあり、中期的な見通しに疑念が生じています。世界経済は厳しい現実に直面しています。‌世界経済成長率の伸びは、循環的な浮き沈みを除けば、2008~2009年の世界金融危機以降、着実に減速しています。‌政策介入と新技術の活用がなければ、過去のような高い成長率は戻って来ないでしょう。国連の予測によると、人口圧力は主要国の大半において高まるとみられています。世界の労働供給が不均衡になり、世界的な成長が鈍る見通しです。‌低所得国及び一部の新興市場国では労働年齢人口が増加する一方で、中国と先進国の大半(米国を除く)は、労働力の圧迫に直面するでしょう。このため、生産性を向上させ、AIを最大限活用する改革が、中期的な成長を回復させるための鍵になると思われます。市場競争、貿易の開放性、金融アクセス、労働市場の柔軟性を強化するための焦点を絞った政策措置が、世界経済成長を2030年までに約1.2%ポイント引き上げる可能性があることが示唆されています。AIが労働生産性を強化する潜在力は不確実ですが、その採用と労働力への影響次第で、場合によっては世界的成長を0.8%ポイント程度引上げると考えられています。

(4)主要新興市場国による世界経済に与える影響が大きくなっている

主要20か国・地域(G20)の主要な新興市場国が世界経済に与える影響力が高まっています。過去20年間で新興市場国の世界市場への統合が進んだことにより、世界各国に与える経済的な「波及効果」が増大しています。中国をはじめとする主要新興市場国(中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカ)の成長見通しが弱まっていることを受けて、景気減速による影響が世界経済の中でどのように伝播し得るのか理解しておくことは、G20新興市場国だけでなく、その影響を受ける可能性のある国(日本、米国、欧州及び発展途上国)にとっても極めて重要になります。G20新興市場国の成長減速を端緒とするマイナスの影響は、特に供給サイドのショックを伴って波及し、先進国においてインフレ率が鈍化するうえでリスクが生じ得ることになります。‌その他の新興市場国や発展途上国においても、波及効果は増大し、成長と所得の増大が低下するリスクが高まることになります。‌製造大国としての役割とグローバル・バリュー・チェーンへの高い影響力を考えれば、中国の景気減速は特に大きな痛手になると懸念されています。一方で、G20の主要新興市場国の役割が高まっているということは、すなわち世界経済に貢献できるということになるわけです。各国で妥当な成長加速が起これば、世界でプラスの波及効果を生み、全体成長率を押し上げる可能性があるわけです。

図表2 IMFによる2024年、2025年の世界経済見通しのポイント
(1)世界経済成長率は不変
 IMF(国際通貨基金)による2024年と2025年の世界経済成長率のベースライン予測は、2023年と同じペースの3.2%と成長が見続く見通しである(成長率は不変)。
(2)新興国・発展途上国の成長率はやや鈍化する見通し
こうしたなかで、新興国。発展途上国の経済成長率は、2023年の4.3%から2024年と2025年は何れも 4.2%とやや鈍化する見込みであり、先進国の加速を相殺する形となる。
(3)世界のインフレ率は安定的に鈍化する見込み
世界のインフレ率は、2023年の6.8%から2024年は5.9%、2025年には4.5%と安定的に鈍化する見込みである。先進国は新興国・発展途上国よりも早くインフレ目標に達するとみられる(インフレ収束の方向)。
(4)ユーロ圏の成長率が前回予想比で鈍化する見通し
ドイツ、フランス、イタリアといったユーロ圏では2024年、2025年何れも前回予想に比べて成長率が鈍化する 見込みである。原油などのエネルギー価格上昇がボトルネックになるとみられている。
(5)新興国・発展途上国では中国の成長率が低下傾向にある
新興国では、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の経済成長率は前回予想を上回るもの の中国の成長率は4%にとどまる見通しである。新興国の牽引役は中国からインドへと変わりつつある。

(5)2024年の世界経済に対する上ぶれ要因と下振れリスク

2024年以降の経済見通しに関する上振れ要因として、①燃料価格の下落が予想以上に物価に反映されること、②失業率が低下して労働需給が改善すること、③企業がコスト上昇を吸収して利益率が改善すること、④インフレが予想以上に速く鈍化すること、といった要因が考えられます。米国では、個人消費と設備投資の好調を背景に、2024年の経済成長率は前回予想の2.1%から2.7%へ上方修正されています。また、特に先進国において、人口知能(AI)の浸透が労働生産性や所得を押し上げる効果に寄与すれば、先進国地域の経済成長率を押し上げる可能性が高まっていくと期待されています。

一方、2024年以降の経済見通しに関する下振れリスクとして、①(戦争などによる)地政学的ショック、気象ショックを背景にした一次産品価格が急騰すること、②インフレの高止まりによる金融引き締め強化、③中国の成長率鈍化、④新興国における債務危機の台頭、等が挙げられます。特に、中国の経済や財政は、不動産市場に過度に依存しているため、不動産市場が想定以上に縮小すれば、民間需要の落ち込みとともに、財政収支の悪化、デフレ経済への転換といった悪いシナリオが現実化する可能性が高まるとIMFでは警告しています。中国当局による不動産市場に対する対応が遅れれば、中国の2024~2025年の実質経済成長率が4%を割り込む恐れがあるとしています。今や中国経済の動向が、世界経済にとっての最大のリスク要因であると言っても過言ではありません。

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穗積 拓哉
チーフ・インベストメント・オフィサー
穗積 拓哉
Takuya Hozumi
2008年に日興コーディアル証券(現:SMBC日興証券)に入社。 五反田支店、八重洲支店で個人・法人向け資産運用コンサルティング業務を経験し、 アセットマネジメント・マーケティング部にて投資信託のマーケティング業務にも携わる。 2014年より、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。ウェルスマネジメント・リサーチ部において、 グローバル株式チームの実質的なトップとしてMUFGの金融市場に対する公式見解であるハウスビューの作成業務に従事。 超富裕層向けポートフォリオの構築や資産の期待リターン、リスク推定、各種分析モデルのプログラム開発なども担当する。 2023年にIFA Leadingの創業に参画。