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2024.07.08 コラム

コングロマリット・ディスカウントとは何か

コングロマリットは日本のような人口減少国では必要な企業戦略でした。ただ、事業を多角的に展開すれば良いわけではなく、それぞれの事業を単体で展開している企業と比較して株式市場からの評価が低い状態(コングロマリット・ディスカウント)が続いている企業も多いのが現状です。この記事ではコングロマリット・ディスカウントについて解説します。

(1)投資家は企業に対して「選択と集中」を求めている?

少し前から「コングロマリット・ディスカウント」という言葉が聞かれるようになりました。これまで我が国では、企業活動において事業の総合化がもてはやされた時期がありました。本業のみならず本業の周辺に関わるさまざまな事業に関与することで、企業は売上高及び利益を成長させることが出来るという考え方です。20世紀までは、経営多角化、新規事業への進出を積極的に行う企業こそ投資家に評価されていました。本業と新規事業とのシナジー効果によって企業体質が一段と強くなるという期待があったからです。このことは経済全体のパイが膨らんで、国全体の成長率が高いという前提で成り立っていました。

ところが、バブル崩壊によって国全体の成長率が鈍化し、経済全体のパイが膨らまなくなってしまいました。こうしたなかで2000年以降の株式市場では、「選択と集中」という評価軸が広がっていきました。「選択と集中」とは、本業に集中して、安易な多角化事業や新規事業への進出は好ましくないという考え方です。その企業が持っている本業に集中してこそ、業務効率化が実現でき、収益力が向上するというものです。二兎を追うものは一兎も得ずといったところでしょうか。

(2)コングロマリットとは何か

コングロマリットとは、異業種の統合によって成り立っている企業のことを指しています。異業種といっても全く畑違いの事業ではなく、例えば、音楽・教育・出版等の事業を同時に行う企業をコングロマリット企業として取り上げられることがあります。何れも広義の文化に関わる事業であり、一定のシナジー効果があるという捉え方が出来ます。また、証券、保険、ノンバンクといった関連性の近い分野で成り立っている場合もコングロマリットに該当するといえるでしょう。かつては、調味料事業に特化していた食品会社が、加工食品や飲料事業に進出するのもコングロマリットといえます。何故、コングロマリットが必要なのかというと、我が国では市場規模がそれほど大きくないため、単一事業だけに取り組んでいては売上高の成長が見込めないからです。特に、昨今のような人口減少社会になると、創業来の事業だけにこだわっていては企業の存続が困難になってしまうかもしれません。そこで、周辺事業を強化したり、多角化事業或いは新規事情に進出したりして、売上高の増大を図ってきたのです。

(3)総合〇〇企業は時代遅れなのか?

こうした流れはあらゆる業種に波及していきました。そして、コングロマリット企業は総合〇〇と称されるようになったのです総合建設(ゼネコン)しかり、総合化学しかり、総合電機しかり、総合商社しかりです。さらに、メガバンクは総合金融グループと称し、セブン&アイグループやイオングループは総合小売グループとして業界のリーダーとしての地位を確固たるものにしてきました。ここでいう業界のリーダーとしての地位とは、売上高、従業員数、店舗数といった規模の尺度に基づくものです。しかし、投資家は必ずしもこうした尺度を評価していないのが実情です。コングロマリット企業に対して、ある特定の事業に特化している業態は「選択と集中型」企業と言われています。それぞれの業界で、コングロマリット企業と選択と集中型企業が対峙している構図は興味深い事象といえそうです(図表1参照)。

図表1 代表的な業種におけるコングロマリット企業と「選択と集中型」企業の事例

(4)選択と集中型企業のメリットとデメリット

それでは、選択と集中型企業のメリットとデメリットとしてはどのようなことが考えられるのでしょうか。選択と集中型企業とは、ある事業に集中して経営資源を投入する企業のことを言います。現実的には一つの事業にだけに特化するというケースは稀ですが、特定の事業に経営資源を集中させることで企業価値を高めるといったケースがあります。例えば、ある食品会社はさまざまな加工食品の製造販売を手掛けていました。ところが、どれも商品の差別化が難しく、利益率を高めるのに苦労していました。その会社は冷凍技術に長けていて、消費者からは冷凍食品の品質に対して高い評価を得ていました。そこで、常温食品については収益の高い品目だけ残して撤退し、冷凍食品事業に経営資源を集中することにしました。流通事業者や消費者からは不満の声が聞かれましたが、時間を掛けて事業再編を行ったことで大きな混乱を避けることが出来ました。

この会社にとって、海外進出はかねてからの念願でした。ある世界的なスポーツイベントで選手やスタッフがこの会社の冷凍食品を口にして、やがて海外メディアに取り上げられて、海外の物流事業者から提携話が持ち掛けられました。その後、現地生産が始まり、今では現地企業による冷凍食品として現地の消費者に受け入れられるようになりました。つまり、得意分野に集中することで創意工夫が生まれ、イノベーションを創出することに成功したのです。いつまでも常温食品にこだわっていては、こうしたストーリーは生まれなかったかもしれません。とはいえ、選択と集中はメリットばかりではありません。事業縮小や撤退によって人員整理を余儀なくされるかもしれませんし、経営資源を集中した特定の事業が必要とされなくなったら経営危機に陥る可能性もあります。それでも、選択と集中という戦略は、デメリットよりもメリットの方が大きいと認識されているようです(図表2参照)。

図表2 選択と集中型企業のメリットとデメリット

(5)何故、コングロマリット企業はディスカウントされるのか

ここで、何故、コングロマリット企業はディスカウントされるのかについて考えてみましょう。コングロマリット・ディスカウントとは、さまざまな事業を多角的に展開している企業グループにおいて、それぞれの事業を単体で展開している企業と比較して、株式市場からの評価が低くなっている状態のことを示しています。こうしたなかで、コングロマリットによって成功を収め、プレミアムを享受している企業としてソニーが挙げられます。ソニーと言えば、「ウォークマン」や「VAIO」が一世を風靡しましたが、「ウォークマン」は「iPod」に取って代わられ、パソコン事業は外部譲渡してしまいました。現在では、ゲーム&ネットワークビジネス、音楽、映画、エンターテイメント・テクノロジー&サービス、イメージング&センシングソリューション、金融といった複合事業によって会社が成り立っています。しかも何れの事業も一定の収益力を誇っており、「お荷物」となる事業を抱えていない状態となっています。当初、ソニーが映画事業に参入すると発表した時、株式市場は好意的ではありませんでした。電機会社にエンターテイメントが分かるはずがない、というネガティブな評価でした。あれから30年余が経過し、ソニーの映画事業は動画配信サービス等にも参入し、収益の柱としての地位を確固たるものにしています(図表3参照)。

図表3 コングロマリットにおけるディスカウントとプレミアム

(6)コングロマリット企業の生き残る道とは

コングロマリット企業が生き残るにはどうしたら良いのでしょうか。まずは、常に企業の体形を絞って、新規事業への進出、既存事業からの撤退にスピーディに取り組むことが大切となります。また、経営の視点を短期から中長期に切り替えることも重要になります。さらに、当該企業が展開している事業がサステナブル(持続可能)かどうかといった視点も大切です。業種を問わず、現在の主力事業は将来も主力事業であり続けると考えがちです。現実はどうでしょうか。長きにわたって、証券会社は株式委託手数料こそが収益源でした。しかし、手数料自由化、ネット取引の拡大によって、株式委託手数料は大きく引き下げられました。かつては、総合証券会社が証券業界の花形とされてきました。しかし、現在ではネット証券や異業種からの参入組に苦しめられています。こうした事象はさまざまな業界で起こっており、ネームバリューや規模のメリットだけでは通用しない経済社会になっていくのではないでしょうか。

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村松 麻衣子
ウェルスマネジメント戦略部マネージャー
村松 麻衣子
Maiko Muramatsu
2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、浜松支店にて資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。