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2024.05.07 コラム

移民大国への道は正しいのか 外国人定住者は増え続ける見通し

移民に関しては、現在日本は移民政策をとっていません。労働力不足を補っていくにはどうすればよいのか、今後の外国人定住者の見通しを含め解説します。

(1)昨今、人手不足が一段と深刻化している

わが国の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少局面に入り、2024年4月時点ではピークから408万人減少し、1億2,400万人となっています。国立社会保障・人口問題研究所によると、出生率の水準、平均寿命推計、外国人の入国超過人数の増加等を勘案して、わが国の人口は2070年には8,700万人まで減少するとみられています。既に、人口減少はさまざまな分野で影響が出てきています。わが国にとって最も大きな問題は人手不足問題であり、2023年以降、人手不足による公共サービスの低下、飲食店や小売店での営業時間短縮、電車やバスといった公共交通機関の減便、供給力減少により企業活動に支障をきたすといった問題がクローズアップされています。こうした問題に対して、定年延長による労働力の確保、時給アップによる処遇の改善、AI化・ロボット化による業務対応を行っていますが、どれも決め手とはなっていないようです。

(2)移民の定義とわが国の状況

ここで、移民の定義について整理してみましょう。国連の定義によると、「移民とは出生地以外の国で1年間暮らした市民」となっています。これに対してわが国では、「入国した時点で永住権を持っている市民」が移民であるとされています。しかし、日本政府は移民政策を取っていないことから、厳密には定義されていないのが実態だと思われます。わが国の場合、外国籍で日本国内に居住している人を在留外国人と称しています。在留外国人は2023年時点で322万人に達しており、総人口の2.6%を占めています。在留外国人の人数は1990年から今日に掛けて3.1倍に膨らみました。そして322万人という人口は、静岡県(全国都道府県10番目)の人口に近い水準となります。

(3)在留外国人の国別動向

わが国の在留外国人の推移をみると、年々増加傾向をたどっており、2013年から2023年にかけて年率4.5%の伸びを示しています。なかでも、ベトナム、ネパール、インドネシア、ミャンマーといった国は年率20%前後の高い伸び率となっています。ベトナムは、2013年では在留外国人全体に占める割合が3.5%に過ぎなかったのですが、2023年16.1%と中国に次ぐ水準にまで高まりました。2015年頃までは在留外国人のうち3分の2以上を中国、韓国、フィリピン、ブラジルの4カ国で占めていたのですが、2016年頃からはベトナム、ネパール、インドネシア、ミャンマーといった国々の割合が高まってきた結果、在留外国人の出身国の分散が進んできました。1990年代までのわが国は比較的経済力が高かったために、安価な労働力を求めて日系人やアジアの人々の在留を歓迎する風潮にありました。その後、わが国で少子高齢化が進展するにしたがってさまざまな分野で人手不足が問題となってきました。当初はフィリピン出身者が介護施設で仕事をするといった動きにとどまっていましたが、やがてコンビニ、工場、農業、漁業、建設現場といった職場でも人手不足が深刻化してきたためにアジア出身の若年層労働者の在留が増えることになりました。

図表1 日本における在留外国人の国別動向

(4)在留外国人の在留資格別割合

次に、2023年における国別在留資格別割合を見てみましょう。まず、中国、フィリピン、ブラジル出身者は「永住者資格」の割合が大きいことが特徴となっています。永住者とは、①日本に10年以上継続して在留し、②日本人と同様に自由に就労することができ、③独立の生計を営む資産または技能を有するヒト、とされています。また、在留カードを携帯する義務があり、雇用時の外国人雇用状況届出が必要とされています。こうしたなかで、ベトナム、インドネシア、ミャンマーなどの出身者は「技能実習資格」の割合が大きいことが特徴です。技能実習とは、日本で培われた技能、技術または知識を開発途上地域などに移転し、当該地域の経済発展に寄与することを目的とした制度です。1993年に創設され、外国人の技能実習生が日本の企業や個人事業主と雇用関係を結び、出身国では修得が困難な技能を修得・習熟・熟達するために最長5年間滞在できる制度となっています。

図表2 日本における在留外国人の在留資格別割合

(5)在留外国人が増加することによるメリットとデメリット

さて、在留外国人が増加することによるメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。メリットとしては、第一に外国人労働者を受け入れることで労働者不足が緩和されることが期待されます。わが国の人手不足はさまざまな分野に広がっており、最近ではタクシー、バス、鉄道といった公共交通機関の運行にも支障をきたすようになってきたことから、運転手資格を在留外国人にも門戸を広げようという動きも出てきています。第二のメリットは異文化に触れることで旧態依然とした風習や考え方を変えて新しいアイディアやビジネスチャンスが広がることが挙げられます。わが国は島国であり、欧米諸国等に比べて諸外国との交流が少なかったことがグローバル化に遅れた一因とされてきました。在留外国人が増えることによってグローバル化のスピードが高まると考えられます。そして第三のメリットは多様化の進展です。在留外国人の増加によって職場や地域社会において革新性や柔軟性を高めることができるようになるのではないでしょうか。性別、年齢、出身地、肌の色、宗教など多様な人々が集まる職場は活気に溢れており、そうした企業は高い成長を実現しています。多様性のある地域社会では、多国籍料理のレストランがオープンしたり、海外に根ざしたイベントが開催されたりして活気ある街に変貌していくことになるでしょう。

一方で、在留外国人が増加することによるデメリットにも注意しなければなりません。一口にデメリットと言ってもさまざまですが、基本的には文化や風習の違いに起因した軋轢やトラブルです。在留外国人のなかには同胞だけでコミュニティーを形成して日本人或いは同胞以外の外国人との交流が進まないケースがあるようです。さらに、宗教・政治・文化の対立によってコミュニティーが分断されてしまうことも考えられます。基本的には、日本に在留している場合には日本人であっても外国人であっても日本のルールを守って生活しなければならないことは言うまでもありませんが、外国人の文化を尊重することも必要です。例えば、イスラム教徒に対してはお祈りのための礼拝場所を用意したり、豚肉やアルコールなどを除いたハラル基準に適用した食事を提供したりすることで、共存できる社会を作ることができるようになります。また、在留外国人を「安い労働力」とみなすことは、将来の労働移民が減少してしまうことに繋がってしまうかもしれません。

図表3 在留外国人が増加することによるメリットとデメリット
(1)労働力不足の解消 ⇨ わが国経済・社会にとっての最大の課題のひとつは「人手不足」による影響
メリット:外国人労働者を受け入れることで労働力不足が緩和
デメリット:就労ビザの申請や在留資格の変更などの手続きが煩雑
(2)インバウンド市場 ⇨ 2024年3月の外国人旅行者が月次ベースで過去最高を更新するなどインバウンド市場の拡大継続
メリット:外国語や異文化に対する理解によりコミュニケーションが円滑に
デメリット: 外国人同士による宗教・政治・文化の対立的が顕在化する
(3)グローバル化への取り組み ⇨ 経済・政治・社会においてグローバル化の流れが益々加速化している
メリット:異文化に接することでアイディアやビジネスチャンスが広がる
デメリット:外国人の同胞だけで閉鎖的なコミュニティーを形成してしまう
(4)新市場に対する開拓 ⇨ 少子高齢化の進展に伴う国内市場低迷で新市場の開拓が求められている
メリット:在留外国人の出身国に対する文化への理解がビジネスチャンス
デメリット:海外諸国に対する理解や認識不足はトラブルの元となる
(5)企業における競争力 ⇨ 外国人の活用によって生産性向上を実現する可能性が高まる
メリット: 多言語対応や生産性の向上により企業の競争力を高められる
デメリット:外国人を安価な労働力としてみていると、予期せぬしっぺ返しも
(6)行動や思考の多様性 ⇨ 多様化社会が上手くいくかどうかは「革新性」「柔軟性」「異文化に対する尊重」といった意識が大切である
メリット: 職場や地域社会において革新性や柔軟性を高められる
デメリット:出身国の食事、文化、風習、習慣、宗教などへの尊重が重要
(7)日本の移民は永住型中心 ⇨ 永住型移民を多く受け入れて共生社会のなかで経済成長を目指すことが大切である
メリット: 我が国の労働移民は諸外国に比べても永住型が増加傾向
デメリット:低賃金によるモチベーション低下で将来の労働移民が減少する

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村松 麻衣子
ウェルスマネジメント戦略部マネージャー
村松 麻衣子
Maiko Muramatsu
2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、浜松支店にて資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。