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2024.01.11 コラム

中国経済の先行きに暗雲、失われた30年に突入するのか

中国経済の先行きに暗雲が立ち込めていると見られています。驚くべきスピードで発展を繰り返してきた中国ですが、失われた30年に突入してしまうのか。1980年代後半に崩壊した日本の不動産バブルと比較して、中国経済の現状と中国が持つ重い課題について解説します。

(1)中国経済の実態は先行きに暗雲が立ち込めている

中国のGDP(国内総生産)は2010年に日本を追い抜いて世界第2位となり、2030年代半ばには米国を凌駕し世界トップに躍り出るとみられています。しかし、その先行きには暗雲が立ち込めています。現在のところ、中国経済の先行きに対するコンセンサスは固まっていませんが、2030年代半ばに米国経済を追い抜くというシナリオは後退しつつあるようです。その要因としては、ゼロコロナ政策の長期化に伴う消費マインドの低下、不動産市況悪化による経済活動の低迷、人口減少社会突入による年金や医療費といった社会的コストの増大等が挙げられます。コロナ禍でのゼロコロナ政策に対する評価はともかくとして、不動産市況悪化と人口減少社会についてはかつてわが国が通ってきた道であり、今後中国がどのような政策によって経済低迷を乗り越えていくのか注目されるところです。

(2)中国経済は底割れを回避できるかの正念場にある?

ゼロコロナ政策を解除したのち、中国経済は2023年に入って急回復したものの、その後は減速傾向が続いています。中国経済の状況は、①雇用・所得環境悪化に伴う消費活動の低迷、②米中貿易摩擦に端を発する貿易額の減少、③財政悪化を背景とするインフラ投資(≒公共投資)の減少、④不動産不況による住宅投資マインドの低下、等が影響しているといえそうです。また、中国の株式市場は、欧米や日本といった西側先進国の株式市場が活況を呈しているなかで、過去5年間ボックス圏で推移しています。株価決定要因はさまざまですが、少なくとも株式投資家からは中国経済の先行きは決して明るくないとみられているのではないでしょうか。

現在の中国経済の状況と先行き~底割れを回避し底入れを模索する動きか。
主要指標が底打ち?ただし、不動産市場の悪化、貿易額の低迷は中国経済全体の足を引っ張っている。
(1)ゼロコロナ政策解除後のリバウンド需要が予想よりも早く終息し、2023年春以降の経済活動は減速。
(2)ただし、2023年後半は固定資産投資(≒公共投資)の回復、小売売上高回復で明るい兆しも見えている。
(3)しかし、2024年以降は不動産市場の悪化、建設投資の低迷、貿易活動の停滞等から景気下押し圧力も
→不動産市況悪化によって建設投資、事業及び自動車需要の低迷を誘発すると懸念されている。

貿易及び対中直接投資の減少傾向が続いている。貿易額は対日、対米が大きく減少。外資による投資も減少。
(1)輸出額は、2023年4月以降大幅に減少。EU、ASEAN、ロシア向けは増加しているが、日米向けが減少。
(2)一方、資源国からの輸入額は増えているが、ASEAN、日本などからの輸入回復は緩慢な動きに終始。
(3)2023年1~8月の対中直接投資(ドル建て)は、前年同期比12.5%減少。日本からの投資は25%減。
→サプライチェーン再編の動きが強まっているため、今後も対中直接投資は減少が続く公算大。

(3)不動産市場を取り巻くバブル期の日本と現在の中国との比較

ここで、不動産市場を取り巻く状況について、バブル期の日本と現在の中国を比較してみましょう。1980年代後半、日本のバブルは不動産市場と株式市場において発生しました。バブルを定義することは難しいことですが、余りにも投資尺度からかけ離れた価格が形成されてしまう状況を指しているのではないでしょうか。また、バブルが崩壊すると不動産や株式市場といったバブルの元凶である市場が大きなダメージを受けることは勿論のこと、実体経済にも大きな影響を及ぼします。我が国の場合、賃金上昇が止まり、株価が長期で低迷し、デフレ経済の長期化によって「失われた30年」に陥ってしまいました。それでは、中国経済・社会は今後どのように推移していくのでしょうか。2021年までの中国はバブル当時の日本と同様或いはそれ以上に不動産価格が高くなっていました。中国の不動産価格は、2010年以降、年率10%以上のペースで上がり続けていました。バブル期の日本の不動産価格も年率10%前後の高い伸び率を示していました、しかし、2022年以降、中国の不動産価格は下落に転じており、値下げをしてもなかなか買い手がつかない状況となっています。

(4)バブル期の日本は、財政は健全で人口は増加基調にあったが、現在の中国はというと…

バブル期の日本は、現在とは異なり、財政状態は比較的健全でした。人口のピークはバブル崩壊からおおよそ20年後であり、バブル処理のための時間が残されていました。これに対して現在の中国では、既に財政収支が悪化しており、GDPに占める公的債務比率も積み上がっています。さらに、中国では2022年には人口減少社会に突入し、生産年齢人口(15~64歳)の減少と高齢化比率の上昇によって、これまでのような高い経済成長を実現するのは難しくなると言われています。また、中国の場合、地方政府の財政収入のうち約4割が土地利用権売却益によって捻出されており、不動産バブル崩壊は地方政府の財政を直撃することになります。こうした状況を打破するためには、不動産向け融資を規制して、減損処理を進めるといったハードランディングの道しか残されていません。しかし、その場合、中国資本の引上げといった形で我が国の不動産価格が下落することも想定しなければならないかもしれませんが、我が国の良質な不動産がドンドン下落するといった事態は想定しにくいと思います。

不動産市場を取り巻く現在の中国とバブル崩壊後における日本との比較。
雇用の不安定化に伴う不動産市場への影響。若年層を中心とした失業率の高まり。不動産需要の縮減。
(1)日本の若年層(16~26歳)の失業率は1994~2003年にかけて上昇傾向を辿り、10%強を記録した。
(2)中国では2018年以降。若年層の失業率が高まり、直近では20%に達している。→就職氷河期へ突入か?
 →若年層の失業率が高止まりすると、住宅取得マインドが下がって、住宅不況が長期化する懸念?
 →失業率の高止まりを背景に、就業者の減少に伴ってオフィス、店舗といった不動産需要が減退する?

不動産市況低迷に伴うマクロ経済への影響。債務返済優先による経済活動の低迷、財政収支の悪化、成長率の低下。
(1)日本の土地時価総額はバブル期に膨張し、GDPの5倍程度にまで膨らんだと推察される(現状2倍程度)。→バブル崩壊によって、企業も家計も債務返済を優先したため経済成長率は大きく下押しされた。
(2)中国の住宅時価は、すでにGDP対比で5~6倍に達しているとみられており、バブル期の日本に匹敵か?
(3)中国の場合、地方政府の財政収入のうち約4割が土地利用権売却益によって捻出されるという仕組み。→不動産事業に依存した地方財政によって、インフラ投資抑制?公債発行による財政収支悪化?

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