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企業倒産が増加傾向に コロナ禍後の企業淘汰時代
企業倒産が増加傾向にある昨今の状態を、過去の倒産データや、直近の倒産理由などを基に解説し、それらを踏まえた上で2024年度の見通しを解説していきます。
- (1)コロナ収束につれて企業の倒産件数が増えている
- (2)産業別倒産件数は10産業すべてで前年実績を上回った
- (3)倒産は「人件費高騰」、「物価高」、「人手不足」の3つに集約
- (4)意外な業態での倒産件数が増加している動きに注視
- (5)2024年度の倒産件数は1万件を超える見通し
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目次
(1)コロナ収束につれて企業の倒産件数が増えている
東京商工リサーチによると、2023年度の全国の企業倒産(負債総額1,000万円以上)は、件数が9,053件(前年度比31.6%増)、負債総額は2兆4,630億円(同6.0%増)となりました。件数は2年連続で増加し、2014年度以来9年ぶりに9,000件台に乗せました。増加率31.6%増は2022年度の15.1%増から大きく増加しました。また、負債総額は、負債1億円未満が6,723件(構成比74.2%)と小規模倒産が主体となっていますが、同100億円超の中堅企業が19件(前年度比46.1%増)と1.4倍に増え、全体を押し上げました。なお、負債総額の伸び率が鈍化したのは、前年度は大型倒産のマレリホールディングス(株)(埼玉、負債1兆1,330億円)が全体の負債額を押し上げた影響によるものであり、この点を考慮すると中堅企業を中心に負債総額は膨らんでいるといえそうです(図表1参照)。
(2)産業別倒産件数は10産業すべてで前年実績を上回った
2023年度の産業別倒産件数は、2年連続10産業すべてで前年実績を上回りました。最多は、サービス業他の3,028件(前年比34.9%増)で、14年振りに3,000件台に乗せました。次いで、人手不足や資材価格の高騰などが顕著な建設業が1,777件(前年比39.5%増)、円安による原材料やエネルギーのコストアップが続く製造業が1,066件(同25.4%増)などとなっています。また、負債総額では、製造業、金融・保険業、不動産業、建設業、運輸業などがそれぞれ大きく増加しました。不動産業、建設業、運輸業においては、昨今における人手不足によって、現場が回らなくなっていることが大きく影響しているものと推察されます。こうした産業の倒産リスクは今後とも高水準が続くものと思われます(図表2参照)。
(3)倒産は「人件費高騰」、「物価高」、「人手不足」の3つに集約
2023年度の倒産理由を整理すると、「人件費高騰」、「物価高」、「人手不足」に集約されると思われます。人件費高騰については、人手不足の蔓延によって、幅広い産業で賃金を引き上げなければヒトが集まらない状況になっていることが大きく影響しています。都心部の飲食店では、今や最低時給では誰も応募してこなくなったという声も聞こえてきます。また、コロナ禍での「ゼロゼロ融資」の返済期限が到来して、資金繰りが悪化したため倒産に追い込まれたという話もあります。そもそも「ゼロゼロ融資」とは、コロナ禍で資金繰りに窮していた中小・零細企業を対象に、非常手段として「実質無利子・無担保で融資する」という制度だったのですが、その後の経営改善が進まずに返済に苦慮しているケースがみられています。返済のピークは当初の今年4月末から6月末まで延長することになりましたが、7月以降は中小企業の経営改善や事業再生への支援が一段と必要とされるのではないかと思われます。また、今後は借入金利が上がってくるとみられていますが、採算性の低い事業を続けている中小企業では、資金繰りの逼迫が倒産の引き金になるかもしれません(図表3参照)。
(4)意外な業態での倒産件数が増加している動きに注視
こうしたなかで、2023年度は原材料や人件費の高騰などが原因でラーメン店やパン屋など複数の業種で倒産件数が過去最多になったことがわかりました。それによると、2023年度のラーメン店の倒産(負債1,000万円以上)は63件で、前年度の2.7倍と大幅に増加しました。また、パン屋の倒産は前年度比85.0%増の37件となり、何れも倒産件数は過去最多を更新しました。5類への移行で新型コロナウイルスの影響が少なくなった一方で、小麦などの原材料価格や人件費、光熱費の上昇が経営に影響したためとみられています。
このほか発行部数減少や人手不足が影響する新聞販売店(前年度比56.0%増の39件)やコロナ禍以降客足が戻らないエステサロン(同69.6%増の95件)でも倒産件数が過去最多となりました。新聞販売店はネット媒体の情報発信拡大によって新聞発行部数が一段と減少している問題に加えて、配送にかかる燃料費、人件費などのコストアップが経営を直撃していることが影響しています。また、エステティック業は参入障壁が低く、小資本での開業が可能ですが、競合先が多いほか回数券方式によって顧客の前払い金を事業拡大の原資にするビジネスモデルが問題視されています。このため、一定の規制が必要な時期を迎えているといった見方が増えているようです。今後はこうした業態の倒産予備軍に注意しなければならないと思われます。
(5)2024年度の倒産件数は1万件を超える見通し
コロナ禍に実施されたゼロゼロ融資では、都道府県の利子補給により当初3年間は実質無利子だったものの、多くの借り入れ企業で3年が経過し、すでに利払いがスタートしています。また、マイナス金利解除を受けて借入金利が上昇すれば、企業にとっては借り換えのタイミングなどで支払い利息がさらに上乗せされることになります。こうした影響を最も受けるのは、低金利下におけるリスク等の支援策を受けながらも収益改善が進まず、本業の利益で借入金の利払いができない状態に陥っている「ゾンビ企業」と言えるのではないでしょうか。今後は、金融政策が正常化に向かうなかで、ゾンビ企業の淘汰が進むとみられています。
ちなみに、「淘汰」というとネガティブな印象となりますが、産業の「新陳代謝」を進めるうえで必要なプロセスともいえるのではないでしょうか。むしろ、生産性の低いビジネスモデルや企業を温存させることによる弊害の方が問題です。幸いなことに過去の倒産増加局面とは異なり、雇用関連の指標はそこまで悪化していません。2024年度の倒産件数は1万件突破が視野に入ってくるとみられますが、今すぐ経済危機につながる状況にはありません。多くの企業が人手不足の解消に頭を悩ませるなかで、事業や雇用を別会社に承継するスキームも目立っています。今こそ、新陳代謝を促すことこそが経済成長にとって不可欠な取組みであるとの認識を持つべき時なのかもしれません。