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2024.06.04 コラム

百貨店業界の復権~百貨店業界は劇的な復活を遂げている

百貨店は、コロナ禍においては衰退産業の代表格とされてきましたが、足元での大手百貨店は過去最高益を更新する見通しです。大手百貨店が復活に至った要因や、その他の小売業界の情勢をこの記事では解説します。

(1)主要小売業界の業績は業態によってマチマチ

わが国のGDPのうち6割は個人消費で占められており、消費活動の盛衰は経済全体に大きな影響を与えているといっても過言ではありません。すなわち、消費活動が活発になれば、経済成長率は高まることが期待される訳です。消費活動が活発な地域では、さまざまな業態の小売店舗が開設され、人流が増加し、おカネを落としてくれます。ここでは5月に公表された主な小売企業の決算を基に、業態別動向について整理してみたいと思います。また、百貨店についての売れ筋商品、今後の行方についても考えてみたいと思います。

小売業界のなかでの百貨店各社の業績は2022年度以降、順調に回復していますが、三越伊勢丹、高島屋といった大手百貨店各社は2023年度に続いて2024年度も過去最高益を更新する見通しとなっています。地域別にみると、東京都の売上高の伸び率が突出して高くなっています。東京都の場合、銀座、日本橋、新宿といった都心部の百貨店が牽引役となっており、特にインバウンド、富裕層によるブランド品や化粧品の売上増が大きく貢献しています。百貨店の売上増については、2023年後半からは埼玉県、千葉県、神奈川県といった首都圏各地にも広がりつつありますが、依然として都心部が牽引役になっていると言えるでしょう。一方、都心部以外の百貨店店舗についてはそれほど大きな売上高の伸びとなっていないばかりか、店舗によっては売上高がマイナスとなっているなど地域格差が大きく広がっている模様です(図表1参照)。

図表1 主要小売企業の業績動向:2024年度予想は会社計画値

(2)総合スーパーマーケットは凋落の一途か

次にイオングループ、セブン&アイホールディングスといった大手小売業グループの動きを見てみましょう。かつては小売業界を牽引してきたGMS(総合スーパーマーケット)事業ですが、現在は凋落の一途をたどっています。現状、スーパーマーケット市場を牽引しているのは、食品スーパー、業務用スーパー、ディスカウントストア等であり、GMS事業では食品部門以外はほとんど利益が出ていないと言われています。特に、衣料品、日用品、家電については衣料専門店、ホームセンター、家電量販店等の競合店にお客様を奪われてしまったため売り場は閑古鳥が鳴いている状態となっています。このため、GMSではこれらの売り場を縮小して、100円ショップや無印良品といった専門店を誘致し、不動産収益でカバーするという収益構造となっています。

こうしたなかで、コンビニエンスストアの収益は百貨店と同様に回復傾向にあります。これは、出勤回帰に伴う都心部のコンビニ店の売上高が回復してきたことに加えて、値上げの影響によって売上単価が伸びているためです。一方、客数は減少傾向にあり、従来、コンビニを利用していたお客様の一部は食品スーパーやディスカウントストア等にシフトしているとみられています。さすがに、コンビニエンスストアがスーパーマーケットように凋落の一途をたどることは考えにくいのですが、成長局面は一巡したと言えるかもしれません。

(3)ドラッグストアは成長産業のひとつと位置付けられる

こうしたなかで、小売業界で最も成長したのはドラッグストアといえるでしょう。ドラッグストアは、地域に関係なく全地域に渡って満遍なく伸びていることが特徴となっています。ドラッグストアと言えば、コロナ禍前は外国人観光客や日本人女性が化粧品を求めて押し寄せていましたが、昨今では、調剤医薬品(院外処方薬の拡大)、OTC医薬品(市販の医薬品のカウンター販売)、健康食品の売れ行きが好調となっています。いわば、本業に回帰している動きと言えそうです。昨今では、M&Aによって地方のスーパーを傘下に入れるといった動きも活発化しているようです。一方、家電量販店、ホームセンターの売上高は全体的に冴えない動きであり、2023年度の営業利益は減益となった企業が多く見受けられました。家電量販店ではパソコン、テレビ、エアコンといった主力商品の普及率が一巡していることに加えて、価格競争によって収益力が低下傾向にあります。一方、ホームセンターの場合、園芸用品、DIY用品、ペット用品、家電・日用品、食料品、家具、衣類と多岐に渡っており、園芸用品、DIY用品、ペット用品を除くと家電・日用品、食料品、家具、衣類は家電量販店、スーパーマーケット、家具専門店等と商品が被っており、必ずしも価格優位性はありません。

(4)百貨店は衰退産業から脱しつつあるのか

さて、百貨店業界の復権についてみてみましょう。百貨店と言えば、消費マインドの長期低迷、カテゴリーキラーやセレクトショップの台頭に伴う競争力の低下、魅力的な品揃えの欠如、オンラインショッピングの台頭、コロナ禍での外出制限等によって衰退産業の代表格とされてきました。事実、地方店や郊外店では閉店が相次いでおり、2024年5月現在では3つの県(山形県、徳島県、島根県)で百貨店がありません。さらに、7月に閉店を予定している岐阜県を含めると13県で百貨店が1店しか存在しておらず、今後も百貨店の閉店が続くとみられています。こうしたなかで、都心部に立地している大手百貨店の好調ぶりが目立っています。大手百貨店の代表格である三越伊勢丹は2022年度に売上高を大きく伸ばしましたが、特に三越銀座店の売上高は2022年度、2023年度は前年比で3割を超える大幅な増加を示しています。売上高拡大の原動力となったのは、ブランド品、宝飾品、貴金属等であり、富裕層、外国人観光客の実需買いに加えて投資目的で購入しているケースもあるようです。投資目的とは、自分自身で使用するのではなく、希少価値のある商品を値上がり期待で購入して利ザヤを稼ぐというものです。また、高島屋、大丸、松屋といった大手百貨店では、都心店の好調に対して、地方店、郊外店の売上高は相対的に低調に推移しています。これは、日常は住んでいる近くのスーパーマーケットや専門店で買い物をして、ショッピングを楽しむのは都心の百貨店でといった「使い分け」が進んでいるためと思われます(図表2参照)。

図表2 主要百貨店の国内店舗別、商品別売上高動向

(5)百貨店が復権した要因を紐解くと…

ところで、百貨店が復権した要因としては、①外出機会の増加(行動制限の緩和やワクチン接種の浸透により、外出機会が増加)、②高級品への人気(海外ブランドや宝飾品・時計などは円安効果によって外国人観光客向けに売上高が大きく伸長)、③デジタル化の強化(オンライン接客アプリやウェブサイトの改善などデジタル戦略を強化)、④既存店舗の価値再定義(既存のリアル店舗について百貨店の存在意義を再定義)、といった点が挙げられます。例えば、伊勢丹新宿店や三越日本橋店は「憧れと共感の象徴」へと進化し、百貨店の再生を目指しています。但し、復権した百貨店は都心部が中心であり、地方店、郊外店は事業縮小或いは閉店を迫られています。このことは、収益性の高い不動産の価値(≒価格)は益々高くなり、収益性の低い不動産の価値は低いままということを表しています。収益性の低い不動産は収益性の高い不動産に転換するために借主やテナントの再編を迫られることになります。商業用不動産投資をする場合、テナントがどの程度の収益を稼ぐかが重要であり、そのことが不動産価値を高めることに繋がるわけです。

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穗積 拓哉
チーフ・インベストメント・オフィサー
穗積 拓哉
Takuya Hozumi
2008年に日興コーディアル証券(現:SMBC日興証券)に入社。 五反田支店、八重洲支店で個人・法人向け資産運用コンサルティング業務を経験し、 アセットマネジメント・マーケティング部にて投資信託のマーケティング業務にも携わる。 2014年より、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。ウェルスマネジメント・リサーチ部において、 グローバル株式チームの実質的なトップとしてMUFGの金融市場に対する公式見解であるハウスビューの作成業務に従事。 超富裕層向けポートフォリオの構築や資産の期待リターン、リスク推定、各種分析モデルのプログラム開発なども担当する。 2023年にIFA Leadingの創業に参画。