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2024.07.30 コラム

中国経済リスク 中国経済の動向は世界経済にとってのリスク要因

中国経済は不動産バブルの崩壊によりデフレに突入するリスクを抱えており、中国の景気減速は日本経済も無視できないほどの影響になるかもしれません。

(1)中国は「失われた30年」に突入しているとの見方

中国経済が変調をきたしています。これまで、中国は米国に次ぐ世界第2位の経済大国として世界経済を牽引してきました。さらに、2030年代初頭には米国を抜いて世界最大の経済大国になるとみられていました。しかし、コロナ禍を経て、中国に対する楽観論は少なくなってきています。中国は引き続き世界第2位の経済大国として、世界経済に大きな影響を与える存在であることは間違いありませんが、不動産バブル崩壊による経済成長率の減速、デフレ経済に突入する可能性、若年層を中心とした失業率の上昇といった大きな問題に直面しており、あたかも1990年代初頭の日本の状況のようです。これから中国は、かつての日本のように「失われた30年」に突入してしまうのか、或いは再び成長の軌道に復帰するのかまさに岐路に立たされているといっても過言ではありません。経済の専門家の間では、既に中国は「失われた30年」に突入しており、バブル崩壊後の日本の状況に比べても遥かに深刻であるといった見方もあります。

(2)中国当局のGDP統計に対して懐疑的な目が注がれている

7月15日に発表された中国の2024年第2四半期(4~6月)の実質GDP伸び率は前年同期比プラス4.7%となりました。伸び率は第1四半期のプラス5.3%から低下しました。これは、不動産不況の長期化や厳しい雇用情勢を背景に内需の停滞が続き、個人消費が伸び悩んでいることなどが主な要因であり、景気回復は力強さを欠く状況となっています。中国政府は、不動産市場の改善に向けて売れ残っている住宅を地方政府に買い取らせて、低所得者向けの住宅などとして活用する方針を示したほか、内需拡大に向けて家電製品や自動車などの買い替え促進策を進めていますが、効果は限定的だという指摘も出ています。景気のけん引役として期待される輸出についても欧米で中国製のEVに関税を上乗せする動きが出るなど、景気の先行きに不透明感が広がっていて、中国政府が効果的な対策をどこまで打ち出せるかが焦点となります。中国当局が発表しているGDP成長率については3%程度割り引くと実態を表しているとの見方があります。とすると、2024年第四半期の実質GDP伸び率は1.7%(4.7%マイナス3%)ということになり、もはや中国の成長は終焉してしまったことになります。

(3)GDP統計以外の経済統計も減速を示している

一方、中国の国家統計局が発表している主要な経済指標では、企業の生産や消費の伸びが鈍化し、不動産市場の低迷が続いていることも改めて示されています。このうち、6月の工業生産は、去年の同じ月と比べて5.3%のプラスと、伸び率は前月の5.6%から縮小しました。また、消費の動向を示す6月の「小売業売上高」は、前年同月比2.0%のプラスと、こちらも前月の3.7%から伸びが鈍化しました。一方、ことし1月から6月までの不動産開発投資は、去年の同じ時期と比べてマイナス10.1%と、引き続き大幅な落ち込みとなりました。さらに6月の新築の住宅価格指数は、主要な70都市のうち9割以上にあたる64都市で前の月から下落し、都市の規模を問わず不動産価格の低迷が続いています。最も注目すべきは、物価指数の低迷です。工業生産者出荷指数(日本の卸売物価に相当)は2024年6月迄で21カ月連続前年比マイナスであり、消費者物価指数も横ばい圏で推移しています。このことは、中国経済は「デフレ」の真っただ中にあることを示唆しているものとみられます(図表1参照)。

図表1 現在の中国経済の状況~底割れの回避を模索する動きか?
・貿易及び対中直接投資
(1)輸出は増加基調にあるが、低価格製品の輸出が増加しており、国内需要不足を輸出でカバーしている構図
(2)一方、輸入は総じて圏で推移しており、内需低迷が続くことを背景に今後も同様な傾向が続くと予想
(3)2024年1~4月の対中直接投資(ドル建て)は、前年比31.4減と引き続き大幅な減少が続いている ⇨中国政府は外資企業に誘致政策を提示しているが、西側各国は中国依存度を引き下げている状況
・経済統計の動き
(1)2024年6月の小売売上高は前年比2.0%増と5月の3.7%増に対して伸び率が鈍化。オンライン取引が牽引
(2)企業の設備投資意欲の低迷、財源不足に起因する建設投資の低迷、住宅販売低迷が続く見通し
 ⇨中国の場合、地方の財政収入の約4割が土地利用権売却益によって捻出される仕組みとなっており、不動産価格下落に伴って、地方財政悪化⇨インフラ投資低迷といった悪循環に陥っている?
(3)不動産価格は引き続き下落基調であり、購入者の値下がり予測が根強く、当面は弱含みが続く見通し
・デフレ基調が継続
(1)2024年6月のPPI(工業生産者出荷価格)は前年比0.8%減と21カ月連続でマイナスと下落基調が継続
(2)2024年6月のCPI(消費者物価指数)は、前年比0.2%増と5カ月連続プラスとなったものの伸び率は鈍化
(3)中国に対するカントリーリスクの台頭、不動産バブル崩壊懸念を背景に株価は中長期的に下値模索が継続

(4)中国における経済成長の歴史

ここで中国における経済成長の歴史を振り返ってみましょう。IMFによると、1985年の名目GDPは米国4兆3,400億ドル、日本1兆4,200億ドルに対して中国は3,100億ドルにとどまっていました。中国の名目GDP規模は米国の7.1%、日本の21.8%に過ぎなかったのです。その後、中国は順調に経済成長率を高め、2010年には日本の名目GDPを逆転することになりました。この時、中国の名目GDPは米国40.1%の水準でしたが、2021年には米国の76.2%の水準にまで迫りました。誰しも、このまま行けば遅くとも2030年代には米中の経済規模が逆転すると信じていました。しかし、2021年以降は、米国のインフレ進行に対して中国経済はデフレ色が強まってきたことから、中国の成長率が鈍化した結果、米中の経済規模は縮小から拡大へ向かっています。このままでは、米中経済逆転の可能性はかなり遠のいたとの見方が多くなっています(図表2参照)。

一方、中国の1人当たりGDPは2020年に1万ドル台に乗せましたが、米国、日本に比べるとまだまだ低い状況にあります。中国の場合、上海、北京、深圳といった大都市の1人当たりGDPは、すでに先進国レベルである3万ドルに達しているとみられていますが、農村部や地方都市の1人当たりGDPは数千ドル程度となっており、国内での貧富の格差が非常に大きなことが特徴となっています。勿論、先進国においても地域による経済格差は存在していますが、中国の場合、その差が極めて大きいことが特徴となっているのです。中国の場合、経済特区を設定したり、沿岸部の大都市に産業を誘致したり、外資優遇施策を取ってきたりした結果が国内における地域経済の格差を増幅させているといえそうです。この点、我が国では、高度経済成長時代に数次にわたる全国総合開発計画を推進してきた結果、農村部や地方都市においても一定レベルのインフラが構築され、中国のように地域ごとの経済格差が大きく広がっているわけではありません。

図表2 日本、米国、中国のGDPの推移

(5)これから中国はどこへ向かうのか

中国の不動産問題における最大の課題は、「不動産市場の実態」、「不動産に関わる債務の状況」、「金融機関による引き当ての状況」といった実態が掴み切れていないことにあります。中国では、シャドウバンキングによるデベロッパー等の資金調達も膨大に上るとされています。いずれにせよ、実態が把握できなければ、中国経済の底入れのタイミングを判断することは難しいのではないでしょうか。情報開示が十分でなければ不安定化するリスクを高めることになります。中国の場合、経済成長率が高く、経済規模は世界第2位を誇っていますが、食料自給率は低下傾向にあり、エネルギー自給率も先進各国に比べて決して高くはありません。したがって、世界的なインフレ進行、世界経済低迷といった状況は、中国の成長率を下押しする可能性を高めることに留意しなければなりません。飛ぶ鳥を落とす勢いだった中国経済は明らかに「高成長」から「安定成長」の局面に入ったといえるでしょう。その要因としては、ゼロコロナ政策の長期化に伴う消費マインドの低下、不動産市況悪化による経済活動の低迷、人口減少社会突入による年金や医療費といった社会的コストの増大等が挙げられます。

経済を立て直す有効な手段として「財政出動」が挙げられます。古くは米国の1920年代のニューディール政策をはじめ、欧州でも日本でも財政出動によって経済回復を実現してきました。財政出動を行う場合、2つ要件が必要とされています。第一に、基礎的財政収支(プライマリーバランス)が維持されているか。第二に、GDPに占める政府の債務残高が過大ではないかといった点です。第一の点については、日本も中国も米国も厳しい状況に置かれていて、特に中国は近年悪化傾向を示しています。第二の点については、中国は多少余裕があるようですが、政府系金融機関等に隠れ債務があると言われていることから額面通り受け取ることは適切ではないかもしれません。中国経済の減速は日本経済にとっても他人事ではありません。中国経済の減速に対して、日本企業としてどのように対峙していくかは2024年以降の大きなテーマになっていくものと思われます。

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