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2025.08.19 コラム

在職老齢年金制度を理解する~制度の見直しは高齢者の就業意欲を高める効果~

在職老齢年金は、60歳以上が働きながら年金を受給できる制度で、厚生年金と給与の合計が一定額を超えると年金が減額されます。高齢者の就労意欲を削ぐ面があるため、支給停止基準の引き上げなど制度見直しが進められています。

(1)公的年金制度の仕組みはどうなっているのか?

公的年金制度の仕組みはどうなっているのでしょうか。年金受給がかなり先となる30歳代、40歳代の人は勿論のこと、年金受給時期が近い50歳代の人であっても公的年金制度について正しく理解されている人は少ないのではないでしょうか。そもそも、わが国の公的年金制度は社会保障制度の一環であり、国民の誰しもが加入を義務付けられています。わが国の公的年金制度は、現役世代が支払った保険料を高齢者の年金給付に充てるという「世代間扶養」という考え方に基づいています。そして、公的年金は20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金と、会社員・公務員の人が加入する厚生年金の2階建て構造となっています。但し、公的年金だけで老後の生活資金を賄うのは難しいために、企業や個人が任意で加入する私的年金も存在しています。企業年金は勤務先に企業年金制度がある場合に限られており、公的年金を補完する役割を果たしています。また、最近では個人型確定拠出年金や積立てNISA等を活用して金融資産を形成して老後に備えるといった人も増えているようです。

(2)65歳を超えても働く人が増えている

わが国の公的年金は原則として65歳以上の人に対して支給されることになっています。受給資格を得るためには、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した受給資格期間が10年以上必要となります。公的年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金とに大別されます。老齢基礎年金(国民年金)は、国民すべてに加入が義務付けられています。一方、老齢厚生年金(厚生年金)は厚生年金保険に基づくもので一定の条件を満たした勤労者が加入することになっています。かつては、60歳の誕生月など一定の年齢になると仕事を辞めて、隠居生活に入るというのが一般的でした。ところが、ここ20年ほどでは勤務先の会社を定年退職になっても別の会社で働くケース、或いは勤務先の会社での定年延長によって60歳を超えても働く人が増えるようになってきました。60歳或いは65歳を超えても働く理由としては、収入を得ることで経済的に安定したいという理由は勿論のこと、健康のうちは働いて社会との接点を持ちたい、これまで培ってきた仕事に関するノウハウを次の世代に伝承したい、といったことが挙げられるのではないでしょうか。勿論、一定の年齢になると、きっぱり仕事を辞めて生活するという人もいますが、どちらかというと何らかの形で仕事に従事している人が増えているように思われます。

(3)在職老齢年金制度とは何か

ここで、在職老齢年金の仕組みについて整理してみたいと思います。在職老齢年金とは、年金の受給対象となった60歳以上の人が、会社などで働いて賃金をもらいながら受け取れる年金制度のことです。在職老齢年金制度とは、年金を受給しながら働く高齢者について、一定額以上の報酬のある方は年金制度を支える側に回ってもらうという考え方に基づいて年金の支給を調整する仕組みです。現在の制度では、賃金と厚生年金の合計が月51万円(2025年度の場合)を超えると、超えた分の半額が支給停止となります。納めた保険料に応じた給付を受けられる社会保険では、例外的な仕組みと言えます。なお、基礎年金(国民年金)と加給年金(家族手当てに相当)は減額の対象外であり、あくまでも厚生年金のみが対象となっています。なぜ、在職老齢年金制度が導入されたかと言うと、「少子高齢化」が進行するなかで、年金制度を支えるために一定程度の収入がある人は年金の支給額を減額して我慢してもらおうという考え方に基づくものでした。しかし、高齢者による勤労割合が増えてもっと働いて報酬を増やせる人が、在職老齢年金制度によって、あえて働く時間や収入を調整することになってしまいます。また、老齢者の労働意欲を減退させることは、日本全体で見れば貴重な労働力を削いでいるといったマイナス面にもスポットが当たってくるようになりました(図表1参照)。

(図表1)在職老齢年金制度とは何か?
(1)在職老齢年金制度の概要
✓在職老齢年金制度は、年金を受給しながら働く高齢者について、一定額以上の報酬のある方は年金制度を支える観点に立っていただくという考え方に基づき、年金の支給を調整する仕組みです。
✓現在の制度では、賃金と厚生年金の合計が月51万円(2025年度の額)を超えると、超えた分の半額が支給停止となります。なお、該当厚生年金に応じた割合を受けられる社会保険では、例外的な仕組みと旨ます。
(2)在職老齢年金制度見直しの議論及び見直しの内容
✓平均寿命・健康寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者が増えており、また人材確保・技能継承の観点から、高齢者の活躍を求める世の中のニーズも高まっています。
✓「高齢者の活躍を後押しする」 「働きたい人がより働きやすい仕組みとする」という観点から、厚生年金が支給停止となる基準を、2026年4月から月51万円→62万円へ引き上げることを予定しています。

在職老齢年金制度の見直しについて(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html

のページを基にIFA Leading作成

(出所)メディア情報等を基にIFA Leading作成。

(4)在職老齢年金を取り巻く環境は変化している

ところで、厚生労働省が「何歳ころまで収入を伴う仕事をしたいか」とアンケート調査をしたところ、66~70歳の割合が32.6%に上り、次いで61~65歳が18.3%、71~75歳が17.9%に上りました。すなわち、60歳を超えても仕事をしたいという人が8割近くに上っているのです。また、「厚生年金を受け取る年齢になった時の働き方」を調査したところ、「年金額が減らないように時間を調整して働く」の割合が31.9%と最も高く、次いで「働かない」、「会社等で働かず、自営業主、自由業等として働く」となりました。7割前後の人は年金の減額を望んでいないという結果となっていると言えるのではないでしょうか。このことは、今の世の中、元気で働けるうちは働いて収入を得ようという人が多くなっている一方で、年金の支給額は出来るだけ減らしたくないといったことを示しているのではないでしょうか。

ちなみに、在職老齢年金において厚生年金の支給停止の対象となるのは、厚生年金保険に加入している企業から支給される賃金となります。したがって、私的年金による収入、株式配当や譲渡所得に伴う一時所得、副業に伴う雑所得などは支給停止要件に含まれていません。仮に、株式の配当収入が年間1,000万円あったとしても、在職老齢年金制度によって厚生年金が支給停止になることは無いのです。また、不動産を持っていて、毎月一定程度の家賃収入があっても厚生年金が支給停止になることはありません。この点については、不公平であるといった意見がありますが、現時点ではそうしたルールになっているとしか言いようがありません。

(図表2)在職老齢年金制度を取り巻く環境

在職老齢年金制度の見直しについて(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html

のページを基にIFA Leading作成

(出所)メディア情報等を基にIFA Leading作成。

(5)在職老齢年金制度見直しによる年金額の変化

 

それでは、在職老齢年金制度見直しによって年金額はどのように変化していくのでしょうか。厚生労働省では、在職老齢年金制度が高齢者の労働意欲を削ぎ、さらなる労働参加を妨げている例もあることから、 高齢者の活躍を後押しして、できるだけ労働を抑制しない、 働きたい人がより働きやすい仕組みとする観点から、在職老齢年金制度を見直すこととしました。 在職老齢年金制度の支給停止の基準額を引き上げる場合は将来世代の給付水準が低下するため、現行制度を維持すべきという意見がありますが、労働参加率引上げに重点を置いた政策へと転換したわけです。

2025年度では、支給停止ラインは51万円となっています。老齢基礎年金を除く老齢厚生年金の支給額は男性で月当たり10万円程度となっています。したがって支給停止ラインから10万円を控除した41万円までの収入であれば老齢厚生年金は全額支給されることになります。かつては、60歳を超えると継続雇用されていても収入が大きく下がるケースが一般的でした。ところが、今では人手不足の進行によって65歳まで或いは70歳まで雇用延長しても、それほど収入が下がらないケースも多くなっているようです。しかし、年金受給に関しては本人の意思を尊重すべきであり、収入によって年金額を調整すべきではないといった意見もあります。2026年度からは支給停止ラインが62万円に引き上げることが決まっていますが、将来は支給停止ラインが廃止されることが望ましいのではないでしょうか。また、年金財政の問題、老齢基礎年金と老齢厚生年金との統合問題については、制度設計から見直した方が良いのではないでしょうか。

(図表3)在職老齢年金制度見直しによる年金額の変化の例

在職老齢年金制度の見直しについて(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html

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(出所)メディア情報等を基にIFA Leading作成。

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