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2026.03.03 コラム

人的資本経営とは何か~人的資本を理解することは時代の要請である~

人的資本経営は、人材を「コスト」ではなく「資本」と捉え、育成や配置を通じて企業価値向上を目指す考え方です。人手不足やESG投資の拡大を背景に、戦略的な人材活用が重要となっています。

(1)人的資本経営に関する基礎知識

最近、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えています。人的資本経営とは、従業員を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値を向上させることを指しています。優秀な人材の育成には教育コストがかかりますが、人材を資本のひとつとして捉えた場合、人材育成にかかる費用はコストではなく投資と考えることもできます。従来の経営では、人材を「資源」として捉え、管理することが人材マネジメントの目的として認識されていました。一方、人的資本経営においては、人材を「資本」と捉え、企業価値を創造するために積極的に人材に投資していくことが目的です。また、従来の経営では、人材に関する取り組みは人事部門が主導しますが、人的資本経営では、経営戦略の一環として経営陣が主導するケースが多い点が特徴となっています(図表1参照)。

(図表1)人的資本に関する基礎知識
(1)人的資本とは何ですか?
✓ 人的資本とは、個人が有するスキルや知識などを資産とし、これが企業の生産性向上や経済活動への貢献につながるという考え方です。企業は人的資本を最大限に活用することが求められます。
✓ 人的資源との資本の主な違いは、「コスト」と「投資」の考え方です。人的資源はコストとして扱われることがあり、リソースを効率的に使用し、ムダを避けることが重視されます。一方、人的資本は単なるコストではなく、成長を促進する手段です。個々のスキルや知識を強化することで、利益や価値を創出します。
(2)人的資本経営とは何ですか?
✓ 人的資本経営とは、人材を「資本」として認識し、その価値を最大限に生かして企業の成長を実現する経営手法です。経済産業省では、人的資本経営の定義を「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」と定義しています。
(3)人的資本が注目されている背景・理由とは何ですか?
✓ 近年、企業は従業員を単なる労働力ではなく、人の資本として重視しています。技術革新や競争の激化にともない、優れた人材が企業の成長に不可欠な要素とされるようになったことが主な理由です。
✓ 企業のグローバル化や働き方改革などにより、人材の多様性や多様な働き方が進展しています。このような流れのなか、非正規雇用や外国人労働者の増加が進み、従来の画一的な人材管理では対応しきれない状況が広がっているのです。

(出所)メディア情報などを基にIFA Leading作成。

(2)人的資本経営への関心が高まっている背景

それでは、なぜ、日本において人的資本経営への関心が高まっているのでしょうか第一に、深刻化する人手不足と技術革新に伴う人的資本価値の向上が挙げられます。日本では少子高齢化が進み、生産年齢(15~64歳)人口は1995年、総人口は2008年をピークに、減少に転じています。2020年には6割程度を占めている生産年齢人口は、2065年には、5割程度にまで減少すると予想されており、人手不足もさらに加速すると見られています。従来、人の手によって行われてきた定型的な業務はデジタル化が進む一方で、DXを支える専門人材も不足している状況です。こうした世の中の変化に対応し、活躍できる人材の不足は今後も続いていくことが予想されます。そのため、採用だけに頼らず、人的資本経営によって自社の社員一人ひとりのスキル向上を目指し、自社が持つ人的資本の価値を高めることが重要となっているのです。

第二に、ESG投資に注目する投資家が増加したことにより、ESGに配慮した経営に力を入れるようになった企業が増えてきたことです。ESGのなかでも「社会(Social)」に関連することから、企業はESG経営の一環として人的資本投資に力を入れています。2023年3月期の決算から、有価証券報告書を発行している上場企業は、有価証券報告書において「人的資本情報」の開示が義務化されました。具体的には、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」などの項目に関する情報開示が新たに求められるようになっています。人的資本情報に無関心な企業は投資家から魅力的ではないと評価されるようになっています。かつて、人件費はコストであるといった捉え方をする経営陣が大半を占めていました。しかし、今やこうした考え方は時代遅れとなっています。人件費は企業を成長させるための投資であるという考え方こそが、まさに社会が求めている姿なのです。図表2に見られるように人的資本と企業とは相互に依存し合っている関係にあると言えるのではないでしょうか。

(図表2)人的資本に関わる依存と影響の関係

(出所)内閣官房・金融庁・経済産業省の人的資本可視化指針(改訂版)骨子資料(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/hizaimu/dai7/siryou3.pdf)を基にIFA Leading作成。

(3)人的資本開示の義務化

2023年3月から、日本では人的資本の情報開示が義務化され、約4,000社の上場企業が対象となっています。人的資本の開示義務化の背景としては、人的資本開示は企業の持続可能な成長を促進する上で重要なステップであること、特にESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心が高まる中で、企業が人的資本を資本として捉え、その情報を透明に開示することが求められていることが挙げられます。開示が求められる項目としては、①人材育成方針: 従業員の成長を促進するための具体的な取り組み、②社内環境整備方針: 働きやすい職場環境の整備に関する方針、③測定可能な指標: 目標や進捗状況を示すための具体的な指標、④男女間賃金格差: 男女の賃金差を示す指標、⑤男性育休取得率: 男性が育児休暇を取得する割合、⑥女性管理職比率: 管理職に占める女性の割合、⑦従業員エンゲージメント: 従業員の仕事に対する熱意や取り組みの度合い、の7分野が求められています。人的資本の開示義務化の対象となるのは、金融商品取引法に基づく約4,000社の上場企業です。これらの企業は、2023年3月期決算以降の有価証券報告書に人的資本情報を記載することが義務付けられています。人的資本の開示義務化は、企業が自社の人材戦略を明確にし、ステークホルダーに対して透明性を持って情報を提供することを目的としています。これにより、企業の持続可能な成長が促進されることが期待されています。企業は、人的資本の重要性を認識し、適切な情報開示を行うことが求められています。また、前述の7分野に関しては、過去の定量データや将来目標といった開示を合わせて行うことにより、企業の開示姿勢がより評価されることにつながると考えられています。

(図表3)人的資本に関わる4つの要素を踏まえた開示

(出所)内閣官房・金融庁・経済産業省の人的資本可視化指針(改訂版)骨子資料(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/hizaimu/dai7/siryou3.pdf)を基にIFA Leading作成。

(4)人的資本経営を考えるうえでの大切な視点

人的資本経営を考える上ではさまざまな視点がありますが、その第一義は動的な人材ポートフォリオを整備し、活用や適時最適化を図ることで、現状において自社で働く社員の状況を正確に把握できると同時に、適材適所の人材戦略を実現しやすくすることが挙げられます。人材ポートフォリオとは、どのようなスキル・経験を持った人材が、どの部署にどの程度在籍しているのかを、人材の構成内容として示したものです。また、動的とは、現在の状況をリアルタイムで把握できることを指します。かつてはどのような企業でも、〇〇さんは営業成績が悪いから管理部門に異動してもらおう、◇◇支店は営業人員が足りないから別の支店から異動させようといったことが横行していました。しかし、こうした人材配置はいかにも場当たり的であり、適材適所といった考えからは逸脱したものでした。そして、そうした企業はますます競争力を低下させ、人材を流出させてしまったのです。人材ポートフォリオにおいて大切なことは、どのようなスキル・経験を持った人材が、どの部署にどの程度在籍しているのか、そして人事異動をすることによって本人、部署、会社全体がより良い方向に進めるのかといった視点が重要であることは言うまでもありません。その結果、「人材」は「人財」として評価されることになるのです。

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