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人口移動から何が読み取れるのか? ~東京一極集中の功罪とは~
人口移動から読み取れることは、やはり東京一極集中という問題です。東京一極集中のメリット・デメリットはどんなものがあるのか、我が国の人口移動も踏まえて確認していきます。
- (1)東京都への一極集中構造に回帰している
- (2)わが国は都市部への人口集中、地方圏での過疎化が同時進行している
- (3)年齢階層別では20歳代、30歳代が東京都の人口吸引力の原動力
- (4)東京一極集中のメリット、デメリットとは何か
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目次
(1)東京都への一極集中構造に回帰している
総務省統計局が公表している「住民基本台帳人口移動報告」によると、2020年以降、これまで転入超過を続けていた東京都への人口移動に変化の兆しが出ていましたが、2022年になると再び東京都への一極集中へと回帰しつつあり、2023年以降は一段とそうした状況を強めています。東京都の人口は、2019年までは年間で10万人近い転入超過状態が続いていましたが、2020年にはコロナ禍による人口分散によって転入超過人口は3万人と激減、さらに2021年には5,000人程度にまで減ってしまいました。しかし、2022年の転入超過人口は38,000人強、2023年には68,000人強にまで回復し、東京都からの人口分散というシナリオは後退しつつあるといえそうです(図表1参照)。しかもこうした動きは2024年に入っても続いており、東京への一極集中現象はコロナ禍前の状態に戻りつつあると言えるのではないでしょうか。
(2)わが国は都市部への人口集中、地方圏での過疎化が同時進行している
わが国は、東京(厳密にいえば首都圏)一極集中という問題を抱えています。何故、東京一極集中が問題かというと、「人口の過密化によって公共交通機関などが過度に混雑する」、「政治・経済の機能が東京に集中しているため、大地震等の災害が起こった場合、行政機能や企業活動に甚大な影響を及ぼすとみられること」、「東京一極集中とは裏腹に地方の人口流出によって、地方圏での経済・社会活動が低迷してしまうこと」といった要因が考えられるからです。高度経済成長のような時代では、東京一極集中は一定の意味や成果を持っていたかもしれませんが、昨今では東京一極集中によるマイナス面もクローズアップされているように思います。ここで、2023年の住民基本台帳人口移動報告のデータを基に、主要都道府県における転入者(他の都道府県から当該都道府県に転入した人)と転出者(当該都道府県から他の都道府県へ転出した人)の動きを見てみましょう。基本的には、東京都、大阪府の転入者が増えた一方で他県については転入者が減っている傾向が見て取れます。転出者は東京都、神奈川県など首都圏で減っているのに対して他県では増えている傾向がみられます。この結果、人口吸引力(人口を引き付ける力)は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、大阪府、福岡県に集中しており、他県のほとんどは都市部への人口移動によって人口減少に悩まされているという構図となっているわけです。コロナ禍初期には、テレワーク等の浸透により、都市部から地方圏への人口移動が進み、首都圏の過密化は緩和に向かうといった見方がありましたが、実際はコロナ禍において東京都が転出超過となったことは無く、2023年には68,285人の転入超過となりました。68,285人という水準はコロナ禍前の2019年の転入超過人数82,982人に対して82%の水準であり、2024年に入ってからも東京都への転入超過が続いていることから一段と東京都への転入超過が進むとみられています(図表2参照)。
ちなみに、日本全体でみると、都道府県間及び都道府県内の移動者は減少傾向にあります。これは、日本全体の人口が減っていることが影響していると考えられますが、①テレワークなどの浸透によって必ずしも住職(住む場所と仕事場)が近くなくても良い状況になってきたこと、②住宅価格上昇、賃貸価格上昇によって引っ越し計画を見直す事例が増えていること、③オンライン環境の進展によって都市部と地方圏での情報格差が縮小してきたこと、等が影響しているものと思われます。また、日本人の平均年齢が上がってきたため、移住に前向きな30~40歳代の世代割合が減って、移住に消極的な60歳代以上の世代割合が増えてきたことも影響しているのではないでしょうか。都道府県別でみると、相変わらず首都圏の人口吸引力が高くなっていますが、大阪府、福岡県といった大都市に加えて、宮城県、群馬県、沖縄県等でも人口吸引力が増えつつあるようです。また、首都圏のなかでは千葉県の人口吸引力が低下しつつあり、東京都への一極集中が益々強まっている印象です。
(3)年齢階層別では20歳代、30歳代が東京都の人口吸引力の原動力
次に、東京における年齢階層別転入者と転出者の動きをみると、20歳代、30歳代がボリュームゾーンとなっていることがわかります。2023年の住民移動台帳人口移動報告によると、都道府県間移動で最も多い年齢は22歳(全体の7.2%)であり、次いで24歳(5.4%)、23歳、25歳となっています。これらの年齢は学校を卒業した年齢或いは卒業後間もない年齢であり、仕事を求めて東京都に転入してくるといった構図が浮かびます。次いで28歳から35歳の層も都道府県間移動の割合が多くなっています。この世代は、仕事を覚えて落ち着きつつあったり、結婚して家庭を持ったり、場合によっては仕事を変わったりといった人生の転換期を迎える世代でもあります。ひとつ面白いのは、東京都の人口吸引力は男性よりも女性の方が大きいことです。2023年の東京都への転入者から転出者を引いた人口吸引力をみると、男性が2万5千人程度であったのに対して、女性は4万8千人にも達しています。特に、20歳代、30歳代の女性は地方から東京へ移住する傾向が強いようです。逆に、高齢の男性は東京都から出身地である地方へ移住するケースもみられています(図表3参照)。
(4)東京一極集中のメリット、デメリットとは何か
東京一極集中にはメリットとして、経済活動の集積により企業間取引や連携が容易になり、取引コストの削減や情報の迅速な流通ができるといった点が挙げられます。また、国内外から多くの優秀な人材が東京に集まることによって、企業は高いスキルを持つ人材を確保しやすくなります。さらに、インフラやサービスが充実していることで、生活の利便性が高まり企業や住民にとって魅力的な環境が提供されることになるわけです。一方、東京一極集中のデメリットとしては、生活環境の悪化による住みづらさが挙げられます。具体的には、①交通機関の過度な混雑(通勤時間の長さと混雑は労働生産性低下に繋がっているとの見方も)、②緑地や公園の不足(住宅の過密化により緑地の確保が難しくなっている)、③交通渋滞や大気汚染の深刻化、④地価や家賃、物価の上昇(若者や低所得層は住まいの確保が難しくなり、生活の質が低下してしまう)、といった点が挙げられます。他方、東京への一極集中によって、地方の過疎化と経済衰退が進むことが懸念されています。地方から東京に移住する人が増えれば、空き家問題がますます進むことになります。また、農業従事者も少なくなることが考えられるため、これまで維持されていた田畑が放置されて耕作放棄地となってしまいます。少なくとも、食料自給という点では、東京は地方からの食料供給に頼っているわけなので、地方の衰退は他人事ではありません。少子高齢化、人口減少社会はこれからも続く見通しです。東京一極集中の是正を本格時に議論すべき時期に来ているのではないでしょうか。