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2025.07.30 コラム

医療費問題を考える~高齢化社会での医療費問題の本質とは何か~

医療費問題は、高齢化の進展により深刻化しており、特に75歳以上の医療費増が財政を圧迫しています。入院日数の短縮や予防医療の推進が、医療費抑制の鍵とされています。

(1)財政支出の最大の項目は医療費を中心とした社会保障費

わが国では財政悪化に陥って久しくなりますが、いまだにプライマリーバランス(経常的経費及び政策的経費を税収などで賄っているかを示す指標)が黒字化するメドは立っていません本来は一定程度税収が増えて、経常的経費や政策的経費を賄えれば良いのですが、長期にわたる経済の低成長によって財政赤字を余儀なくされてきたというのが実態だと思います。政府が管轄する歳出としては、防衛費、公共投資、文教・科学技術費、社会保障費、地方交付税交付金、国債費などがありますが、このうち社会保障費は歳出のうちの34%を占める最大項目となっています。社会保障費の内訳は、「医療保険に関わる支出」と「年金に関わる支出」に大別されます。ここでは医療保険に関わる支出について整理してみたいと思います。

(図表1) わが国における医療費動向の特徴
(1) わが国における医療費動向の特徴は何か?
✓ 2023年度の医療保険制度に支払われた医療費は前年比2.9%増の47.3兆円と3年連続で過去最高を更新した。
✓ このうち、75歳以上の医療費は18.8兆円と前年比4.5%増となり、全体に占める割合は39.8%となった。
✓ 75歳以上の1人当たり医療費の平均は96.5万円で、75歳未満の平均25.2万円に対して約4倍となっている。
(2) 過去10年間における医療費動向の特徴
✓ 75歳高齢者の医療費は年々増加しているが、近年は主に、入院医療から外来医療への構造的な転換が進んでいる。
✓ また、診療報酬では入院の外来への転換が見てとれるのは、入院日数を減らそうという診療方針が進められていることがうかがえる。
✓ 診療所の医療費の伸び率は総じて横ばい傾向であるが、伸び率は突出しておらず、伸び率は全体で1%程度で、伸び率は足元では低くなっている。
(3) 医療費を抑えるためにすべきこととは何か?
✓ 医療費を抑えるためには、生活習慣病を発症させて介入前に防ぐリスクを軽減させることが求められる。
✓ 具体的には、予防接種や健診を受ける、食生活の改善、運動習慣、禁煙、適正飲酒等を含む健康的な生活習慣の実践が重要。
✓ また、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進、DXによる診療情報の効率化も求められている。

厚生労働省 国民医療費 統計の概要、集計結果等(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/37-21.html)を基にIFA Leading作成。

(出所)メディア情報等を基にIFA Leading作成。

(2)わが国における公的健康保険の実態

わが国は、国民皆保険制度を採っており、健康保険への加入が義務付けられています病気や怪我をして医療機関にかかると、75歳未満の国民であれば原則として治療費の3割の負担で治療を受けることができます。さらに、高額医療費制度によって所得や年齢によって、一定程度の金額を超えると医療費が還付されるという制度もあります。仮に、手術や入院によって高額な医療費が掛かったとしても自己負担が抑えられるという制度です。したがって、民間保険には加入する必要が無いという見方もあるほどです。勿論、個室に入院したり、保険適用外の治療を受けたりする場合には民間保険は必要ですが、そうでなければ公的健康保険だけで十分なのかもしれません。とはいえ、わが国の医療費が増加傾向を続けているのは事実であり、その最大の理由は75歳以上の医療費が増大していることにあります。75歳以上1人当たり医療費は75歳未満の4倍程度掛かると言われており、社会全体の高齢化とともに医療費増大の最大の要因となっているのです。また、75歳未満の医療費では本人の医療費が増加しています。このことは、単身世帯の増加と関係しているのかもしれません。また、医療費全体に占める国民健康保険の割合が低下しているのは、企業による定年延長や社会保険加入者の増加によって、自営業者など国民健康保険加入者が減っていることが影響しているものと思われます。

(図表2)わが国における制度別医療費の推移

厚生労働省「令和5年度 医療費の動向(https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/23/dl/iryouhi_data.pdf)」を基にIFA Leading作成。

(注1)成長率は当該期間における年平均成長率。

(注2)国民健保とは国民健康保険のことであり、自営業者、農業従事者、無職の人などが加入する公的医療保険のこと。

(3)診療種類別では、医科医療費の入院外の伸びが高くなっている

次に、わが国の診療種類別医療費の動向をみてみたいと思います。年によって動きはありますが、トレンドとしては、①医療費のなかでの入院の割合が低下している、②入院外の割合が徐々に高まっている、③医療費全体に占める訪問介護療養の割合は1%程度だが、伸び率は突出して高くなっている、といった点が挙げられます。入院に関しては、短縮化の傾向が続いています。そもそもわが国の平均在院期間は、欧米各国に比べて突出して高く、このことが医療費削減のボトルネックになっていると言われてきました。しかし、診断技術の向上によるがんの早期発見、内視鏡手術、抗がん剤など効果的な治療法の導入により、入院の短期化が実現しています。さらに、退院後、介護老人保健施設や介護老人福祉施設などの介護施設に入居するケースが増えていることも入院日数の短縮化に繋がっているとみられています。

一方、入院外の割合が徐々に高まっているのは、入院日数の短縮化の影響によるものであり、以前であれば数日間の入院とされていた手術にしても日帰りで対応できるといったケースが増えてきたことも影響しているようです。なお、歯科の医療費は医療費全体の7%程度と安定していますが、昨今ではインプラント、美容歯科、歯科矯正といった保険適用外の治療を選択する患者さんも増えているようです。図表2にみられるようにわが国の医療費全体は年々増え続けていますが、コロナ禍初期の2020年度は前年比で減少しています。この時期は緊急事態宣言による外出自粛によって、病気や怪我をする人が少なくなって、病院に行く人が減ったことが影響したものと見られています。但し、コロナの影響によって死亡率が高まったことから平均寿命は若干短くなりましたが、2022年以降は徐々にコロナ禍前の状況に回帰しています(図表3参照)。

(図表3)わが国における診療種類別医療費の推移

厚生労働省「令和5年度 医療費の動向(https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/23/dl/iryouhi_data.pdf)」を基にIFA Leading作成。

(注記)成長率は当該期間における年平均成長率。

(4)医療費を抑制するためにすべきこと

最後に医療費を抑制するためにすべきことを考えてみましょう。人間、年齢を重ねれば病気になるリスクが高まり、病院や診療所に行く機会が増えることになります。そこで、厚生労働省では、予防医療に力を入れて病気にかかるリスクを低減させることに取り組んでいます。まずは、健康寿命を延ばすことを目標にしており、そのためには運動習慣をつける、食生活を見直す、健康診断の受診などが求められています。軽い運動であるウォーキングが奨励されて、食生活の見直しを進めようというのも生活習慣病予防のためです。飲酒にしても適度な飲酒まで禁止するものではありません。とにかく、健康を維持するためにはストレスの少ない日常生活を送ることが大切であり、健康増進こそが医療費抑制に最も効果があるといえるでしょう。

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