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2026.03.11 コラム

ハラスメントとは何か~カスハラ問題への対峙は企業にとって喫緊の課題である

ハラスメントとは、相手に苦痛や不利益を与え尊厳を傷つける人権侵害であり、職場に限らず社会のあらゆる場面に存在する。近年は「お客様は神様です」の誤用を背景にカスハラが深刻化し、従業員の疲弊や離職、企業価値の毀損を招いている。法整備とともに相互尊重の意識改革が急務となっています。

(1)ハラスメントは社会のあらゆるところに存在している

昨今、「〇〇ハラスメント」という言葉をよく耳にするようになりました。「ハラスメント(harassment)」とは、嫌がらせ、いじめ、苦しめる、悩ませる、迷惑、困惑といった意味を持つ英語ですが、現在の日本では一般的な用語として幅広く使われています。「ハラスメント」という言葉が一般的に日本の社会で使われるようになったのは、「セクシャルハラスメント(セクハラ)」であるといわれています。性的な嫌がらせを意味する「セクシャルハラスメント」は、1980年代から社会問題として取り上げられるようになりました。1989年に我が国で初めて職場でのセクハラを問う裁判が起こされ、同年の流行語大賞を受賞しました。その後、「セクシャルハラスメント」は改正男女雇用機会均等法をはじめとした法律でも定義され、世界の潮流とも軌を一にする動きを示すようになります。

2000年代に入ると、職場などにおける権力や地位の優位性を背景とした、いじめや嫌がらせによる「パワーハラスメント(パワハラ)問題」がにわかに顕在化することになります。パワーハラスメントは、日本人の造語によるものであり、日本発祥の言葉と言われています。他方、教育研究の場での権力を利用した「アカデミックハラスメント」(アカハラ)、妊娠・出産・育児に関わる「マタニティーハラスメント」(マタハラ)、男性就業者が育児のために時短勤務などの利用に関わる「パタニティーハラスメント」(パタハラ)など、より個別具体的でライフステージに密接した重要な「ハラスメント」も認知されるようになりました。さらには、言葉や態度等による精神的な虐待を行う「モラルハラスメント」(モラハラ)、人種・国籍・民族等に関わる「レイシャルハラスメント」(レイハラ)など、もはやハラスメントというよりは倫理や人権に関わる課題も、「ハラスメント」として取り上げられるようになってきました。

(2)ハラスメントの定義とは何か?

まず、ハラスメントの定義についてみてみましょう。ハラスメントとは、本人にそのつもりが無くても、相手を傷つける行為、苦痛を与える行為、不利益を与える行為などが該当します。広義には、人権侵害を意味し、性別や年齢、職業、宗教、社会的出自(しゅつじ)、人種、民族、国籍、身体的特徴、セクシュアリティなどの属性、或いは広く人格に関する言動などによって、相手に不快感を与え、その尊厳を傷つけることと言われています。また、ハラスメントは、必ずしも職場だけに限定されるものではなく、病院、学校、幼稚園、町内会といったさまざまなコミュニティに内在しています。厚生労働省では、ハラスメントの種類について明確に規定していませんが、一説には40種類以上あると言われています(図表1参照)。

なかでも、パワーハラスメントはハラスメントの代表的なものとされており、今日において、自治体から警察、学校、企業まで、パワハラのニュースを聞かない日はありません。まさに、「パワハラ地獄、日本」といった様相となっています。「パワハラ」とは、「強い立場の者が、その力を利用して、より低い立場の者に嫌がらせやいじめを行うハラスメントや職場のいじめ」を意味します。厚生労働省の調査では、労働者の31.4%、実に回答者の3分の1が「パワハラを受けたことがある」という驚きの結果となっています。2019年5月、「改正労働施策総合推進法」(通称「パワハラ防止法」)が成立し、企業(事業主)が職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から「パワハラ防止法」が施行されていますが、まだまだ根絶には程遠い状況です(図表1参照)。

主なハラスメントの種類と定義

(出所)厚生労働省資料を基にIFA Leading作成。

(3)カスタマーハラスメントは大きな社会問題に

さて、図表2はカスタマーハラスメント(カスハラ)について整理したものです。我が国には「お客様は神様です」といった文化があるようです。「お客様は神様です」は、お客様を最大限に尊重する姿勢を示す言葉なのですが、神様なのでどんな理不尽な要求でも叶えられるといった間違った解釈をされるようになってしまいました。戦後から高度成長期にかけて、日本はサービス業や娯楽産業が拡大しました。消費者を大切に扱い、顧客満足を高める考えが社会全体に浸透していった時代だったのです。また、礼節や敬意を重んじる文化が強かったため、顧客を尊ぶ表現は受け入れられやすかったという背景があります。顧客を称える言葉が社会的に肯定され、日常的な表現として広まったのです。当時は労働環境やサービス基準が今と異なり、従業員側の権利意識が現在ほど高くなかったことも、言葉が広まる土壌になりました。言葉が広く使われるうちに、意味の本質が薄れていきました。すなわち、「お客様は神様です」という言葉の本質である感謝や敬意の意図よりも、単に顧客を優先する言い訳として使われることが増えたのです。そして、企業や個人がクレーム時に優位に立つために表現を乱用するケースが出現しました。これが誤用を助長し、従業員の負担を招く文化を生む一因になってしまったのです。

「お客様は神様です」が拡大解釈されると、過剰なサービス提供を要求される場面が増えてくることになります。営業時間外の無理な対応や、ルール違反の要求を押し付けられることがあり、現場は対応に追われてしまいます。過度なサービスはコストの増大や従業員の疲弊を招きます。サービスの質がむしろ低下する可能性もあるため、バランスある対応が必要となってきます。顧客側も無自覚に強い態度を取りがちで、双方の関係が歪むことがあるため、適切な範囲を示すことが重要になってきます。無理な要求やクレーム対応の増加は従業員の精神的・身体的負担を増やしてしまう結果、モチベーション低下や欠勤、離職の要因になることが多くなります。結果的に人手不足やサービス低下を招き、顧客満足度の持続に悪影響が出てくることになります。また、SNS時代の現在、瞬時に情報が拡散し、炎上につながるリスクがあります。感情的な投稿が拡大すると、事実と異なる主張が広がることもあるのです。このため、企業は迅速かつ冷静な情報発信と対応方針を整える必要があります。企業にとってのカスハラ対策は、窓口の一元化や対応フローの明確化が重要になります。また、個人にとっても過度なカスタマーハラスメントは自身の社会的立場を危うくする恐れがあり、場合によっては、逮捕・監禁・起訴・有罪といった事態に発展することもあります。

(図表2)
カスタマーハラスメントとは何か
(1)カスタマーハラスメント(カスハラ)とは何か
✓ 一般に、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為を「カスハラ」といいます。
(2)カスハラに該当しうる例と職率の低下・離職率
顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合
①企業等の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合、
②要求内容が、企業等の提供する商品・サービスとは関係がない場合、
→ 企業全体が大きなダメージを受けることになる。
要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動
①身体的・物理的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)、
③威圧的な言動、④継続的・執拗な言動、⑤拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)、
⑥差別的な言動、⑦性的な言動、⑧従業員個人への攻撃・要求、⑨商品交換の要求、⑩金銭補償の要求
(3)企業が悩む顧客等からの行為
①長時間の電話、②頻繁に来店し、その度にクレームを行う、③大声での個人、罵声、暴言を繰り返す、
④当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て、⑤物を壊す、殺すといった発言による脅し、
⑥インターネット上の投稿(従業員の氏名公開)など
(4)職場におけるカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置
✓ ①職場において行われる、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の業務に関係を有する者の言動であって、
②その雇用する労働者が従事する業務の性質やその態様に照らして社会通念上不相当なものであり、
③当該労働者の就業環境を害するもの、の3点がカスハラの定義とされています。

(出所)政府広報オンライン資料を基にIFA Leading作成。

(4)ハラスメントの無い社会を目指すには

それでは、ハラスメントの無い社会を目指すにはどうしたら良いのでしょうか。ハラスメント根絶は「人との接し方」を刷新することから始まると言われています。とくに現代は、自分にはまったく関係のない有名人のスキャンダルに青筋を立てて、制裁を加えようと躍起になる人が大勢存在しており、「行きすぎた処罰感情」が暴走している時代です。我が国には、「叱るは正義」と考える人たちが多く存在しており、この国には「ハラスメントの萌芽は無数にある」というのが実態です。コロナ禍において、医療関係者、救急隊、公務員等に対してSNS上でクレーム投稿をするのも立派なハラスメント(カスタマーハラスメント)です。「ハラスメント根絶」は、法制度を整えるだけで済む話ではありません。社会全体が、上下関係に縛られないフラットな関係性を持って、失敗を許せる寛容な社会を目指すことが必要なのだと思います。どんな場面でも相手をリスペクトして、様々な分野で自分の意思で生活できる社会の実現こそが新たなイノベーション開発、企業改革、社会の変革に繋がるのだと考えられます。今まさに我々は、寛容な社会を目指すのか、息苦しくギスギスした社会を許容するのかという選択に迫られているのだと思います。

 

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