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中古マンション市場と新築マンション市場~マンション市場では中古物件が存在感?~
中古マンション市場主体の構造変化が、特に首都圏で進んできています。今や供給戸数が新築を凌駕する中古マンション市場ですが、今後はどのような動きになっていくのでしょうか。

- (1)首都圏新築分譲マンション市場は停滞傾向
- (2)デベロッパーは供給戸数にこだわらない販売戦略をとっている?
- (3)首都圏では中古マンションが牽引役に
- (4)中古マンション価格は新築同様に上昇傾向をたどっている
- (5)中古マンションのスペックが改善されている
- (6)首都圏マンション市場は中古市場主体の構造変化が進んでいく
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目次
(1)首都圏新築分譲マンション市場は停滞傾向
首都圏新築分譲マンション市場の動向をみると、供給戸数の減少傾向が続いています。暦年ベースでの首都圏マンション供給戸数の推移をみると、2021年にコロナ禍が落ち着いた影響で大幅に増加した局面を除くと、毎年減少或いは横這い傾向が続いています。2000年の首都圏マンション供給戸数が9万5,635戸であったのに対して、2019年以降はピーク時の3分の1程度の水準である3万戸前後にとどまっています。2000年代前半のマンション供給戸数は、メジャー7(住友不動産、野村不動産、三菱所レジデンス、三井不動産レジデンシャル、東急不動産、大京、東京建物)のシェアが25%程度であったのに対して、新興デベロッパーのシェアは40%程度あったと推定されています。今日では、メジャー7のシェアが50%近くにまで高まり、新興デベロッパーのシェアは30%程度にまで低下しています。このことは、首都圏新築分譲マンション市場においては、デベロッパーの信用リスクがほとんどないことを示しています。
(2)デベロッパーは供給戸数にこだわらない販売戦略をとっている?
次に2024年上期の首都圏マンションの地域別供給戸数を見ると、これまで牽引してきた都区部(東京23区)の減少が目立っていることが特徴となっています。これは、マンション販売価格の上昇によって、デベロッパーが都区部での供給を絞ってきたためと思われます。こうした状況は7月以降も一段と顕著になっており、都区部の供給戸数は7月が前年比60.5%減、8月同59.8%減と急減しています。一方、神奈川県、千葉県といった都区部周辺エリアでのマンション供給は比較的順調に推移しています。このことは、都区部におけるマンション用地が不足していることに加えて、販売価格の動向を見極めながらマンション開発を進めているためではないかと思われます。マンションデベロッパーは、かつて見られたような過剰供給とそれに伴う在庫増大、販売価格値下げといった負のスパイラルを回避するために、供給戸数にこだわらない販売戦略をとっているようです。量的拡大を志向していない状況下において、マンション供給戸数の減少傾向は、必ずしもマンション市況の悪化に繋がるものではないことに留意すべきだと思います。
(3)首都圏では中古マンションが牽引役に
ところで、首都圏における新築マンションと中古マンションの動向はどうなっているのでしょうか。首都圏マンション市場は、これまで新築マンションが中心であり、中古マンションが補完しているといった構図でした。ところが、2016年に新築マンション供給戸数と中古マンション成約件数が逆転し、その後はドンドンとその差が広がっていきました。2023年の統計によれば、新築マンション26,873戸に対して中古マンションは35,997戸となっており、戸数ベースでは中古マンション市場は新築マンション市場の1.34倍にまで膨らんでいるのです。さらに、2024年上期(1~6月)では新築マンション9,066戸に対して中古マンション19,226戸とその差は2.12倍にまで拡がりました。今や中古マンション市場は、供給戸数においては新築マンションを上回る重要な市場と位置付けられているのです(図表1-1参照)。
(4)中古マンション価格は新築同様に上昇傾向をたどっている
一方、マンション価格については新築マンション(販売価格)と中古マンション(成約価格)は何れも上昇傾向が続いています。新築マンションの平均価格は2015年の5,518万円から2023年には8,101万円へと46.8%上昇しました。これに対して中古マンションは2015年の2,892万円から2023年には4,575万円へと58.2%上昇しました。この傾向は2024年に入ってからも続いています。新築マンションの値上がり要因については、都心部での億ションの販売割合が増えたことに加えて、マンション建設に関わる建設資材、建設就業者の人件費が上がったことが影響しています。他方、中古マンションの値上がり要因については、新築マンションの品薄感及び割高感によって中古マンション市場の需給がひっ迫してきたことが影響していると考えられます。この間、所得が大きく増えた訳ではないので、直近においては「中古マンションは割安である」といった見方は少なくなってきていると言えるのではないでしょうか(図表1-2参照)。

(5)中古マンションのスペックが改善されている
中古マンションの平均築年数は年々伸びており、最新の2024年8月では25.8年となっています。すなわち、2000年前後に建てられた物件が中古マンション市場の中心になっているわけです。2000年前後といえば、企業収益の悪化から都心部に保有する土地を売却するケースが多く、比較的駅近で300戸を超える大型物件が増えていた印象があります。また、床暖房、食器洗い機、お風呂の追い炊き機能、温水洗浄便座などが標準装備されており、住民のためのパーティルームやゲストルームなどの共有設備が広がっていました。こうした物件は需要が高く、勤労者が手の届く4,000万円前後の中古マンションは売れ筋となっています。
都区部を除いた平均価格をみると、4,000~5,000万円台が中心となっています。マンション価格を見る場合、①立地条件、②占有面積の広さ、③スペックなどがポイントとなります。コロナ禍前は、駅近、急行停車駅、生活利便性などがマンション購入の決め手となっていました。ところが、こうした条件に合致する物件は値段が高くなってしまいました。このため、最近では急行停車駅以外の郊外駅からのバス便であっても買い手がつくようです。また、専有面積についても、かつては80㎡/戸程度を求めていましたが、最近では小家族化もあって65㎡/戸程度であっても許容されるようになってきています。また、スペックの高いマンションは、中古物件であっても大掛かりなリフォームなど必要としないため、購入者にとっては追加予算に頭を悩ますこともなさそうです。中古物件を購入する場合、予算の範囲内で探して、立地・交通アクセス・占有面積など譲れる範囲で購入条件を変更するといった層が増えてきているのではないでしょうか。

(6)首都圏マンション市場は中古市場主体の構造変化が進んでいく
最後に、今後の首都圏マンション市場はどのようになっていくかを考えてみたいと思います。第一に、新築分譲市場ではマンション価格の二極化が一段と進んでいくと考えられます。都心中心部に限らず、都区部であれば平均価格1億円超であっても一定程度の需要はあるとみられています。購買層は富裕層、経営者、パワーカップル、外国人投資家及び居住者となりますが、彼らは居住目的と資産形成目的という両面でマンションを購入するのです。第二に、勤労者世帯では住宅価格上昇と住宅ローン金利上昇によって6,000万円程度の予算に収まる郊外型新築マンションを志向するようになるのではないでしょうか。かつてのように駅から徒歩10分圏内といった要件にはそれほどこだわらなくなっていくと思われます。多少駅から遠くても、生活環境の良い立地であれば許容されるのではないでしょうか。そして、第三に中古マンションの選択肢が増えていくと思われます。築20年程度であれば、耐震性もしっかりしていますし、前述のように設備のスペックも問題ありません。中古物件にまで選択肢を広げることで、購入者にとってはより満足のいく物件をみつけることができるようになるのではないでしょうか。なお、新築中古に関わりなく、マンションを選ぶポイントとして「セキュリティの信頼性」、「管理体制の充実」、「適正な修繕計画」などが重要視されることは言うまでもありません。
