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テーパリングとは? ~金融正常化に向けて必要なプロセス~
テーパリングとは、中央銀行の量的金融緩和による毎月の資産購入の規模を徐々に縮小していき、最終的に資産購入額をゼロにしていくことを指しています。この記事では、テーパリングについての詳細や、金融市場への影響を解説します。
- (1)テーパリングとは?
- (2)テーパリングは何故必要なのか
- (3)テーパリングによる金融市場への影響
- (4)日銀のETF買入れは一巡しつつある
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目次
(1)テーパリングとは?
最近、テーパリングという言葉を耳にすることがあります。テーパリングとは、中央銀行の量的金融緩和による毎月の資産購入の規模を徐々に縮小していき、最終的に資産購入額をゼロにしていくことを指しています。そもそも、テーパリング(tapering)には、段々と補足する、段々と減らすなどを意味があります。これが転じる形で、金融緩和の縮小を意味するようになったのです。量的金融緩和とは日銀などの中央銀行が銀行などの金融機関から国債や手形を買い取ることで、市場に流す資金を増やしていく政策です。デフレの時期に行われる政策であり、じゃんじゃんとお金を流していくことでデフレを解消させ、インフレを促す狙いがあります。テーパリングは21世紀に入ってから使われた言葉です。最初にテーパリングを使ったのはアメリカの中央銀行にあたるFRB連邦準備制度理事会の元議長であるバーナンキ氏でした。量的金融緩和の修正を意味した言葉として用いられました。アメリカではリーマンショック後に量的金融緩和が行われ、一定の経済成長を見せてから段々と縮小させていきました。この縮小の中でバーナンキ氏の「テーパリング」が登場したのです(図表1参照)。
(2)テーパリングは何故必要なのか
それでは、テーパリングは何故必要なのでしょうか。そもそも量的金融緩和は世界的にはあまり行われてこなかった政策であり、デフレに困っていた日本が世界で初めて行った政策と言われています。政策金利の引き下げだけではどうにもならなかったため、量的金融緩和を行うことで経済を刺激しようとしたのです。一時期、量的金融緩和は終わりを迎えましたが、リーマンショックや東日本大震災、政権交代などを受けて、アベノミクスの一環で再び量的金融緩和が行われ今に至ります。そして、ようやくインフレになり、物価高が叫ばれ始めた時代にあって、量的金融緩和はもはや終わりにしなければならないというムードが日に日に高まっているのです。なぜ日本が世界初となったのかというと、その最大の理由は政策金利をこれ以上下げようがなかったからです。日本の政策はゼロ金利政策と呼ばれ、政策金利をゼロにして経済に刺激を与えようとしました。しかし、これでもなお不十分だったため、2001年に量的金融緩和がスタートし、今もそれが続いています。他の国では政策金利の上げ下げで景気の刺激や引き締めを行っている中で、日本は政策金利がすでにゼロなので量的金融緩和でしか対応できなかったのです。
(3)テーパリングによる金融市場への影響
さて、テーパリングによる金融市場への影響についてはどのように考えたら良いのでしょうか。テーパリングを行うということによって、長期金利が上昇し、株価は下落するリスクが高まることになります。第一に、長期金利が上昇すると、借り入れコストが増加し、投資や消費が抑制される結果、経済活動が停滞する恐れがあります。但し、この点については、比較的緩やかな長期金利の上昇であればそれほど大きな影響がないといった見方もあります。第二に、景気悪化懸念を背景とした株式の売り圧力増大によって株価が下落することが懸念されています。この点については、一時的に株価が下落するにせよ、我が国の場合、PERやPBR等の株価指標が比較的低位にあり、企業業績も安定していることから大きな下落にはならないといった見方があります。そもそも日銀が大株主として登場している企業については、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、望ましい株主構成に是正されるといったポジティブな受け止め方をされるとみられています。第三に、金利上昇によって円高(対象通貨買い)が起こりやすくなるとみられています。いずれにせよ、テーパリングは金融市場へ影響するとみられているわけですが、中央銀行では、テーパリングを告知することなく、金融市場への影響を注視しながら行う「ステルステーパリング」を意識して実行しているとみられています。中央銀行が意識している点は、金融政策の変更によって実体経済が失速し、雇用状況が悪化することであり、金融市場の安定こそ重視しているといった点だと思われます(図表2参照)。
(4)日銀のETF買入れは一巡しつつある
最後に、日本銀行によるETFの保有状況について見てみましょう。日銀のETFの買い入れがスタートしたのは、2010年12月です。 リーマンショックで低迷する株価や景気を底上げすることを目的としていました。 その後、2013年に黒田総裁によって、「量的・質的金融緩和」が導入され、ETF購入額が拡大していきました。ETF買い入れの狙いについて、日本銀行は「量的・質的金融緩和は2%の物価安定目標の実現を目指すこと」であり、「長期国債やETF、J-REITの買い入れによってイールドカーブ全体の金利の低下を促し、リスク・プレミアムの縮小を促す(資産価格のプレミアムに働きかける効果)」としていました。2016年からは買入限度額を年間6兆円としましたが、2021年以降は買入額を縮小させ、2024年3月にはETF買い入れを終了しました。一時は含み利益がほとんどなくなりましたが、2024年3月末には含み利益が37兆円にまで膨らんでいます。今後は巨額に膨らんだ含み利益(一部では埋蔵金とも言われています)をどのように活用するかといった点にも注目したいと思います(図表3参照)。