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食品スーパーは時代の寵児か~今や総合スーパーを凌ぐ勢い~
食品スーパーは、生鮮品の鮮度や品質重視の独自運営で寡占化が進まずに発展してきたが、近年はITや物流改善により効率化も進む。中でもヤオコーは郊外立地戦略と高品質・高コスパで急成長し、首都圏で注目を集めている。
- (1)スーパーマーケット業界における分類はどうなっているのか?
- (2)効率化を実現しつつも品質の高さもキープする取り組み
- (3)ヤオコーは郊外型食品スーパーとしての立地戦略を展開している
- (4)この5年ほどの間に首都圏で最も成長したスーパー
- (5)株式投資とは先行きの時代を読む姿勢が大切だと実感した…
- IFA Leadingのアドバイザーにお気軽にご相談ください
目次
(1)スーパーマーケット業界における分類はどうなっているのか?
日本では地域ごとに頑張っているスーパーマーケットがあります。我々日本人的には違和感のないこの業界構造は、チェーンストアの本家、欧米においては既に過去のものであり、上位企業による寡占化はかなり進行しているのです。日本にスーパーというチェーンストアが導入されて50~60年経ちますが、トップのイオンでさえ1割ちょっとのシェアしかありません。これは欧米小売業からすれば、日本の小売業はまだ発展途上であると見えるようです。一時はウォルマートやカルフールといったグローバル大手小売が進出してきたこともありましたが、いずれも成果を出すことはなく、撤退に追い込まれました。但し、こうした地域分散の構造は、スーパー業界だけのようで、コンビニ、ホームセンター、ドラッグストアなどの隣接業界ではかなり寡占化が進んでいます。どうしてそうなのかということについては実はあまり明快な答えがないようです(図表1参照)。
わが国のスーパーが寡占化していない要因は、生鮮食品を各店舗のバックヤードで分散して、流通加工(小分け、パック詰めする作業)するインストアオペレーションが採用されているため、集中化による規模の利益が働かなかったからなのではないでしょうか。チェーンストアは標準化(統一された店舗、売場、統一されたマニュアルなど)と集中化(本部仕入、物流のセンター化など)によって効率性を高めることで、安さ、品質を向上させることが基本です。しかし、日本のスーパーは店舗ごとに流通加工が分散していて労働集約的な構造になっており、規模が大きくなっても、競争力に直結しない面があります。
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商業統計 調査の結果 業態分類表(経済産業省)
(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/result-1/pdf/6h26k-gyoutai.pdf)を基にIFA Leading作成。
(出所)メディア情報を基にIFA Leading作成
(2)効率化を実現しつつも品質の高さもキープする取り組み
ところで、わが国には魚食、生食の文化があり、消費者は生鮮品の鮮度には非常に敏感です。そのため、わが国のスーパーでは生鮮品の流通加工を店舗のバックヤードで処理して且つその様子を来店客に見せることで、鮮度をアピールするインストア方式が主流になっています。スーパーの生鮮売場の壁面がガラス張りで作業場が見えるのは、これを見せるためなのです。こうした労働集約的な手法が続けられたのは、デフレ時代は非正規の労働力を低コストで集めることができたからです。スーパーの労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)は他の小売業に比べてもかなり高いのですが、これまではそれでもなんとかやってこられたのです。しかし、人手不足時代の到来を予測していた大手スーパーは、ITや保存技術の進歩や配送効率の改善によって、この構造を打破して生産性向上に取り組んできたのです。すなわち、加工工程を細分化して最終工程以外を集中センターで処理し、最後は少ない工程のみを店舗バックヤードで完成させることで、大幅な効率化を実現しつつあるのです。こうした改善の筆頭が、イオンでありヨークベニマル(セブン&アイ⇒ヨークHD)といった大手スーパーであり、なかでも、地場独立系大手ヤオコーは、効率化を実施しつつ、品質でも最も消費者の評価が高いスーパーなのです。
(3)ヤオコーは郊外型食品スーパーとしての立地戦略を展開している
埼玉県の小川町という小さな町の八百屋から出たヤオコーは、36期連続増収増益(継続中)という輝かしい歴史を経て、今や売上規模でも、首都圏ではイオン、イトーヨーカ堂などに次ぐ大手食品スーパーとなっています。ヤオコーは埼玉県の郊外地域を地盤としているため、郊外ロードサイド(買物移動手段がクルマとなっているエリア)を中心に店舗展開しています。ちなみに、首都圏は国道16号線あたりを境に買物の移動手段が異なり、内側の中心部は電車・バス・自転車、外側はクルマ、とざっくり分かれており、スーパーやドラッグストアなどの生活必需品を売る店の店舗のスタイルもかなり違っています。ロードサイドでは幹線道路沿いで、広い駐車場を備え、ドラッグストア、100均などを併設し、広い売場を備えて品揃えが豊富であって、価格も相応に安いことが求められています。ヤオコーの店舗配置をみると、都心23区~京浜間にはほとんど店がありません。その広い店舗を実現するためには、中心部の不動産コストが高すぎるため、出店に二の足を踏んでいたからです(図表2参照)。
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(出所)ヤオコー「2025年3月期決算説明会資料」
(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/82790/d6217e39/bf26/46af/a814/11b9878dccb0/.pdf)
を基にIFA Leading作成。
(4)この5年ほどの間に首都圏で最も成長したスーパー
ヤオコーはこの5年ほどの間に、首都圏で最も成長したスーパーです。なぜそんなに支持されているのかというと、生鮮品の品質、鮮度がいいことはもとより、惣菜の豊富さ、品質の高さとコスパの良さで、高水準の評価がされていることは業界内でも自他ともに認めるレベルとなっています。但し、コスパはいいが、絶対価格として安いとは言い切れないため、その支持は子育てが終わった中高年世帯でより高いと言われています。その競争力の高さは、経営指標などのデータをみても、明らかです。上場企業と財務データを公表している有力企業の経営指標を抽出して比較すると、ヤオコーは常に上位を確保しています。2019年度から2024年度にかけての売上高及び営業利益の伸び率、売上高営業利益率は他社を凌駕しています。特に、オーケーが首都圏中心部の人口密集地で展開しているのに対して、ヤオコーは人口密度の低い郊外部で展開している点が注目されるところです。
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(出所)各社ホームページなどを基にIFA Leading作成。一部推計値を含んでいる。
(5)株式投資とは先行きの時代を読む姿勢が大切だと実感した…
今からかなり前のことになりますが、ある小売担当アナリストが「ヤオコー」を執拗に推奨していました。当時は、イオン、イトーヨーカ堂といったGMS全盛期で食品スーパーや業務用スーパーは完全に脇役でした。当初はこのアナリストの声に耳を傾ける投資家は少なかったのですが、やがて食品スーパー、業務用スーパー全盛期を迎え、株価もこうした評価を反映してきました。当時は、まさかドラッグストアがこれほど成長して、イーコマースが確立するなどとは思ってもいませんでした。今日(こんにち)、時代はデフレからインフレ時代へと転換しています。我々の日常生活に最も関わっているスーパーマーケットは、今後どのような変化を遂げていくのでしょうか。こうした業界内での変化は、スーパーマーケットに限らず至るところで起こっているのではないでしょうか。
