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相互関税とトランプ関税の違いとは何か
相互関税は対等な関税設定を指しますが、トランプ関税は非関税障壁も考慮した一方的措置で、日本企業や経済に広範な悪影響が懸念されます。
- (1)日米関税合意が締結
- (2)相互関税とは何か
- (3)相互関税とトランプ関税との違い
- (4)トランプ関税が及ぼす日本経済への影響とは
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目次
(1)日米関税合意が締結
「トランプ関税」が世界経済を揺るがしています。9月4日、トランプ大統領は米国の関税措置に関する日米合意を履行する大統領令を発表しました。大統領令は、相互関税率や自動車・同部品に対する追加関税率の引き下げなど、日本政府が発表していた合意内容をおおむね履行する内容となりました。今回発表された大統領令では、相互関税率は、一般関税率(MFN税率)を含めて15%、一般関税率が15%以上の品目には相互関税は課されないと明記されました。これにより、日本に対する相互関税率はEUと同じになりました。相互関税率の修正は、米国東部時間2025年8月7日午前0時1分以降の輸入にさかのぼって適用されるため、余分に支払った関税は、米国税関・国境警備局(CBP)による標準的な還付手続きに従い還付されることになります。
※MFN(Most Favoured Nation Treatment)とは最恵国待遇のことであり、ある国が他国に与える最も有利な貿易上の待遇を、他の全ての国にも適用しなければならないという国際的な原則のことです。具体的には、ある国に対して特別な貿易条件を与えた場合、その条件は他のすべての国にも同様に適用される必要があることになります。MFN税率は、WTO加盟国160カ国からの貿易について適用されます。
(2)相互関税とは何か
まず、相互関税(Reciprocal Tariff)について整理してみましょう。相互関税とは、ある国が他国に対して関税を課す際、その相手国と同じ税率を設定するという考え方に基づいた関税制度です。つまり、「相手国が自国に10%の関税を課しているなら、自国も同様に10%の関税を課す」といった、対等な関税水準を保つことを目的としています。この概念は一見「公平」にも思えますが、国ごとの経済構造や産業保護政策、交渉力の差などがあるため、必ずしも実質的な公平さを保証するわけではありません(図表1参照)。
ちなみに、国際貿易における関税政策は、通常は3種類に分類されるとされています。すなわち、①単一関税(無差別関税):全ての国に同じ税率を適用する。WTO加盟国では原則これが基本となっています、②相互関税(Reciprocal Tariff):相手国の関税に応じて同等の税率を課す。対抗措置や交渉カードとして使われることもあります、③報復関税(Retaliatory Tariff):他国が不当な関税をかけた場合に対抗措置として発動する制裁的関税、の3つです。相互関税は、特定の国との二国間の関係性に基づいて運用されることが多く、WTOの「最恵国待遇(MFN)」ルールとは基本的に相容れません。MFNとは、「すべての加盟国を平等に扱う」ことが原則だからです。そのため、相互関税を積極的に導入する動きは、多国間主義からの逸脱と見なされる傾向があります。そもそも、トランプ大統領は多国間交渉ではなく、二国間交渉を基本に外交・経済政策をとっていく方針なので、相互主義を貿易政策の柱と考えているのではないでしょうか。
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税関相互支援協定(CMAA)(財務省)
(https://www.customs.go.jp/kyotsu/cmaa/cmaa.htm)を基にIFA Leading作成。
(出所)メディア情報を基にIFA Leading作成
(3)相互関税とトランプ関税との違い
トランプ大統領は再任後、日本を含めすべての貿易相手国を対象とする相互関税を導入すると発表しました。いわゆる「トランプ関税」です。この「トランプ関税」は一般的な相互関税と異なる観点を考慮しなければなりません。トランプ関税は「すべての国からの輸入に一律10%の関税を追加する」、「多数の国と地域からの輸入についてさらに個別の追加関税を設ける」などとなっています。トランプ関税は複雑であり、大きくまとめると4つの関税で構成されており、特に貿易相手国における関税や非関税障壁などを考慮する「相互関税」が注目されているのです(図表2参照)。「トランプ関税」における相互関税が一般的な相互関税と異なる点は、相手国の非関税障壁を幅広く考慮対象としていることです。すなわち、お互いに同じ税率で関税をかけ合うのではなく、相手国の非関税障壁を考慮対象としている点が一般的な相互関税とは大きく異なる点です。すなわち、相互関税と言いながら、実際には非相互関税であり、仮に相手国がトランプ関税の関税率に合わせて米国製品に対する関税率を引き上げるならば、トランプ大統領は報復関税という形で対抗することになります。ちなみに、「非関税障壁」とは、輸入品を対象とする各国内の消費税、輸入品を対象とする検査基準や法令など、輸入品を対象とする関税以外の規制や輸入における障害などを指します。トランプ関税においては、日本の消費税についてもアメリカ製品の輸入を妨げる一因であると指摘しているようです。
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税関相互支援協定(CMAA)(財務省)
(https://www.customs.go.jp/kyotsu/cmaa/cmaa.htm)を基にIFA Leading作成。
(出所)メディア情報を基にIFA Leading作成
(4)トランプ関税が及ぼす日本経済への影響とは
最後にトランプ関税に伴う日本経済への影響について考えてみましょう。日本の企業における主な影響としては、①アメリカ向け直接輸出・他国経由による輸出の減少(特に自動車産業において)②アメリカ経済のインフレ加速、個人消費の減速、③世界経済の低迷に伴う成長率の低下、④日本企業における設備投資の減少(特に自動車及び輸出産業)、日本国内における個人消費の減少、等が考えられます。今回の関税措置は、米国における貿易赤字縮小が目的とされていますが、現実的には米国製品の競争力を勘案すると、貿易赤字が大きく縮小する可能性は小さいとみられています。むしろ、関税措置によって米国内の雇用を創出するという側面が強いのではないでしょうか。そのため、米国現地に生産拠点を構えるメーカー等はその痛みが軽減される一方で、そうしたメーカーに部品等を供給する下請け会社(サプライチェーン)は米国外に拠点を置いてある場合が多く、大きな影響を受けることが予想されます。サプライチェーン側が価格転嫁できればそのダメージも吸収できますが、メーカー側と合意できない場合はサプライチェーンの収益性は悪化することが見込まれます。メーカー側としても新たにサプライチェーン再編が必要になり、結果として調達コストが上昇する可能性もあります。
こうした状況を鑑みて、日本企業の間で関税影響を軽減するために米国市場を回避する動きが広がり、輸出減少から為替相場が不安定化(円安に振れた場合、輸入コスト上昇)するといった間接的な影響が生まれる可能性があります。日本の稼ぎ頭である自動車業界はサプライチェーンが多岐にわたることから、影響範囲が最も大きいと予想されています。さらに、アップル社のiPhoneに代表される米国製品に部品などを納入する製造業・半導体産業への影響も大きいとみられています。また、食品・農業・医薬品分野では原料・飼料の高騰に伴う価格転嫁が進み、結果として一般消費者がその負担を強いられることが懸念されています。
