IFAL Times
世界経済見通しを下方修正~トランプ政権による関税政策が成長率を下押しへ
世界経済見通しが下方修正されました。この記事では、IMFが公表する世界経済見通しについて、その下方修正の背景や、当面のリスク要因、今後の見通しに関してなどを解説していきます。

- (1)IMFによる世界経済見通しとは何か
- (2)4月のIMF世界経済見通しでは世界経済は減速すると予想
- (3)先進国・米国の見通しを下方修正
- (4)中国でも成長率鈍化を予想
- (5)IMFではさらに経済成長率が悪化する可能性を示唆
- IFA Leadingのアドバイザーにお気軽にご相談ください
目次
(1)IMFによる世界経済見通しとは何か
IMF(国際通貨基金)では、年に4回、世界経済見通しを公表しています。IMFによる経済見通しは、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)などと並んで最もポピュラーな経済見通しですが、投資家や政策当局者にとって最も関心を集めている経済見通しであると言われています。IMFでは、毎年4月と10月に詳しい報告書を出しており、1月と7月に成長率などの予測を改定しています。投資家や政策当局者は、成長率の見直しが上下どちらの方向なのか、その背景には何かあるのか、当面のリスク要因は何なのかといったポイントを注視することになるわけです。今回は4月に公表されたIMFによる世界経済見通しを整理してみたいと思います。
(2)4月のIMF世界経済見通しでは世界経済は減速すると予想
世界の実質GDP成長率予想は2025年が前回の3.3%から2.8%へ▲0.5ポイント、2026年は同3.3%から3.0%へ▲0.3ポイントのそれぞれ下方修正となりました。この要因として、米国が貿易相手国に対して段階的に導入を開始した輸入関税が世界的な貿易・投資・サプライチェーンの混乱を招き、各国経済にマイナス影響を与えるといった点を挙げています。なお、今回IMFでは、2つのシナリオを提示しています。すなわち、ひとつは4月2日以前の政策措置を前提としたシナリオであり、この場合、2025年の成長率は3.2%と前回予想比小幅下方修正となります。もうひとつは4月9日以降の米国による中国への追加関税と一部の国に対する90日間の停止措置、中国に対する報復関税が恒久的になると仮定したシナリオであり、この場合、2025年、2026年の成長率はほぼ今回公表値となります。関税政策の展開次第では、成長率見通しが大きく変動しうるとして、従来の単一予測を補完する形で複数の代替シナリオを示したことになります(図表1参照)。

出所:2025年4月 世界経済見通し(WEO)に基づきIFA Leading作成
(3)先進国・米国の見通しを下方修正
主要国・地域別にみると、先進国の成長率予想は2025年が前回の1.9%から1.4%へ▲0.5ポイント、2026年は同1.8%から1.5%へ▲0.3ポイントのそれぞれ下方修正となりました。なかでも、米国については、関税政策による不確実性の高まりや貿易摩擦による影響、需要の勢いが鈍化するといった状況を背景に、2025年予想が前回の2.7%から1.8%へ▲0.9ポイント、2026年予想が2.1%から1.7%へ▲0.4ポイントそれぞれ大幅下方修正となりました。米国については、幅広い品目の関税引き上げに伴う物価上昇によって個人消費が減速することに加えて、経済の不透明感によって企業による設備投資が減るリスクが指摘されています。また、日本については、2025年予想が前回の1.1%から0.6%へ▲0.5ポイント、2026年予想が0.8%から0.6%へ▲0.2ポイントそれぞれ下方修正となりました。日本については自動車輸出に占める米国向け割合が高く、自動車関税の打撃が深刻化する恐れがあると懸念されています。日本の場合、企業の賃上げ浸透によって家計に購買力は増加しているものの、賃上げ率を上回る物価上昇、米国の関税政策による企業収益悪化などによって成長率が押し下げられるとみています(図表2参照)。
(4)中国でも成長率鈍化を予想
経済成長率鈍化は先進国だけではありません。新興国や途上国においても成長率の下方修正が相次いでいます。中国については、2025年予想が前回の4.6%から4.0%へ▲0.6ポイント、2026年が4.5%から4.0%へ▲0.5ポイントそれぞれ下方修正となりました。中国の場合、合成麻薬の流入対策の不備を理由にした計20%の制裁関税に、「相互関税」が加わり、対米輸出に大きな影響が出ることになります。中国政府では、財政拡張による景気刺激策に取り組んでいますが、トランプ関税の打撃が大きく、成長率が4%割れとなる可能性も取りざたされています。なお、ロシアの2025年予想は前回の1.4%から1.5%へと小幅ながら上方修正しています。この点については、トランプ大統領は「ロシアは基本的に(米国と)ビジネスをしていないからだ」と説明しており、ロシアを相互関税の対象から外しているためです。いずれにせよ、トランプ関税の影響は先進国、新興国問わず世界経済全体にとってマイナス要因であることは確かなようです。

出所:2025年4月 世界経済見通し(WEO)に基づきIFA Leading作成
(5)IMFではさらに経済成長率が悪化する可能性を示唆
こうしたなかで、IMFでは先進国のインフレ率は2025年に2.5%を見込んでおり、前回から0.4ポイント上方修正されました。関税引き上げ後の米国内の物価上昇が影響し、日本銀行など各国の中央銀行が物価上昇目標に据える2%を上回る状況が当面続くとの分析を示しています。IMFは今回の予測について、短期的にも長期的にも悪化する可能性のほうが大きいとみています。米国は4月9日に相互関税の各国・地域ごとに上乗せした分について90日間の猶予措置を打ち出した一方、中国製品への関税の上乗せ分は145%に引き上げられました。IMFは仮に猶予が恒久化されても、2025年の世界成長率は2.8%で変わらないとみています
IMFでは、政策の不確実性や金融市場の緊張なども考慮すると、世界の国内総生産(GDP)は今回の予測に比べて2025年でさらに1.3%、2026年で1.9%減少する可能性があるとみています。IMFは高関税がもたらすデメリットを列挙しています。第一に、国境をまたぐ直接投資の流れが分断され、資本蓄積に悪影響を及ぼすというものです。その結果、生産拠点の最適ではない移転や技術的な分断が起こることになります。そして、輸入物価上昇を通じたインフレ圧力が高まることになります。さらに、金融市場が圧迫される今回のような非常事態では、安全資産としてドルが買われることになります。ドル高が進めば、途上国では外貨建て債務は負担が重くなり、自国通貨安が輸入物価の上昇につながるリスクもあるのです。