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親子上場とは ~日本特有の事象であり、ガバナンスの観点からは否定的~
親子上場とは、親会社と子会社が共に株式を上場させていることをいいます。この記事では、親子上場のメリットデメリットや、解消の動きが広がる昨今の企業動向などを解説します。
- (1)親子上場とは何か
- (2)諸外国では親子上場はほとんど見られない
- (3)親子上場の問題点
- (4)親子上場解消の動きが一段と広がっている
- (5)親子上場によるメリットとデメリット
- (6)主な親子上場の事例と今後の展望
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目次
(1)親子上場とは何か
親会社とその子会社が、ともに株式を上場していることを「親子上場」といいます。親子上場には、社内の新規事業を分離し、子会社として上場させ、成長を促すという利点もあります。一方、親会社は、子会社の総株主議決権の過半数を有し、子会社の財務および事業の方針について、決定を支配しています。そのため、親会社の利益が優先され、子会社の少数株主の利益が損なわれる、「利益相反」の問題が発生しやすくなるとされています。但し、子会社が上場することによるメリットにも目を向ける必要があります。出来ることならば、子会社は上場した後に、親会社との資本関係を解消し、独立した経営を目指すのであれば、投資家からは歓迎されるのではないでしょうか(図1参照)。
(2)諸外国では親子上場はほとんど見られない
親子上場は、日本ではよくみられる形態ですが、海外では多くありません。このため、海外投資家からは、親会社が支配的な立場を利用しかねない親子上場について、企業統治(コーポレート・ガバナンス)上、問題があると指摘されています。ちなみに、日本の場合、上場会社のなかで親子上場の割合は6%程度ですが、フランスやドイツは2%程度、アメリカは1%未満、イギリスはゼロとなっています。このような状況を鑑みて、東京証券取引所は、2020年1月に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を設置しました。従属上場会社とは、支配的な株主である親会社を有する上場子会社のことで、研究会は親会社と子会社を巡る諸問題などについて議論を継続してきました。
(3)親子上場の問題点
親子上場の抱える問題は、大株主と少数株主で利益相反が生じかねないことです。基本的に親会社は子会社の経営権を有していることから、自社の業績拡大に向けて子会社から資金や人材、技術を引き抜いて、親会社のために活用することは理論上何ら問題ありません。株式市場においては連結決算で捉える以上、グループ内での経営資源の移動は本質的な価値に影響を与えないためです。むしろ、子会社の経営資源を親会社で活用した方が果実は大きいとなれば、その方が望ましいとも考えられるのです。しかし、子会社が上場している場合は様相が異なってきます。子会社の株主からすれば、株式を保有していない親会社の犠牲になって経営資源を吸い取られるというのは看過出来るものではありません。企業の経営陣は基本的に株主の期待に応える義務を負うのですが、子会社の経営陣が大株主である親会社の期待に応えようとすると、少数株主にはデメリットを被ることもあり得るのです。逆に、子会社の少数株主への配慮が過ぎると大株主である親会社が不利益を被るケースも考えられるのです。グローバル視点で親子上場が稀なのは、そして親子上場が海外投資家から不評なのは、このような利益相反が忌避されるためと思われます。
(4)親子上場解消の動きが一段と広がっている
親子上場に関する問題点が意識されるにつれて、企業側は親子上場の解消によって、コーポレート・ガバナンスを強化し、経営効率を高めようとする動きが一段と広がり、親子上場は減少傾向が続いています。ちなみに、2023年度末(2024年3月末)の親子上場会社数は190社となり、17年連続で減少しました。これまでは、親会社による上場子会社の完全子会社化が親子上場減少要因として最も多かったのですが、2023年度末は親会社の株式保有の減少により親子関係に該当しなくなる事例が最も多くなりました。このことは、他の上場会社やファンドへの売却を通じた企業グループによる価値向上策など、多様な施策がとられるようになってきた証左であると考えられます。さらには、親会社による売却に際し、当初想定していた企業(グループ)ではなく、いわゆる「同意なき買収提案」をしている企業に売却する事例も見られるなど、親子上場を取り巻く環境の随所に変化が見られるようになってきました。
少数株主の保護強化や、グループ経営の情報開示拡充、あるいは親子上場の解消が、いずれも進展していく過程で、日本株の魅力は一段と向上すると考えられます。なお、親子上場の解消方法としては、株式公開買い付け(TOB)などを通じた完全子会社化による上場廃止や、他社への売却があります。いずれの場合も、子会社の価格が市場価格を上回ることがあるため、引き続き多くの投資家が親子上場解消の動きに注目しています。
(5)親子上場によるメリットとデメリット
親子上場によるメリットとして、①子会社を市場で売却し資金を得ることで、親会社自身が新たな事業に投資することが可能になる、②子会社が市場に出ることで子会社の価値が上がると同時に、親会社の企業価値も向上する、③子会社の信用力向上により、子会社に対する資金や人材の調達がしやすくなる、④親会社から独立することで、子会社の経営の自由度が増す、⑤上場することにより上場企業としての子会社のステータスが上がり、従業員のモチベーションアップにつながる、といった点が挙げられます。一方、親子上場によるデメリットとして、①子会社に対する支配力が弱まるため、グループ企業としての経営判断が遅れたり、経営判断が振れたりする可能性がある、②子会社の上場により、これまで以上の詳細な情報開示が必要になる、③上場企業として高いレベルでのガバナンスが要求され、子会社に関わる内部管理体制のコストが増える可能性がある、④親会社がグループ全体の利益を最優先することで、子会社の少数株主の利益が侵害されるという問題が発生する懸念がある、⑤親会社にとってイメージダウンになるリストラを避け、親会社から子会社への出向や転籍を行う形にすることで、子会社側で不要な人材を受け入れなければならなくなる、といった点が挙げられます。かつては、親子上場によるメリットが強調されていた時代もありましたが、現在では、デメリットに着目する投資家が圧倒的に多く、親子上場の見直しは日本の株式市場における大きなテーマのひとつとなっています。
(6)主な親子上場の事例と今後の展望
最後に、現在の親子上場の事例を見てみましょう。親子上場解消として最もインパクトのあった事例として、2020年に行われたNTTによるNTTドコモにTOB(株式公開買付)が挙げられます。この結果、NTTドコモは上場廃止となり、その後はグループ再編を通じて企業価値に取り組んでいます。一方、主な親子上場の事例としては以下の通りとなっています(図表2参照)。イオングループの場合、総合小売企業として、さまざまな業態の子会社が上場していますが、現時点で会社側は「経営強化にとって親子上場は効率的である」とコメントしていることから親子上場解消に動く可能性は小さいとみられています。また、伊藤忠商事の場合、業容拡大のなかで上場会社を子会社化するといった動きによって親子上場となっていましたが、いずれは完全子会社化するとみられています。なお、2015年に株式上場を果たした日本郵政は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険という金融2社については、当初は完全売却を目指すとしていましたが、現時点では「出来るだけ早期に売却を進める」といった努力目標となっているようです。東証が「子会社上場は望ましくない」とのコメントを出しながら、政府系の代表的企業である日本郵政の親子上場を看過しているのは、取引所の信頼性という観点から望ましてことではないと思われます。もっとも、現状各取引所の新規上場規則で子会社の上場が認められている以上は、上場したいと言っているのを断ることはできないのですが。