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2024.12.17 コラム

厚生年金受給額を考える ~現役時代の給与がそのまま反映される訳ではない~

厚生年金受給者であっても、老後余裕のある暮らしをすることが難しくなってきています。支給額に上限が設定されている点や、物価上昇に追い付いていない年金給付額を補うためにはどうすればよいのか、この記事で解説していきます。

(1)わが国における年金の種類と仕組み

わが国の年金は四階建て構造となっています(図表1参照)。通常、我々が耳にするのは、一階部分の「国民年金」と二階部分の「厚生年金保険」となります。国民年金は国民すべてが加入を義務付けられており、学生や経済的事情で保険料を払えない場合は、未納手続きをしなければなりません。手続きをしないで未納を続けていると財産を差し押さえられてしまうこともあります。二階部分は会社員または公務員が加入している保険制度です。厚生年金保険については、一定の要件を満たせば加入が義務付けられることになります。また、三階部分は企業が独自で設定している年金制度であり、大企業などで取り入れられています。さらに、四階部分については、個人が自己資金で将来の年金を作るというものであり、2024年1月に導入された「新NISA制度」などによって個人年金に対する関心が高まっているようです。ちなみに、生命保険会社が販売している終身保険では、個人年金として受け取れる商品もあり、一定の人気を博しているようです。

図1 日本の年金制度の仕組み									
		四階部分	個人年金			 iDeCo(加入者数194万人)		新NISAなどを活用した資産運用		
										
		三階部分	企業年金			確定拠出年金	確定給付	厚生年金基金	退職等年金給付	
						(企業型)	企業年金			
						加入者数:750万人	加入者数:933万人	加入者数:12万人		
						※企業年金を設定している銀行、老舗メーカーなどは終身で支給される場合がある				
										
		二階部分	厚生年金		国民年金基金	厚生年金保険				
					加入者数:34万人	会社員・加入者数:4,047万人		公務員など・加入者数:465万人		
										
		一階部分	基礎年金		国民年金(基礎年金)					
					第1号被保険者		第2号被保険者		第3号被保険者	
					自営業者、学生など		会社員、公務員など		第2号被保険者の被扶養配偶者	
					加入者数:1,449万人		加入者数:4,513万人		加入者数:793万人

(2)日本の公的年金制度

次に、日本の公的年金制度についてみてみましょう。日本の公的年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の二階建てで成り立っています。公的年金制度は、いま働いている世代(現役世代)が支払った保険料を仕送りのように高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方(これを賦課方式といいます)を基本とした財政方式で運営されています(保険料収入以外にも、年金積立金や税金が年金給付に充てられています)。 また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「二階建て」と呼ばれる構造になっています。具体的には、自営業者など国民年金のみに加入している人(第一号被保険者)は、毎月定額の保険料を自分で納め、会社員や公務員で厚生年金や共済年金に加入している人(第二号被保険者)は、毎月定率の保険料を会社と折半で負担し、保険料は毎月の給料から天引きされます。専業主婦など扶養されている人(第三号被保険者)は、厚生年金制度などで保険料を負担しているため、個人としては保険料を負担する必要はありません。老後には、全ての人が老齢基礎年金を、厚生年金などに加入していた人は、それに加えて、老齢厚生年金などを受け取ることができます。

(3)公的年金による受給額はそれほど多くない

それでは、公的年金では、幾らくらい受給できるのでしょうか。かつて政府は、年金収入は現役時代の収入の50%をメドとしているとしていました。このコメントから、「現役時代に月給80万円の収入があったら、40万円くらいの年金収入がある」と思ってしまいます。しかし、実際にはそれほど多額の年金を受け取れる人は皆無になります。例えば、現役時代に月収100万円の収入があっても、厚生年金(含む国民年金)の月当たり最大支給額は25万円程度と言われています。これは、厚生年金保険料には上限が設けられているためです。勿論、夫婦ともに厚生年金を受給する世帯では、受給額はもっと多くなりますが、一般には公的年金だけで老後の生活を維持することは難しいと思われます(図表2参照)。

図2 公的年金の受給金額早見表			
年金の種類		年間の受給金額	毎月の受給金額
 夫婦ともに自営業の場合	(国民年金+国民年金)	159万円	約13万2,500円
 夫婦ともに会社員の場合	(厚生年金+厚生年金)	約408万円	約34万円
 夫・会社員、妻・専業主婦の場合	(厚生年金+国民年金)	約297万円	約24万7,500円
 単身会社員の場合	(厚生年金)	約217万円	約18万1,000円

(4)公的年金だけで生活するのは楽ではない

総務省に推計によると、60~69歳の世帯の平均消費支出は月当たり30万円程度、70歳以上では同24万円程度とされています。さらに、税金(所得税、住民税、固定資産税)や家賃・管理費・住宅ローンといった固定費も負荷されることになります。税金、家賃、管理費といった固定費を勘案すると、月当たり支出はさらに膨らむことになります。最近では、インフレによる物価上昇が続いていることに加えて、マンションの修繕積立費や管理費なども値上がり傾向にあります。水道光熱費やガソリン価格といった生活に欠かせない支出も増加しています。公的年金は、物価変動を反映して増加または減少しますが、物価上昇に追い付いていないのが実態なのではないでしょうか。

勿論、消費支出は人それぞれなので、節約志向の人もいれば、ある程度贅沢をしたい人もいるでしょう。どこまでが贅沢なのかは一概に言えませんが、65歳以上の世帯であっても、年に数回程度は旅行をしたいでしょうし、たまには美味しいレストランに行きたいと思います。趣味にもおカネを掛けたいでしょうし、冠婚葬祭による支出もあるかもしれません。高齢者になると、ある程度時間の余裕が出来る人が多いので、食事会などの誘いも増えてくると思われます。そうなると、月当たり30万円程度では足りなくなってきます。最近では、旅行費用、レストラン代、観劇・コンサートチケットなども値上がりしているので、月当たり消費支出が50万円を超えることもあるかもしれません。そうなると、公的年金だけでは足りなくなってしまうので、個人年金や資産運用による収益を積み上げられるかがポイントになってくるわけです。個人年金や資産運用については、長期運用が大切なので、できるだけ若い時期から始めることが望ましいと思われます。

(5)国民年金・厚生年金による受給金額を把握することが大切

ここで、国民年金・厚生年金による受給金額早見表を使って、ご自身の公的年金受給額を確認してみましょう。この数値は2024年現在のものであり、将来の物価変動或いは年金制度改革によって変動することに留意しなければなりません。老後生活の糧となる公的年金が大きく減額されるといったことは想定し難いと思われます。とはいえ、国民年金のみ受給している人は勿論のこと、厚生年金(含む国民年金)受給者であっても余裕のある生活を送るには十分ではない受給金額であることは認識しなければなりません(図表3参照)。

それでは、年金受給額を増やすにはどうしたら良いのでしょうか。わが国の老齢年金(老齢になって受給できる年金)は通常65歳から受け取ることになります。ただし、特例として年金の受け取り開始を60歳から75歳の間で選択することも可能です。繰上げをした場合は早く受け取れる分、65歳から受給する場合と比べて、支給される年金額が少なくなります。逆に、繰下げをした場合は遅く受け取る分、年金額が増額される仕組みになっています。繰上げ減額率は1カ月当たり▲0.4%であり、繰下げ増額率は1カ月当たり0.7%となっています。ちなみに、10年間(120カ月)繰り下げると84%(0.7%✕120カ月)の増額となるので、65歳から月25万円の年金を受給できる人が75歳まで繰り下げれば、生涯毎月46万円の年金を受給できることになります。この場合、社会保険料や税引きの額も大きくなるなどデメリットにも注意しなければなりません。年金や資産運用に関しては、専門家であるファイナンシャル・アドバイザーなどに相談することが望ましいと思われます。

図3 国民年金、厚生年金受給金額早見表

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