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2024.05.30 コラム

公示地価動向 バブル期とは異なり、実需に基づいた地価上昇か

公示地価の上昇が目立っています。東京はもちろんのこと、最近では地方四市や、精力的に人が集まる施策を打っている都市の地価上昇も見られております。人口減少が続く日本で、いかに魅力的な街にしていくかが大きなポイントになるのではないでしょうか。

(1)全国平均の公示地価は3年連続で上昇し、上昇率が拡大した

先般、国土交通省が発表した「令和6年の公示地価調査」の特徴として、①全用途平均は住宅地、商業地何れも3年連続で上昇し且つ上昇率が拡大した、②なかでも地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)は11年連続でプラスを維持している、③全国平均の上昇率は1992年以降では最大となった、といった点が挙げられます。全体としてみると、コロナ禍でマイナスとなった地価は住宅地、商業地ともに2022年に上昇基調に転じましたが、2023年、2024年と増勢を強めていることが特徴となっています(図表1参照)。また、コロナ禍前は東京一極集中の様相を呈していましたが、コロナ禍によって東京よりも地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)をはじめとする地方圏の上昇率の方が高くなっていることに注目したいと思います。以前の地方都市では大企業の工場などの産業を呼び込み、そこの工場で働く人々を吸い寄せてきましたが、最近は産業構造が変わってサービス業などの3次産業が中心となってきたことから、各地方に住む人たちは若者を中心に東京や大阪に出ずに、地方四市のサービス業に従事するためにこれらの都市に集結する傾向にあります。地方四市はこうした働き方を志向する人々にとっては十分な社会インフラが整っているため、競争が激しく生活物価が高い東京や大阪にわざわざ出向かずとも十分に満足できる生活が出来ることも人気の理由なのです。

(図表1)令和6年全国公示地価調査・全用途平均

(2)住宅地では、三大都市圏の伸び率回復に加えて、地方圏での上昇率が拡大した

2024年の住宅地の公示地価は、全国ベースでは3年連続プラスとなり、コロナ禍での一時的な下落を乗り越えて、増勢に転じたことがうかがわれます。全国平均の2024年の公示地価は、コロナ禍前の2020年の水準を上回ったと推察されます。全国の地価は、景気が緩やかに回復しているなかで、地域や用途により差があるものの、三大都市圏・地方圏ともに上昇が継続するとともに、三大都市圏では上昇率が拡大し、地方圏でも上昇率が拡大傾向となるなど、上昇基調を強めています(図表2参照)。住宅地の地価変動率上位地点をみると、2023年はベスト10全てが北海道だったのに対して、2024年は沖縄県、福岡県、長野県といったエリアの名が挙がっています。宮古島、白馬村は外国人にも人気の高いリゾート地であり、リゾート需要の高まりによって移住者が増えていることが影響していると思われます。また、福岡市では再開発の進展によって流入人口が増えていることが住宅地の上昇に繋がっているものと推察されます。住宅地地価の動きに関する特徴としては、「都市中心部や、利便性・住環境に優れた地域などでは住宅需要は堅調であり、地価上昇が継続している」、「三大都市圏や地方四市の中心部における地価上昇に伴い、周辺部においても上昇の範囲が拡大しており、特に地方四市の周辺の市等では、高い上昇となった地点が見られる」といった点が挙げられます。

(図表2)令和6年全国公示地価調査・住宅地

(3)商業地の公示地価も住宅地同様に全国的に上昇しているが、特に地方四市の上昇率が目立っている

2024年の商業地の公示地価も住宅地とほぼ同様な動きとなりましたが、上昇率は住宅地を上回る状況となっています。商業地では、全てのカテゴリーで前年比プラスとなり、地域別にみると住宅地を上回る上昇率を示している地点が多いことが特徴となっています。なかでも地方四市の公示地価は、コロナ禍においてもプラスが続いていましたが、コロナ収束に伴って一段と伸び率を高めています(図表3参照)。商業地地価の動きに関する特徴としては、「都市部を中心に、人流回復を受けて店舗需要の回復傾向が続いたほか、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、地価の回復傾向が進んでいる」、「再開発事業等が進展している地域では、利便性や賑わいの向上への期待感などから、地価上昇が継続している」、「インバウンドを含めた観光客が回復した観光地や、人流回復が進む繁華街では、地価の大幅な回復が見られる」、「都市中心部の交通利便性等に優れた地域では、マンション需要との競合により、高い上昇となった地点が見られる」といった点が挙げられます。

(図表3)令和6年全国公示地価調査・商業地

(4)子育ての街の地価が高い伸び率を示している

今年の公示地価で興味深いのが首都圏における郊外住宅地で高い伸びを示した街がいくつか出現したことです。今回トップ100に千葉県から20もの地点がランクインしました。内訳は流山市と市川市が8地点ずつであり、上昇率は15%から17%もの高い伸び率となりました。この2つの市は、いずれも子育て政策に力を入れていることで有名な街です。流山市は市役所にマーケティング課を設置して、課長は外部から人材を招聘。流山市民になっていただくターゲットをDEWKS(ダブル・エンプロイド・ウィズ・キッズ)、つまり「夫婦共働き子供あり」に設定し、保育施設の充実、共働き夫婦の通勤時に子供を保育園に送り迎えする送迎保育ステーションの設置などターゲットを絞り込んだ施策でDEWKSの心をつかむことに成功しているのです。一方、市川市では第2子以降の保育料を所得制限なしに無償としています。これは千葉県内の自治体では初の試みとして注目されています。また、①市立の小中学校の給食を所得制限なく無償化する、②18歳までの子供の医療費助成を打ち出し、自己負担金に月額で上限を設ける、③同一医療機関での同一月での受診については入院11日、通院6回以降は自己負担金が無料となる、など子育て家族に徹底的に寄り添った政策を展開しているのです。こうした地道な取り組みも評価され、近年人気の街になっているのです。

(5)同じような立地でも成長スピードには大きな差が生じている

コロナ禍による働き方の変化や都心新築マンションの高騰などを理由に郊外部の地価が上昇基調にあるとの見方もありますが、実は郊外といっても街によって大きな差が生じ始めているのが現実なのです。千葉県では流山市や市川市、柏市などの地価が10%以上の上昇を示しているのとは対照的に、同じような立地にありながらこれらの街と同様の上昇率を示せていない街もあるのです。増加率の低い値を示しているのは佐倉市1.1%、八千代市1.3%、四街道市1.5%などとなっています。神奈川県内の郊外都市でも成長スピードに大きな差が生じ始めています。湘南エリアの藤沢市4.2%、茅ケ崎市5.2%、鎌倉市3.8%、逗子市3.9%など軒並み高い上昇を示しているのに対して、小田原市0.5%、三浦市0.4%、横須賀市0.9%などとほとんど地価は上昇していません。埼玉県内では行田市は0.6%の下落。同様に加須市0.4%の下落、羽生市0.4%下落など昨年に続いて地価が下落した街の名が並んでいます。人口が減少に向かうことがあたりまえの我が国で、人が集まり地価が上昇していくためには、人を惹きつける魅力をいかに演出するかが問われているのです。政府が掲げた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中で、各自治体に人口増加施策とその実施による人口増加予測を出させたところ、日本の人口が倍増することが判明したなどという冗談のような本当の話がありますが、自治体同士の人の奪い合いはこれからがまさに本番となりそうです。住宅選びにおいても人が集まり成長する街を見極める力が試される時代になっているのではないでしょうか。

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