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2025.06.27 コラム

建築費高騰の影響を考える~建築費高騰は構造的な問題である~

建築費高騰は、労務・資材コストの上昇に加え、建設業界の人手不足や規制強化、少子高齢化などの構造的課題が重なった結果であり、一時的ではなく継続的な問題として捉える必要があります。

(1)建設業界の現状と課題を整理すると…

建設業界は人々の生活と密接に関係する業界であり、首都圏の再開発をはじめ、全国的なインフラ整備、建て替えやリノベーションなどの旺盛な需要により成長を遂げています。国土交通省が発表した統計によれば、建設投資額は右肩上がりで上昇しています。2024年度の建設投資は73兆200億円となり、2015年から継続的に増加が続いています。一方で、建設業界は多くの課題を抱えています。人材不足、高い離職率、長時間労働の常態化などは、その典型例です。少子高齢化による熟練技能者の減少と若年層の入職者数減少に加えて、若年層の離職率の高さも課題です。背景には、長時間労働や厳しい労働環境、給与水準の問題などが考えられます。これらの課題が複合的に影響し、建設業界では倒産件数も増加傾向にあります。なお、建設業の倒産要因としては、人材不足の他に人件費や資材価格の高騰、コロナ禍における融資の返済負担増加なども挙げられます。このような状況に追い打ちをかけるように、2024年からは新たな労働規制が建設業界に適用されることとなりました。この規制が「2024年問題」と呼ばれるものです。

(2)建設業界における2024年問題、2025年問題とは何か?

建設業界における「2024年問題」は、長年放置されてきた労働環境を是正するための行政措置であり、時間外労働への罰則付き上限規制の導入と割増賃金率の引き上げが主な内容となっています。これにより労働環境の改善が期待される一方で、企業には労働時間管理の厳格化が求められ、工期の長期化や人件費の増加など、直接的なコスト増の影響が発生しています。行政措置の施行後、各企業で採用強化や時間外労働の上限規制の遵守などの対策が実施されていますが、現場で働く従業員からは「改善を実感できていない」との声も上がっており、経営者層との認識ギャップも課題視されているようです。さらに、2025年問題も建設業界に大きな影響を及ぼす可能性があります。2025年問題とは、超高齢化社会が直面するさまざまな影響を指しており、主に2つの課題が考えられます。すなわち、①少子高齢化と団塊の世代の引退による人員確保の難易度が増す、特に建設業界においては熟練技能者の大量退職と若手入職者の不足が深刻化する、②IT化やDX化の遅れによる潜在的な損失の拡大、建設業界においては生産性向上を阻害し、コスト増、人材不足、競争力低下などの損失を招く、といった点となります。これら2024年問題と2025年問題によって、建築費高騰に拍車がかかっているというのが現状です。

(3)バブル期を大きく超える建築費高騰の実態

それでは、実際に建築費はどの程度高騰しているのでしょうか。国土交通省が公表しているデータを基に、非居住用建築着工単価の推移をみると、2021年度までは比較的安定していましたが、2022年度以降、上昇基調を強め、直近の2025年4月のデータでは1㎡当たり50万円超を記録しています。ちなみに、非居住用建築とは、オフィスビル、工場、倉庫、病院施設、学校施設など居住用以外の全ての建築物を対象にしています。かつては、オフィスビルの単価が全体を牽引していましたが、最近ではデータセンター、物流施設などが建築市場を牽引しているようです。この結果、建築着工単価はバブル期を大きく上回る水準にまで上昇しています。建築費は、さまざまな要因が重なり合って現在の水準を形成しています。現在の建築費高騰は、世界的な経済環境の変化、資材価格の上昇、国内の構造的な問題、そして予測困難な外部要因が複雑に絡み合って生じた結果といえます。建築費高騰はさまざまな要因が複雑に絡み合って生じていますが、中でも建築コストを構成する「労務コスト」と「資材コスト」の高騰は、建築費を直接的に押し上げる主因になっていると考えられます。これら二大コスト要因について、それぞれの背景にある具体的な要素を掘り下げ、現在の建築費高騰がなぜ生じているのかを詳細に検証していきたいと思います。

図表1 非居住用建築着工単価の推移

(出所)国土交通省資料よりIFA Leading作成。単位:千円/㎡

(4)労務コスト高騰の要因分析

まず、建築費を構成する主要因の一つである「労務コスト」について分析します。建設業界では慢性的な人手不足や高齢化、そして各種規制強化により、人件費の上昇傾向が続いています。人件費の上昇を客観的に表す指標として、公共工事設計労務単価の引き上げが挙げられます。2025年3月からの改定では、全国全職種単純平均で前年度比6.0%引き上げられました。公共工事設計労務単価とは、公共工事の設計に用いる労務費の算定基準となるもので、建設労働者の賃金上昇を反映して毎年改定されています。今回の引き上げは建設労働者の賃金上昇を反映したものであり、建設業界の人件費が高騰していることの表れです。人件費の引き上げはすべての職種において行われている施策ですが、建設業界では特に「2024年問題」と「人材不足」という二つの構造的課題によって人件費高騰の傾向が顕著に表れています。労働時間規制の厳格化は、現場の運営方法を根本から変えるものです。これまでのような長時間労働による工期管理が許されなくなり、同じ工程を回すためには追加人員の確保や、より計画的な工程管理が必須となりました。単純計算でも、同じ仕事量を8時間/日で完了させるには、12時間/日で働いていた時代と比べて1.5倍の人員が必要です。この人員増が直接的なコスト増となっているのです。

(5)資材コスト高騰の要因分析

次に、もう一つの要因である「建築資材コスト」の高騰についてみてみましょう。一般財団法人経済調査会が公表しているデータによれば、2020年度の資材費の価格指数を100としたとき、2024年度は141.9と、わずか5年間で資材費が1.4倍に高騰したことがわかります。しかし、この上昇ペースを年度ごとに詳細に見ていくと、2020年から2021年にかけては19ポイント、2021年から2022年にかけては18.9ポイントと急激な上昇を記録しました。一方、2022年は3.3ポイント、さらに2023年は0.7ポイントの上昇にとどまっており、明らかに上昇ペースが緩やかになっています。2020年から2022年にかけての急激な上昇局面は、ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルスの世界的流行によるサプライチェーンの寸断が主な要因でした。特に、国際物流の混乱、工場の操業停止、原材料の供給不足などが重なり、建設資材の需給バランスが大きく崩れたことが価格高騰を招いた要因だと考えられます。また、日本では資材の調達を海外に依存しています。特定の国や地域に依存したサプライチェーンは地政学リスクや災害に脆弱であるため、価格変動を招きやすいことが構造的な課題です。そのほか、世界的な環境問題も資材費高騰の一因です。規制強化や世間のニーズは、建設業界に高性能な断熱材や再生可能エネルギー設備の導入など、新たなコスト要因をもたらす可能性があるからです。

(6)ゼネコンの利益率は回復途上との認識?

最後に、主要ゼネコンの建築部門の工事利益率の推移を見てみましょう。ゼネコン各社は2020/3期までは比較的高い工事利益率を維持していました。ところが、コロナ禍での工事遅延、2022年度以降の建設コスト上昇によって2022/3期以降、利益率は低下傾向をたどりました。2025/3期にはゼネコン各社の工事利益率は好転した企業が多く、2026/3期も改善傾向をたどると予想しています。とはいえ、ゼネコン各社の工事利益率はコロナ禍前の水準には届いていません。とはいえ、ゼネコン各社の会社全体の営業利益率は一定水準を維持しており、配当水準も引き上げています。一方で、株式投資家からは一段と利益率を引き上げる要望が強く、また人的資本経営から間接コストも増加傾向が続く見通しとなっています。このため、ゼネコン各社は建設コストを受注単価に反映させて、工事利益率を高める姿勢を今まで以上に強くしていくのではないかと思われます。

図表2 主要ゼネコンの建築部門の工事利益率の推移

(出所)会社資料等よりIFA Leading作成。26/3期予は期初会社計画による。

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