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関税とは~世界経済にとってネガティブな政策~
関税とは、主に輸入品に掛けられる税金のことです。これまで、世界各国はヒト、モノ、カネが自由に往来することで発展を遂げてきました。昨今の関税引き上げによる貿易戦争が、このような自由な往来を妨げることによって、暗黒の時代へと逆戻りしないことを願わずにはいられません。

- 関税とは~世界経済にとってネガティブな政策~
- (1)トランプ政権による関税政策の真意
- (2)関税に関わるいろはを理解することが大切
- (3)貿易協定は貿易取引を活発化させる目的がある
- (4)メキシコ、カナダへの関税引き上げは諸刃の剣
- (5)中国に対する関税強化は競争力を削ぐためか?
- (6)日本に対する関税政策はどうなるか
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目次
関税とは~世界経済にとってネガティブな政策~
(1)トランプ政権による関税政策の真意
トランプ米国大統領は、大統領就任直後、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国に10%の追加関税を課すための大統領令に署名しました。カナダとメキシコへの関税は2月4日の輸入分から適用される予定でしたが、1カ月延期すると発表しました。両国が米国への不法移民や薬物の流入を阻止するための国境対策強化に応じたことを受けたもので、北米大陸における貿易戦争は当面回避されたと言えそうです。一方、中国に対しては今後の対応を協議するとしていますが、先行きは不透明な状況となっています。現時点で、中国は米国に対して報復関税として石炭や自動車などに10~15%の追加関税を課すとしています。そもそも関税引き上げの目的は自国の産業を保護することとされていますが、もう一つは、関税を幅広い外交問題を解決する手段の1つとして捉えられているのではないかと思われます。実際のところ通商とは直接関係のない不法移民やフェンタニルなど麻薬の流入阻止のために、関税を用いて他国に是正を求めたことが証左であるとみられます。
(2)関税に関わるいろはを理解することが大切
次に、関税の基本的な点について整理してみましょう。関税とは、主に外国から買ってくるモノ(輸入品)に掛けられる税金です。基本的には、国内の農家やメーカーを保護することを目的にしています。輸入品に関税が上乗せされると、関税の分だけ輸入品の値段が高くなるので、その分価格面で国内品が売れやすくなるという効果があります。関税が掛かるのは次のようなケースです。すなわち、①自国で売るために商品を輸入する、②海外通販で商品を購入する、③海外旅行で買った土産物を持ち帰る、といったタイミングで課税されることになります。宅配便で荷物が届いても、自分で運んでも、海外からの荷物ならすべて関税の対象となります。ちなみに、法人のみならず、個人が輸入する商品も関税の対象となります(図1参照)。

(3)貿易協定は貿易取引を活発化させる目的がある
さて、関税を理解するためには、貿易協定について整理する必要があります。貿易協定とは、国と国との間の経済連携を強化するために締結される協定であり、関税や非関税障壁の削減や撤廃、貿易ルールの整備などが謳われています。さらに、昨今は、自由貿易協定と言われる2カ国以上の国や地域が相互に関税や輸入割当などの貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃或いは削減することを定めた協定が増えています。日本が参加している自由貿易協定として、TPP、RCEPなどが挙げられますが、何れも米国は参加していません。トランプ政権は、米国第一主義を掲げていることから、2国での貿易協定をベースとして貿易政策を進めようとしているのではないかとみられています。この点については、自由貿易協定に加盟すると米国の主張が通りにくいといった点を懸念しているからではないでしょうか(図2参照)。

(4)メキシコ、カナダへの関税引き上げは諸刃の剣
米国にとって、カナダとメキシコは北米経済圏として相互に依存してきた国であり、お互い主要な輸出先となっています。3国の間では2020年7月に発効した自由貿易(関税撤廃)協定である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を締結しており、密接な関係を持っています。このため日本の製造業においても、自動車産業などでは対米輸出関税が軽減されるメリットを活かすために、メキシコに生産拠点を移管するケースが増えていました。ところで、米国法のもとでは、議会の承認を得ず大統領の権限で、追加関税を課すことができるという見方が一般的となっています。しかし、トランプ政権による追加関税は、国際法上は正当化されないとされています。WTO(世界貿易機関)では、①加盟国が関税を課すことのできる上限を超えて関税を課すことを禁じているほか、②全ての国に対して一律の関税待遇を義務付けるとしています。今回のカナダ、メキシコに対する25%関税に関しては、いずれにも違反しているとみられているのです(尤も、現時点では関税適用を猶予しているので、違反には問われませんが…)。こうしたなかで、トランプ大統領は、WTOからの脱退をほのめかしており、トランプ政権による関税政策の先行き不透明感は拭えません。
ここで、米国が関税強化を実行した場合のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。メリットとしては、ドル高が進み輸入品価格が抑制されることが挙げられます。さらに、輸入品と競合する商品を生産する産業や企業の収益が拡大することが考えられます。一方、デメリットとしては、貿易相手国が報復関税を課すことによって、貿易活動が停滞する恐れが高まります。こうした状況に対して、米国産業界からは、米国、カナダ、メキシコは相互依存経済圏が確立しているので、トランプ大統領の関税強化は両国の友好関係を損ねるだけでなく、米国消費者にとってはコストアップによる製品価格上昇という不利益を被るので撤回して欲しいといった要望の声が多いようです(図3参照)。

(5)中国に対する関税強化は競争力を削ぐためか?
一方、中国に対する関税強化についてはどうでしょうか。トランプ大統領は、2月4日、中国に対して10%の追加関税を発動しました。中国は即座に報復措置として、米国から輸入する一部産品への関税賦課などを即座に発表しました。第一次トランプ政権下において、中国をターゲットに関税を引き上げた結果、米中貿易額の減少という流れにより相打ちという形となりました。とはいえ、当時の中国経済は比較的順調であり、追加関税は10~15%の水準であったため、追加関税分を生産者輸出入業者が負担することで価格が大きく変化する事態は起こらなかったようです。今回の場合、中国経済は停滞期に入っているため、米国輸出分を国内消費でカバーすることは難しく、さらに関税が50%以上に引き上げられた場合、中国は大きなダメージを負うことになりそうです。米国にとっても中国をはじめとする海外諸国からの輸入品価格上昇によってインフレ再燃という悪夢に見舞われるかもしれません。それでも、トランプ大統領が対中強硬策を取っているのは、「米国第一主義」を掲げていることから、中国の経済成長を許さないと姿勢の表れなのではないでしょうか。米国を脅かすものには強硬に対応するということなのでしょう。さらに、中国については、「ウイグルや香港などの人権問題」、「経済安全保障面での対峙」、「一党独裁の統治体制」といった点に対して政権内の強硬派が対立姿勢を強めていることから、中国をターゲットとした経済戦争が終結する可能性は小さいと言えそうです。
(6)日本に対する関税政策はどうなるか
最後に日本に対するトランプ政権の関税政策がどうなるのか考えてみましょう。日本は西側諸国の一員として米国を支えてきました。安倍政権時には、トランプ大統領と良好な関係を築いていたため、過度な負担を強いられることはありませんでしたが、今回はどうなるのでしょうか。トランプ大統領は、日本を含む全貿易相手国からの輸入品に対して10%の関税を課すと表明しています。第一次トランプ政権では、日本は牛肉や豚肉といった農産品の関税の引き下げなど大幅な市場開放を求められ、日米で新たな貿易協定を締結した経緯があります。今のところ、日本を名指しした形では言及していませんが、日本政府関係者の間では、自動車への関税上乗せや日本の農業分野の市場開放を求めてこないか警戒する声が出ているようです。日本に対しては、貿易赤字の縮小を求めてくるとみられていますが、日本から米国に対しては、①サービス収支(GAFAMなどのサブスク費用)、②証券投資(米国株式及び債券に対する投資)は大幅な支出超過(対米赤字)になっていることを理解してもらう必要があるかもしれません。ちなみに、日本から米国への輸出品目をみると、自動車・同部品、一般機械、電気機器の3品目で全体の70%を占めています。このため、これら製品を生産している製造業は関税上乗せ分のコストをどのように転嫁するか頭を悩ませることになりそうです(図4参照)。
高関税政策は世界経済にとってネガティブな政策であることは言うまでもありません。歴史を紐解けば、第二次世界大戦の遠因は、各国が自国産業を保護する保護貿易主義に走って、関税引き上げやブロック経済圏を作り出したことだと考えられています。勿論、保護貿易だけが戦争を引き起こしたわけではありませんが、国際協調に反した動きを強めていけば、経済低迷によって国同士の衝突のきっかけになりかねません。これまで、世界各国はヒト、モノ、カネが自由に往来することで発展を遂げてきました。そこには、SNSなど新たな情報ツールが寄与してきたことも間違いありません。関税引き上げによる貿易戦争が、このような自由な往来を妨げることによって、暗黒の時代へと逆戻りしないことを願わずにはいられません。
