IFAL Times
海外人気移住先 ~移住先のメリットとデメリットを吟味すべき~
海外人気移住先を見ると、約半数が米国、中国、オーストラリアです。なぜ昨今海外移住者が増えてきているのか、海外移住のメリットやデメリットなどを踏まえ解説いたします。
- (1)日本人による海外駐在人数は減少傾向にある…
- (2)海外に移住するメリットとデメリットをどう捉えているのか
- (3)海外移住では欧米は永住者が多い
- (4)アジア地域では永住者の割合がそれほど高くない
- (5)都市別では温暖な地域で永住者が増加している
- IFA Leadingのアドバイザーにお気軽にご相談ください
目次
(1)日本人による海外駐在人数は減少傾向にある…
海外に移住する日本人は2019年までは年々増え続けていましたが、2019年の141万人をピークに減少傾向をたどっており、2023年時点では129万人となっています。なお、永住者にフォーカスすると57万4,727人と過去最高となっています。ちなみに、海外在留邦人数は、1989年の58万人から1999年79万人、2009年113万人、2019年141万人とほぼ右肩上がりで増え続けてきました。この間、我が国は「失われた30年」によってデフレ経済下での低経済成長を余儀なくされ、人口も2008年をピーク期に減少傾向となっています。こうしたなかで、何故、海外への移住者が増え続けてきたのかというと、①グローバル化の進展によって海外駐在員が増えてきたこと、②国内社会の閉塞感によって若年層の海外志向が高まってきたこと、③50歳代、60歳代といったシニア層での海外移住マインドが高まってきたこと、といった要因が考えられます。2019年をピークに日本人の海外駐在人数が減っている要因としては、コロナ禍によって海外移住マインドが低下してきたことに加えて、円安進行などによって海外移住メリットが薄らいできたことが影響しているものと推察されます。
※永住者とは、母国の国籍を持ちながら母国以外の居住地に半永久的に住むことができる資格者のこと。
(2)海外に移住するメリットとデメリットをどう捉えているのか
それでは、海外移住のメリットとデメリットとは何なのでしょうか。メリットとしては、①好みの気候の場所に住める、②物価の安い国で生活できる(東南アジアなど)、③税の負担を減らして節税できる(所得税率の低い国)、④精神的・体力的に成長できる、⑤人脈・世界観が広がる、などが挙げられます。現役世代であれば、⑤の人脈・世界観が広がることが最も魅力的であり、リタイア世代であれば、②や③の生活コスト低減が魅力的なのかもしれません。一方、デメリットとしては、①日本にいる友達と疎遠になってしまう、②現地での物価高騰による金銭的悩み(インフレが進行している先進国)、③ビザ関連の手配が面倒、④家探し・仕事探しが大変、⑤治安が良くない、日常生活での不便さ、などが挙げられます。やはり、言葉の問題と現地での文化・習慣が違いについては慣れるまで大変だと思います。
(3)海外移住では欧米は永住者が多い
次に、2023年の公表データを基に国別海外移住者の状況を見てみましょう。トップは米国であり、海外移住者全体の3割強を占めています。次いで、中国、オーストラリア、カナダ、タイといった順位となっています。海外移住者全体としては2019年に比べて2023年は減ってしまいましたが、永住者は増えています。また、永住者の割合が高いのはブラジル、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、米国といった順位であり、ブラジルは明治・大正時代に日本からの移住者が多かった名残だと思われます。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドについては現地の治安状況が比較的良好なことから、語学留学、現地での就業を経て永住とするといったパターンが多いのではないでしょうか。米国や英国といった欧米諸国もカナダなどと同様なパターンが多いとみられていますが、商社、金融機関、メーカーなどの海外勤務を経て帰国するケースも多いため永住者の割合は5割前後にとどまっていると推察されます(図1参照)。
(4)アジア地域では永住者の割合がそれほど高くない
一方、アジア地域での永住者の割合はそれほど高くありません。2023年データによると、韓国が38.2%、台湾が33.1%と比較的高くなっていますが、それ以外の地域は1桁にとどまっています。アジア諸国の場合、我が国に比べて生活に関わるコストが低く、比較的気候が温暖な地域が多いため、リタイア世代が移住するケースが増えつつあるようです。日本で需給する年金(国民年金・厚生年金・企業年金)や株式などの配当金収入があれば、現地での生活コストは賄えるようですが、昨今では円安の影響もあってそれほど余裕のある生活は送れないといった見方もあります。アジア地域の永住者の割合が欧米諸国に比べて高くないのは、言葉や文化・風習などの違いに加えて、現地でビザ取得が難しいといった要因が影響しているのではないでしょうか。
インフラ設備や食生活、或いは現地での治安という点では、欧米諸国、アジア地域ともに一長一短ですが、日本国内に比べると何れも不安要素が残ります。ある調査によると、アジア地域での移住先人気ランキングでは、トップが台湾(台北)で、次いで香港、タイ(チェンマイ)、シンガポール、カンボジア(プノンペン)、インドネシア(バリ島)、フィリピン(セブ島)、ブルネイ、マレーシア(ペナン島)、ベトナム(ハノイ)となっており、隣国である中国、韓国はベスト10に入っていません。やはり、比較的治安が良く、親日的という点がポイントとなりそうです。また、日系企業とのつながりが深く、日系企業の駐在員、駐在員の家族がある程度居住していて、日本人の海外旅行先として人気の高い台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールなどは移住先として人気が高いようです。せっかく移住するのでしたら、安心して暮らせる場所が好まれることは言うまでもありません。
(5)都市別では温暖な地域で永住者が増加している
最後に都市別海外在留邦人の動きを見てみましょう。基本的には米国主要都市の人気が高く、ロサンゼルス都市圏、ニューヨーク都市圏、ホノルル、サンフランシスコ都市圏、サンノゼ都市圏などが名を連ねています。ニューヨークを除くと、西海岸或いはハワイといったどちらかというと温暖な地域に人気が集まっているようです。ニューヨークの場合、世界に名だたる観光地であり、スタートアップ企業などのビジネスはもとより、世界最高峰の芸術や文化が集積している街です。芸術、金融、ファッション、メディア、テクノロジーなどあらゆる分野で自己実現の機会に満ちていると言えるでしょう。
これに対して、ロンドン、バングバー、トロントといった地域は、比較的治安が良いため、留学生として移住するケースが多いのではないかと思われます。一方、上海、香港、ソウルについては、日本の本社からの海外勤務として移住するケースがほとんどだと思われますが、ビジネス上の繋がりが低下すると、永住を選択するのではなく、帰国するといったケースが多いのではないでしょうか。このあたりは、日本との距離が比較的近いにもかかわらず、文化や風習の違いが影響しているのではないでしょうか。また、最近ではシドニー、メルボルンといったオーストラリアも人気移住先となっています。ほとんど日本との時差が無く、比較的現地の治安が良いこと、気候が温暖なことなどが影響していると思われます。いずれにせよ、永住を選択しなくても、海外に居住地を構えるという選択肢はこれからも増えていくのではないでしょうか。