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2024.09.09 コラム

インフレ時代とは ~インフレ経済は成長率向上に影響する~

インフレ時代に突入しつつあった先進国ですが、2024年のインフレ率は前年比2%台と収れんしてきています。米中の利下げ、日本の利上げ、途上国の高いインフレ率、今後の世界経済はどうなっていくのか、この記事で解説します。

(1)デフレ経済の長期化によりわが国の経済力は低下の一途をたどってきた

わが国は1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以降、長らくデフレに苦しめられてきました。わが国が長らくデフレ環境に陥った要因として、①経済全体の需給バランス調整に伴う生産力の低下、②過剰債務処理に伴う銀行の信用創造機能の低下、③人口減少・高齢化に伴う消費活動の低迷、④雇用優先の経営による賃金の頭打ち、といった点が挙げられます。バブル当時のわが国経済規模(名目GDP)は米国に迫る勢いだったのですが、その後の長期にわたる経済低迷によって、2010年には中国の後塵を拝し、そして2023年にはドイツに抜かれて世界第4位に転落してしまいました。このままでは近い将来インドにも抜かれて世界第5位に転落するとみられています。必ずしも経済規模だけで、国力が決まるわけではありませんが、経済成長によって財政が健全化し、医療・社会福祉の充実、教育投資の充実、軍事力強化といったことが実現できることは間違いありません。

(2)2024年になって主要国のインフレ率は収れんしつつある状況

主要国のインフレ率(消費者物価上昇率)をみると、コロナ禍に伴う世界的な供給制限によって2022年から2023年に掛けてインフレ率が高まりました。2022年以降、デフレ環境に苦しんでいたわが国のインフレ率が高まり、日銀が目標としていた物価上昇率2%を恒常的にクリアするようになりました。その後、コロナ禍の収束によって世界のインフレ率は落ち着きを取り戻し、直近の公表データによるとイタリア以外のG7のインフレ率は全て前年比2%台となっています。インフレ率が落ち着いてきた理由としては、①金融引き締め効果の影響、②コロナ禍収束に伴うサプライチェーンの回復、③エネルギー価格の安定、④買い占めなど消費者行動の落ち着き、などが挙げられます。一方、ロシア、ブラジルといった新興国では依然としてインフレリスクが残っていることに加えて、世界第二位の経済大国である中国が「デフレリスク」に直面していることは、世界経済の不確実性を増していると言えるかもしれません(図表1参照)。

図表1 主要国のインフレ率の推移

(3)インフレによる社会・経済への影響

ここで、インフレによる社会・経済への影響について考えてみましょう。インフレになるとモノの値段が上がって相対的に貨幣価値が下がるために、現預金の価値が目減りしてしまいます。1本100円で売っていたジュースが110円に値上がりするとします。仮に、1,100円でジュースを購入した場合、1本100円であれば11本のジュースが買えたのが、1本110円になれば10本しか買えなくなります。このことは、貨幣価値が下がると言われています。インフレ時代になると、株価や不動産価格は値上がりする期待が大きくなります。これは、人々がインフレによって将来の企業業績が良くなったり、不動産事業の収益が良くなると考えるからです。すなわち、インフレ期待が高まると、名目値としての株価や不動産価格が上がる傾向があるといえるのです。逆に言えば、インフレ期待が見込めなければ、株価も不動産価格も停滞することになります。こうした状況が長く続いていたのが、わが国の「失われた30年」ということになるわけです。

(4)インフレによるメリットとデメリットとは何か?

インフレのメリットとしては、第一に、お金が循環するので景気が良くなることが挙げられます。また、インフレになると名目GDPが成長するので、GDPに占める国債発行残高比率が低下することになります。現在のわが国で構造的に問題となっている点として、国債発行残高の大きさが指摘されています。このままでは財政が破たんしてしまうのではないかといった懸念すらあるほどです。わが国において財政破綻が差し迫っているわけではありませんが、国債発行残高の大きさによって財政政策が一定の制約を受けていることは間違いありません。その対処方法のひとつがインフレ誘導となります。仮に国債発行残高が毎年1%ずつ増えたとしても、名目GDPが毎年2%ずつ増えていれば、GDPに占める国債発行残高の比率は低下傾向に向かうことになります。このことによって、財政問題が一気に解決するわけではありませんが、財政リスクは低下することになるといえるでしょう。

一方、インフレのデメリットは、物価上昇が家計を圧迫することです。賃金が上がらなければ、人々は消費を手控えるようになり、景気は悪化してしまいます。物価上昇と賃金がある程度パラレルに推移することが大切になります。また、急激なインフレは経済活動にマイナスとなってしまいます。これは、急激なインフレは販売価格への転嫁が困難なために、取引高が滞ってしまう懸念があるためです。朝、パンを買いに行ったら一個200円だったのが、お昼に買いに行ったら一個1,000円に値段が上がっていたという話は、戦後の混乱期等にみられるハイパー(急激な)インフレのエピソードとしてよく聞かれる事例です。

(5)主要国のインフレ動向についての見方

次に主要国のインフレ動向についてみてみたいと思います。先進国では金利引き上げ効果によってインフレ率が落ち着きつつある一方、途上国ではエネルギー価格上昇、通貨価値の下落、食料価格の変動、人口増に伴う需要の増加などを背景に依然として高いインフレ率が続いています。こうしたなかで、米国ではインフレ率の落ち着きを背景に金融緩和政策に着手しつつあり、政策の優先順位はインフレ対策から景気対策へとシフトしつつあるようです。また、日本ではこれまで悩まされていたデフレ構造からの脱却によって一定程度のインフレ環境が定着しつつあることから、正常金利に向けて金利上昇を模索する局面へ入りつつあるようです。正常金利がどの程度の水準なのかについてはいろいろな議論がありますが、少なくとも向こう数年掛けて2~3%台の金利水準を目指していくのではないでしょうか。一方、中国ではデフレ環境へと変わりつつあり、「中国は失われた30年に突入した」といった見方が増えつつあるようです。中国の場合、卸売物価指数は1年半以上にわたって前年比マイナスが続いており、経済全体にデフレ圧力が掛かっている状態となっています。このため、中国当局は金利を引き下げて景気を下支えする政策を取っていますが、不動産不況の長期化などを背景に景気の先行きに不透明感が広がっているなかでどの程度の効果があるのか不透明な情勢です。少なくとも中国経済全体では、需給ギャップ問題を抱えていることから、デフレ経済から脱却するにはある程度の時間が掛かるとみておいた方が良いかもしれません。

図表2 主要国のインフレ動向に関する特徴点の整理
■これまでの状況(概ね2023年迄の状況)
(1)全世界 ✔ ロシアによるウクライナ侵攻を背景に供給リスクが高まった。✔ しかし、国際的な一次産品価格の下落と金融引き締めにより、インフレ率は2020年をピークに低下傾向にある。
(2)米国 ✔ コロナ禍での一次産品価格上昇と人手不足に伴うコストプッシュインフレにより2022年のインフレ率は40年振りの高水準。 ✔ その後、金融引き締め政策が奏功し、インフレ率は低下へ
(3)日本  ✔ 人手不足に起因するコストアップによりデフレからインフレへ。✔ 特に、想定以上の円安進行によって輸入物価上昇が痛手。✔ 産業界全体での人手不足により賃金上昇が顕著に。
(4)中国 ✔ コロナ禍前までは旺盛な国内消費、生産活動を反映して主要先進国を上回るインフレ率を記録していた。✔ その後、金融引き締め政策が奏功し、インフレ率は低下へ。
■ これからの状況(概ね2024年後半以降の状況)
(1)全世界  ✔ 供給制約の解消により先進国でのインフレ率が低下傾向に。✔ 一方、途上国についてはエネルギー価格上昇の影響を受けて一段と高いインフレ率が見込まれるている。
(2)米国 ✔ 2023年以降の原油価格の落ち着き、経済活動の正常化により景気悪化リスクが後退しつつある状況。✔ インフレ率の落ち着きを背景に緩やかな金融緩和政策に着手。
(3)日本 ✔ 2024年は一段の円安進行によって金利引き上げに着手?✔ インフレ率も他の先進国と遜色のない状況となっており、金利水準引き上げ⇨為替相場の適正化に着手すべき局面か?
(4)中国 ✔ 2023年以降は、国内需要の停滞、さまざまな産業での供給過剰を背景に、インフレからデフレ環境へと変わりつつある。✔ 卸売物価は、1年半以上にわたって前年比マイナスが継続。

(6)インフレ経済下での必要とされる取組みとは何か?

それでは、インフレ経済下ではどのような取組みが必要なのでしょうか。わが国では、世界的な一次産品コストの上昇、物流コスト上昇に加えて、慢性的な人手不足の進行によって今後ともインフレ圧力が高まっていくとみられています。ここ1~2年で、あらゆる日用品価格、食品価格、光熱費、サービス価格が上がってしまいました。最近では「令和のコメ騒動」によって、主食であるおコメの値段も上がってきています。外食費、交通費、ホテル代などもコロナ禍前に比べて随分上がった印象があります。この最大の要因は、人手不足とそれに伴う人件費の上昇です。飲食店ではかつては1,000円だったアルバイトの時給が1,400円くらい出さないと人が集まってくれないようです。アルバイトを確保できなければお店が回らなくなって、時短や休業を余儀なくされてしまいます。人件費アップを吸収して、商品或いはサービス価格に転嫁できるか否かがビジネスにとって最も大切になります。消費者としては、商品やサービス価格の比較、さまざまな割引サービスやポイントの活用に加えて、「資産運用」によっておカネの目減りを少しでも回避することが求められるのではないでしょうか。

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村松 麻衣子
ウェルスマネジメント戦略部マネージャー
村松 麻衣子
Maiko Muramatsu
2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、浜松支店にて資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。