IFAL Times
人手不足社会の進展
人手不足が、十分な生産体制やサービス提供を困難にさせ、日本の経済回復の足かせになってしまうかもしれません。2024年問題も注目される中、今後企業はどのような対応を取っていく必要があるのでしょうか。
- (1)人手不足問題は喫緊に取り組まなければならない課題である
- (2)我が国における人手不足問題の背景とは何か
- (3)2024年問題による社会への影響に注視しなければならない
- (4)正社員による人手不足の割合は一段と深刻化
- (5)人手不足への対応策として何をしなければならないのか
- IFA Leadingのアドバイザーにお気軽にご相談ください
目次
(1)人手不足問題は喫緊に取り組まなければならない課題である
わが国にとって、「人手不足問題」は構造的問題であり、喫緊に取り組まなければならない課題であることは言うまでもありません。昨今は、タクシーがつかまりにくくなったり、電車や路線バスの運行本数が減ったり、建設や住宅着工が予定通り進まなかったり、飲食店の影響時間が短縮されたりと社会のさまざまな分野で人手不足の影響が出ています。我が国における人手不足問題の原因は、①少子高齢化の進展によって働き手が減っている、②低賃金の常態化によって地方から都市部への労働移動が進んでいる、③生産性向上の遅れによって依然としてマンパワーで業務を行っている、といった3点に集約されます。
わが国の人手不足問題は、コロナ禍前から問題視されてきましたが、コロナ禍後は経済回復にとって大きな足かせとなる可能性が出ています。何故、人手不足問題が経済回復の足かせになるかというと、人手不足によって十分な生産体制やサービスの提供が困難となり、経済活動に支障をきたすからです。既に、交通機関の運行本数の減少に加えて、医療・福祉・教育機関での慢性的な職員不足、ゴミ収集回数の減少など公共サービスの低下が進んであり、中長期的にもこうした状況は益々深刻化していくと予想されています。
(2)我が国における人手不足問題の背景とは何か
わが国における人手不足の背景は、「生産年齢人口(15~64歳)の減少」と「人材のミスマッチ」の2点に集約されると考えられています。総務省の推計によれば、わが国の生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに減少傾向となり、2025年にはピーク比17.7%減の7,170万人になる見込みです。この間、生産年齢人口の将来予測のベースとなる0~14歳の人口は、2,001万人から1,407万人へと29.7%減少する見通しなので、生産年齢人口は2025年以降も減り続けることになります。労働市場では、女性や65歳以上の高齢者の就業機会が増えているので、一定程度の労働力は確保できますが、就業者全体の減少傾向が続くことは避けられません。
一方、人材のミスマッチという点では、就労や社会を取り巻く構造変化が人材のミスマッチに繋がっていると言えそうです。勤労者の場合、かつては一つの会社で定年まで勤めあげるのが一般的でした。また、夫は仕事に就き、妻は専業主婦という家庭がほとんどでした。こうした社会では、扶養家族という仕組みが有効だったのです。しかし、今日の労働市場では、自分に合った会社や仕事に転職するケースが増えています。夫婦共働きという形態も増えており、若年層では扶養家族という考え方も薄らいできているようです。また、兼業・副業を許容する社会になりつつあることから、さまざまな働き方が広がっているように感じられます。こうしたなかで、構造的に需給バランスがひっ迫している業種として、運輸、建設、飲食・宿泊、情報サービス、医療・福祉業界などがあります。こうした業種の特徴としては、労働集約的産業であり、システム化や情報化が進んでいないこと挙げられます(図表1参照)。
(3)2024年問題による社会への影響に注視しなければならない
さて、ここで「2024年問題」について考えてみたいと思います。2024年問題とは、働き方改革関連法により、時間外労働や休日出勤についての制限を全ての産業に適用することで生じる問題です。労働者を雇用している企業は、定められた時間数を超え、従業員を時間外労働や休日出勤に従事させたときには罰則の対象となります。従業員の働く環境を整えるためにプラスに働く法律ですが、人材が不足し長時間労働が当たり前の業種では、法律を守ることで問題が発生する可能性があります。特に、業務内容の性質によって長時間労働になりやすい運輸、建設、医療・福祉業界は、対応に時間がかかることが予想されたため、対応できるよう猶予が設けられた結果、2024年4月1日から働き方改革に伴う規制が適用されることになりました。しかし、人材不足の目立つ運輸、建設、医療・福祉業界では、全ての企業で十分な対策が出来ているとはいえない状況です。長時間労働が罰則付きで規制され、従業員1人あたりの走行距離や労働時間が減少すれば、荷物が予定通りに届かない、工事が予定通り進まない、医療機関や福祉施設の受け入れが間に合わないといった事態もあり得るのです。
(4)正社員による人手不足の割合は一段と深刻化
ここで、帝国データバンクの調査結果から2024年4月の正社員の不足率を業種別にみると、「情報サービス」が71.7%で最も高く、次いで「旅館・ホテル」71.1%、「建設」68.0%と続きます。「情報サービス」の場合、デジタル人材の不足が叫ばれるなかで、「新型コロナの影響で企業によるIT投資が重視される認識が広まったこと」や「インボイス制度や電帳法などの改正に伴い、システム改修案件が増加していること」などを背景に高水準の人手不足が続いています。一方、「旅館・ホテル」では、国内及び海外からの旅行者の動きが活発化していることに加えて、旅館やホテルの就業者が減ってしまったことによって人手不足状態が深刻化しています。また、建設業では、現場作業員の高齢化進展、若年層の入職者の減少等が人手不足に拍車をかけています。こうした動きについては2024年以降もしばらく続くとみられます(図表2参照)。
ちなみに、2023年4月から2024年4月に掛けて「情報サービス」、「旅館・ホテル」、「メンテナンス・警備・検査」、「医療・福祉・保健衛生」、「飲食店」などの業種では、人手不足の割合が低下しています。この点については、正社員を積極的に採用した結果、ある程度充足率が高まったことに加えて、派遣社員、パート・アルバイトといった非正規社員の増加によって人手不足感が緩和したことが影響しているものとみられています。とはいえ、こうした業種において、根本的な人手不足問題が解消されたわけではないため、人手不足に対する対応策は引き続き重要な経営課題であるといえそうです。
(5)人手不足への対応策として何をしなければならないのか
人手不足業種の共通点として、長時間・重労働、低賃金、労働市場の重層構造といった点が挙げられます。最近では、こうした業種でも働き方改革を進め、賃金水準を見直すなど労働力確保のための施策に取り組む企業が増えていますが、まだまだ改善の余地が大きいと思われます。企業が取り組むべきこととしては、働き方改革や人事制度の見直しによって社員の定着率を向上させることが大切です。特に、残業規制が適用される2024年問題を抱えている「建設」、「運輸」、「医療・福祉」については、業務フローの見直しが求められています。施主の希望に沿った工期設定、荷物配達の時間指定については早急に見直す必要があるのではないでしょうか。無料での再配達についても再考の余地があるかもしれません。バスや電車が時間通りに運行されることも当たり前と思ってはいけないのかもしれません。
日本商工会議所・東京商工会議所の調査によると、求職者に対して魅力ある企業・職場となるための取り組みとしては、「賃上げの実施、募集賃金の引上げ」と回答した企業が最も多く、次いで「福利厚生の充実」など待遇の改善による取り組みが多くなっています。その他、「多様で柔軟な時間設定による働き方の推進」、「場所にとらわれない柔軟な働き方の推進」といった柔軟で多様な働き方導入に取り組む企業の割合が増えているようです。いずれにせよ、人手不足解消のためには、サービスを享受する市民の意識改革とともに企業による働き方の変革が必要であるといえそうです。