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2024.06.13 コラム

外国人観光客向け二重価格 オーバーツーリズム対策として有益か

外国人観光客数、消費額はコロナ前を上回るスピードで増えています。加えて、昨今の原材料高や円安に伴いインフレも根付きつつある今、外国人向けと日本人向けの二重価格の是非が問われています。オーバーツーリズムの解決方法としてどのようなことが考えられるでしょうか。

(1)2024年に入ってからインバウンド需要の回復傾向が定着

政府観光庁の推計によると、2024年3月の訪日外国人旅行者数は、2019年同月比11.6%増の308万人余と月間ベースで初めて300万人台に乗せました。さらに、4月も同4.0%増の304万人と2カ月連続で300万人台を記録しました。このままの勢いで行くと、2024年の訪日外国人旅行者数は、過去最高を記録した2019年の3,188万人を更新するとみられています。これまでのインバウンド需要は、中国を中心とした東アジアからの観光客が大きく寄与していましたが、今回はシンガポール、タイ、フィリピンを始めとした東南アジア、米国、オーストラリア、ドイツなどの欧米オセアニア地域からの訪日外国人旅行者が増えたことが訪日外国人数を押し上げています。すなわち、インバウンド需要の分散が進んでいることが今回の特徴と言えそうです。

図表1 訪日外国人旅行者数の推移・月次ベース

(2)訪日外国人の旅行消費額動向

2024年1~3月の訪日外国人旅行者の消費額をみると、全体では既にコロナ禍前の水準を50%以上上回っています。また、1人当たりの旅行消費額は全体でコロナ禍前に比べて9割以上上回っているケースもみられています。この要因としては、円安効果が最も大きいと考えられますが、一方で人手不足や原材料価格上昇を背景としたわが国のサービス価格や製品価格の値上げも影響していると考えられます。実際のところ、ホテル代、飲食代、観光地での入場料、拝観料などもコロナ禍前に比べると随分値上げしているようです。

訪日外国人旅行者の国別動向をみると、コロナ禍前に比べて大きく上回ったのはフィリピン、米国、カナダ、オーストラリアであり、次いでシンガポール、ベトナム、ドイツ、英国、インドとなります。いずれにせよ、ほとんどの国からの訪日旅行者数がコロナ禍前を大きく上回っている結果となっています。このことは、わが国に対する旅行需要は一部の国や地域ではなく、世界的に広がりつつあることを示していると言えそうです。また、2024年1~3月の訪日外国人旅行消費額は、フィリピン、イタリア、米国、英国、カナダ、シンガポールは2019年同期に対して30%を超える高い伸び率となっています。主要国では、中国以外は全ての国からの訪日外国人旅行消費額が増えており、1人当たり旅行消費額もコロナ禍前に比べて大きく増えている傾向がうかがわれます。円ドル為替レートは2019年平均の110円前後に対して2024年1~3月平均では150円程度となっており、この間に36%程度円安が進んだことになります。したがって、仮に自国通貨で同じ額の買い物をすると、円ベースでは36%消費額が増える計算となります。

図表2 訪日外国人の項目別旅行消費動向

(3)外国人観光客向けに高い価格を設定

こうしたなかで、最近では、コロナ禍の2倍、3倍の価格になっているホテルも多いようです。土曜日だとビジネスホテルクラスでシングルが2万円から3万円程度が多くなっています。サラリーマンの出張時の宿泊手当は1万円から1万数千円程度が普通なので悲鳴を上げている人も多いでしょう。そこで、最近、外国人向けの「二重価格」を設定することが議論になっているのです。円安で殺到する外国人に高い価格を提示し、日本人と区別することの是非です。そもそもどこの国でも、消費者の属性によって料金が異なるケースは多いのが実態です。鉄道などの交通料金や娯楽施設等の入場料などで、子ども料金は大人の半額など当たり前のこととして受け入れられています。自治体が運営する施設(博物館や入浴施設など)では、地域住民は安く、他の地域からの訪問客には高い料金を設定していることもあります。最近ではシルバー割引を見かけることも増えました。これらを差別的な二重価格と感じる人はほとんどいないでしょう。なぜかといえば社会政策的、合理的な理由があると考えられているからではないでしょうか。

(4)JRは外国人向け格安乗り放題パスを用意

それでは、日本人と外国人で料金に差をつける例はあるのでしょうか。思い当たるのはむしろ外国人を安くする「ジャパン・レール・パス」です。「ジャパン・レール・パス」とは、外国から日本を観光目的で訪れる人が購入できる格安の全国のJR乗り放題パスのことです。あまりにも安いことに対して批判もあり、最近値上げしましたが、それでも普通車用が7日間で5万円となっています。このように、外国人向けが高くなる料金設定は、これまで日本ではあまり見かけませんでした。ちなみに、宿泊施設の料金は予約時期、宿泊人数、個人客か団体客か、何泊するのか、予約サイトの相違などで異なるので単純比較が困難です。また、ホテル側も部屋代の違いがクレームになることを恐れているのか、チェックイン時に料金確認を口頭で行わず、電卓で示し、隣のチェックイン客にはわからないようにしている節があります。また、コロナ禍のときには「県民割」など、地元民に対して割引する制度が多く見られました。ただし、外国人か日本人かという線引きで宿泊料金を変えることに関しては、問題ないと言い切れないかもしれません。飲食店での二重価格はさらに難しくなります。限られた空間で同時に飲食するからです。

(5)日本人に対して割引する方法は?

日本人には割引するという方法もありえますが、身分証明書などの確認も煩雑となります。また、日本人と外国人が混じったグループの場合はどうするのか、という別の問題が出てきます。SNSが発達した今日、そのようなことをすればたちまち店の悪評が立ち、高くしたいはずの外国人が入店しなくなるということもありえるのです。外国人向けのメニューから安い料理を削除してしまうという方法で客単価を上げる方法もあります。オーバーツーリズム問題の解決方法として、海外のある自治体では、生活路線となっているバス路線を外国人向けの地図から消してしまっている事例があるようです。自由競争下では、価格は当事者間で自由に決められます。同じサービスや物で相手によって取引価格が違っても本来は問題とはなりません。ただし、そこでは契約当事者の立場が対等であり、自由意思によって契約条件が決定されるという前提があります。しかし、事業者と消費者(BtoC)の取引においては、情報力、資金力、交渉力等において立場の非対等性が指摘されています。たとえば、契約自由の原則には「相手を選ぶ自由」を含むが、「外国人お断り」などの売り手の意思表示は差別として問題となりえるのです売り手の市場での影響力は格段に大きい場合もあり、社会的な影響が大きいからです。大手の飲食店等が、同じ商品を外国人に対して高く売るような状況は同様に認識される可能性があります。いずれにせよ、二重価格問題への対応は難しいことですが、インフレ時代における価格転嫁という観点からは避けて通れない問題と言えそうです。

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村松 麻衣子
ウェルスマネジメント戦略部マネージャー
村松 麻衣子
Maiko Muramatsu
2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、浜松支店にて資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。