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2025.02.04 コラム

エンゲル係数とは ~エンゲル係数の上昇は構造的問題である~

エンゲル係数とは家計の消費支出に占める食費の割合のことです。先進国を中心とした高齢化や共働きの増加、さらには食料価格の高騰から、エンゲル係数の上昇基調はこれからも進んでいくかもしれません。

(1)エンゲル係数とは何か?

「エンゲル係数」といった言葉を耳にすることがあります。エンゲル係数とは、家計の消費支出に占める食費の割合のことです。食費は食料品だけでなく、外食費も含んでいます。食費は日常生活において必要不可欠な支出であるため、エンゲル係数が小さい方が生活にゆとりがあるとされています。エンゲル係数の計算方法は、「エンゲル係数(%)= 食費 ÷ 消費支出 × 100」となっています。「消費支出」はいわゆる生活費にあたり、食費のほかに住居費、光熱・水道費、被服費、交通・通信費、教育費、教養娯楽費などが含まれます。貯金や税金、ローンの返済、生命保険・社会保険などの保険料などは含まれません。

(2)エンゲル係数の意味するもの

エンゲル係数は、ドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲル氏が提唱した指標であり、「家計の消費支出に占める飲食費割合が高いほど生活水準は低い」との説に基づいています。所得が低いほど、生活に必要な食料費に多くの割合を費やすためエンゲル係数は高くなり、反対に所得が上昇するほどエンゲル係数は低くなる傾向にあることをエンゲルの法則といいます。エンゲルの法則は、生活水準や消費パターンの変化を示す指標としても広く使われ、経済発展の度合いや国ごとの貧困層の割合を測定するためにも利用されているのです。途上国では、所得が低いためにエンゲル係数が高くなり、経済成長とともに所得が増えてエンゲル係数は低下するという流れとなります。そして、先進国になると所得が高くなることによってエンゲル係数は20~30%程度に落ち着くというパターンになるのです。

(3)わが国ではエンゲル係数が上昇傾向にある

わが国のエンゲル係数は、第二次世界大戦前は3割台でしたが、終戦直後には6割前後にまで上昇しました。1960年代以降、エンゲル係数は下がり続け、2005年には21.6%と22%を割り込みました。しかし、その後は徐々に上がり続け、2023年には27.8%と1985年の水準と同水準にまで高まっています。2024年についても、食品価格の上昇などを勘案すると、エンゲル係数は一段と高まっていると推察されます。日本の場合、物価高によって、食費支出が増えているのに対して、収入がそれほど増えていないために消費を抑制する動きによってエンゲル係数が上がっているものと思われます。

わが国では、経済成長とともにエンゲル係数は低下傾向をたどり、2005年頃には21%を割り込む水準にまで低下しました。その後、エンゲル係数は徐々に上昇し、2022年から2023年に掛けては上昇基調を一段と強めることになりました(図1参照)。エンゲル係数の上昇につながる食料品の物価高の要因はさまざまです。第一波は、2022ロシアによるウクライナ侵攻によって起こりました。ロシア、ウクライナともに農業大国であり、ロシアによる軍事侵攻によって小麦やトウモロコシといった穀物供給に不安がもたれるようになったのです。第二波は、世界的なインフレ進行に伴って食料価格全体に価格上昇が広がってきたことに加えて、人件費、物流費などの上昇が影響したことです。そして、第三波は、地球温暖化に伴う異常気象を背景に農作物の収穫が想定を下回っていることが挙げられます。

我が国のエンゲル係数の推移

(4)国際比較でみたエンゲル係数では日本は低位にある

さて、エンゲル係数を国際比較でみると、日本がG7各国のなかで最下位となっています(図表2参照。エンゲル係数が低いと順位が高くなる)。但し、日本以外の国々でも、近年、エンゲル係数は上昇傾向にあります。なお、日本以外では、家計調査が継続的・本格的に行われておらず、行われているにしても調査基準が同一ではないため、OECDが発表している数値はGDP統計から算出した推計値であることに注視したいと思います。各国ともに、2020年以降、エンゲル係数が上昇したのは、コロナ禍が襲った2020年にレジャーや旅行など外出関連の消費支出が落ち込んだのに対して、食費支出は巣ごもり消費で比較的堅調だったことが影響していると考えられます。この点については日本も同様であるとみられます。

ちなみに、米国のエンゲル係数が低いのは、生活全般が豊かで食費の割合は相対的に低くなるというエンゲルの法則の本来の要因のほかに、米国が農業生産性の高い食料生産大国であって食材費が相対的に安価であるため、あるいは食に力が余り入っていない文化だからではないかと推察されています。また、意外なことに日本の外食費比率は低位にとどまっています。日本は外食の機会が増えていると言われていますが、国際的にみると日本はまだまだ家庭食の国であることがうかがわれます。外食費の割合が多い国については、必ずしも生活が豊かということではなく、フルタイムによる共働きなどで外食をする機会が多くなっているということなのかもしれません。どこの国についてもいえるのですが、仕事先(外出先)から帰り道にテイクアウトでお弁当やサンドイッチなどを購入したら飲食費になるのでしょうか或いは外食費になるのでしょうか。この点について明確な定義は無いようですが、日本の場合、デパートでお弁当屋や総菜を購入して自宅に帰って食事すれば「飲食費」ということになるのではないでしょうか。オーストリア、スペイン、ギリシャなどは自宅で調理しなければ「外食費」になるのではないでしょうか。この点については明確な指針はありませんが、飲食費と外食費を合算して捉える必要があるのかもしれません。

エンゲル係数に国際比較

(5)今後も、エンゲル係数は上昇傾向が続く可能性が大きい

エンゲル係数の今後の見通しについては、世界の潮流として、高齢化や共働き世帯の増加は、なお続くとみられており、世界的な食料価格の上昇も地球規模で極貧人口、飢餓人口が大きく減少しているのに伴う食料需要の増加の表れであると考えられるため解消していく可能性は低いとみられます。そうすると、エンゲル係数の上昇という先進国共通の動きは今後、すなわちコロナの流行が収まった状況下においても続いていくと考えられるのではないでしょうか。むしろ、コロナの流行下で経験した家庭内で食事や料理を楽しむ生活態度が今後も定着し、エンゲル係数を高止まりさせる可能性さえあるかもしれません。わが国では、「キャベツ1個1,000円」が話題となっています。食事をすることは、生きるに必要なことであり、他の消費支出を削っても削れない支出項目です。昨今、安さを売れにしている業務用スーパーの業容拡大が続いているのも、消費者による生活防衛の姿勢を映しているのかもしれません。

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