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2024.08.15 コラム

永久劣後債とは ~AT1債について~

永久劣後債とは、普通社債や期限付劣後債よりも弁済順位が低く、満期日が設定されていない債券です。永久劣後債にはいくつか種類がありますが、その中でも本記事ではAT1債について解説していきます。AT1債は金融機関が発行する永久劣後債であり、通常の債券とは違い様々な特徴がある債券です。

(1)AT1債とは

AT1(Additional Tier1)債は、金融機関が発行する証券の一つで、債券と株式の中間的な特性を持ちます。原則、満期の定めのない永久債として発行され、金融機関の中核的自己資本であるTier1の一部として組み入れられる証券です。2008年の金融危機後に導入され、昨今ではこの発行形態も市場に浸透してきており、投資対象としての裾野が広がりつつあります。

AT1債と他の債券との優先劣後関係は以下にまとめています。企業が倒産した際(実質破綻時も含む)の法的弁済順位に関して、株式よりは高く、期限付劣後債やシニア債(普通社債)などよりは低いです。

株式や普通社債、劣後債の法的弁済順位やリスクの説明図。

(2)AT1債の特徴

AT1債には、普通社債と異なる様々な特徴があります(図2)。債券の種類の中では最も弁済順位が低く、発行体が倒産していない状態であっても元本が毀損するケースもあるため、十分にリスクを確認した上で投資判断を行う必要があると言えます。

AT1債の特徴
発行形態:コール付きの永久債として発行
クーポンの不確実性:発行体の裁量で利払いの停止の可能性(利息は非累積が一般的)
コールスキップリスク:コールがかからない可能性。コールスキップにより投資期間が長くなり、債券価格が下落する可能性。
元本削減・株式転換トリガー。①ゴーイング・コンサーン:健全だが、体力低下しつつある状態
普通株式等Tier1比率(CET1比率)があらかじめ定められた水準(トリガー水準)を下回った場合に元本削減、または、強制株式転換されるなどの条項付き。
元本回復条項が付いているもの、いないものがある。
⇒トリガー例「CET1比率5.125%を下回ること」等
②ゴーン・コンサーン:破綻状態
実質破綻認定時には元本全額が毀損し得る(発行体が破綻処理に至っていなくても)。
⇒トリガー例 「債務超過&支払不能のおそれ」、「危機時の政府支援」

AT1債の特徴 発行形態:コール付きの永久債として発行 クーポンの不確実性:発行体の裁量で利払いの停止の可能性(利息は非累積が一般的) コールスキップリスク:コールがかからない可能性。コールスキップにより投資期間が長くなり、債券価格が下落する可能性。 元本削減・株式転換トリガー。①ゴーイング・コンサーン:健全だが、体力低下しつつある状態 普通株式等Tier1比率(CET1比率)があらかじめ定められた水準(トリガー水準)を下回った場合に元本削減、または、強制株式転換されるなどの条項付き。 元本回復条項が付いているもの、いないものがある。 ⇒トリガー例「CET1比率5.125%を下回ること」等 ②ゴーン・コンサーン:破綻状態 実質破綻認定時には元本全額が毀損し得る(発行体が破綻処理に至っていなくても)。 ⇒トリガー例 「債務超過&支払不能のおそれ」、「危機時の政府支援」

(3)AT1債固有のリスク

AT1債のリスクは、バーゼルⅢTier2劣後債(期限付劣後債)のリスクに加え、AT1債特有の元本削減リスク、延長リスク、クーポンの不確実性が挙げられます。

・元本削減リスク

投資家は元本削減・株式への転換を通じて損失を被るリスクを負っています。ただ、中には元本回復条項付のAT1債もあり、発行体の財務が改善した場合に元本の回復を通じて損失を回復できる可能性があります。

・延長リスク

AT1債はコール実行に様々な規制上の制約があり、かつ、ステップアップクーポンが禁止されています。なので、AT1債はコール可能日に発行体が早期償還を選択しないリスクが存在します。海外発行体のAT1債では実際にコールをスキップした事例もあります。

・クーポンの不確実性

AT1債には、発行体の裁量によるクーポン停止のリスクが存在します。

(4)金融機関を取り巻く環境

そもそもAT1債という債券が発行されるようになった背景について説明します。

2008~2009年に発生したサブプライム問題・リーマンショックなどの金融危機を受け、欧米の多くの金融機関が破綻、または危機的な状況に陥ってしまい、世界経済全体が不安定な状態になりました。その際に大きな問題となったのが、税金の投入による金融機関の救済です。こういった公的資金の注入による、いわゆる国民の負担を「ベイルアウト」と言い、このベイルアウトを最小化するために、株主や債権者にその損失を負担させる仕組み、つまり「ベイルイン」が求められるようになりました。

実際には、バーゼルⅢという金融機関に対する規制の強化が入ったことで、

・自己資本比率の最低水準の引き上げ

・自己資本を保全するためのバッファーの導入

・自己資本への参入基準の厳格化

などが行われました。

このバーゼルⅢという規制が適用される金融機関(G-SIBs)もグローバルで定められており、日本では三菱UFJFG、三井住友FG、みずほFGが指定されています。

(5)AT1債の留意事項・まとめ

最後に、AT1債の留意事項をまとめておきます。

✓  通常の社債(シニア債等)に比べて債務の弁済順位が低い劣後債です。

✓  発行体である金融機関の自己資本比率があらかじめ定められた水準(トリガー水準)を下回った場合に元本が削減される、または、強制的に株式に転換されるなどの条項が付されています。

✓  事後に業況が回復した場合でも、減額された元本が回復しないものもあります。

✓  発行体が法的破綻に至っていない場合でも、実質破綻認定時に元本全額が毀損する恐れがあります。

✓  発行体の完全裁量によって利払いが停止される恐れがあります。

✓  利払い停止となった過去の利息は非累積となります。

✓  コール条項が付された永久債で発行されます。コールされない場合、債券価格が大きく下落する恐れがあります。また、永久に償還されない可能性があります。

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【国内債券の取引にかかるリスク】

債券は、債券の価格が市場の金利水準の変化に対応して変動するため、償還前に換金すると損失が生じるおそれがあります。

また、債券を発行する組織(発行体)が債務返済不能状態に陥った場合、元本や利子の支払いが滞ったり、不能となったりすることがあります。

【国内債券の取引にかかる費用】

国内債券を、相対取引によって購入する場合は、購入対価のみお支払いいただきます(委託手数料はかかりません)。

■外国債券

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債券は、債券の価格が市場の金利水準の変化に対応して変動するため、償還前に換金すると損失が生じるおそれがあります。

また、債券を発行する組織(発行体)が債務返済不能状態に陥った場合、元本や利子の支払いが滞ったり、不能となったりすることがあります。

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また、売買における売付け適用為替レートと買付け適用為替レートの差(スプレッド)は債券の起債通貨によって異なります。

 

 

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