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ドラッグストア業界が小売業の主役に
ドラッグストア業界は、高齢化や利便性のニーズを背景に急成長し、食品・医薬品・日用品を網羅する業態として、将来的にコンビニを超える小売の主役になりつつあります。

- (1)成長続くドラッグストア業界
- (2)ドラッグストアの歴史を振り返る
- (3)小売業におけるドラッグストアのポジション
- (4)ドラッグストアVSコンビニの攻防戦
- (5)ドラッグストアは高齢化社会との親和性が高い
- (6)コンビニよりもドラッグストアが小売業の主役になっていく
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目次
(1)成長続くドラッグストア業界
経済産業省の商業動態統計によると、ドラッグストア業界の成長が続いており、業界全体の売上高は10兆円が目前となっています。売上高10兆円という数字は、百貨店やホームセンターを大きく上回り、コンビニエンスストア(13兆円)に迫る規模となります。しかも、コンビニが出店鈍化・人手不足という壁に直面するなか、ドラッグストアの出店数の加速化、M&Aの積極化といった点を勘案すると2030年にもコンビニ業界を凌駕するのではないかとみられているわけです。まさにドラッグストア業界は小売業界の主役に躍り出ようとしているのです。ドラッグストア業界は2000年以降、急成長してきた業界です。ドラッグストアの特性を考えると、引き続き相対的に高い成長が期待できるのではないかと思われます(図表1参照)。

(出所)経済産業省(確報 商業動態統計調査)、メディア情報等を基にIFA Leading作成。
(2)ドラッグストアの歴史を振り返る
ドラッグストアの歴史は、町の薬局や薬店が生活者に寄り添ってきた流れのなかで育まれてきました。1970年代から1980年代にかけてのセルフ販売の普及により、米国型のドラッグストア業態が日本に導入され、医薬品や化粧品、日用品をセルフで安価に購入できる仕組みが登場したのです。1990年代には薬事法(現在の薬機法)改正により、一般用医薬品(OTC薬=処方箋なしで購入できる市販薬)の販売が拡大し、登録販売者制度の導入によって医薬品販売の担い手が広がりました。また、1995年の阪神淡路大震災を契機に、被災地支援で存在感を発揮したドラッグストアは、地域に根ざした業態としての価値を再認識されるようになりました。
2000年代に入ると、チェーン化と大型化が進み、調剤薬局との併設型店舗が増加するようになります。2010年代以降は、食料品や化粧品、介護用品なども取り揃え、生活全般を支える業態へと進化してきました。
(3)小売業におけるドラッグストアのポジション
ここで、小売業におけるカテゴリー別売上高及び店舗数の動向を見てみましょう。売上げ規模は、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、百貨店、家電量販店、ホームセンターの順となりますが、近年の伸び率はドラッグストアが突出して高くなっています。また、ドラッグストアの店舗数はコンビニの半分にも満たない状況ですが、伸び率は年率3~4%となっており、他のカテゴリーの店舗数が微増もしくは減少しているのとは対照的です。スーパーマーケットの店舗数が依然として増えていますが、これは、食品スーパー、業務用スーパーといった新しい業態のスーパーの店舗が増えていることが寄与しています。ドラッグストアは、売上高、店舗数の成長という点で、まさに小売業界の主役に躍り出ているといってよいでしょう(図表2参照)。

(出所)経済産業省(確報 商業動態統計調査)を基にIFA Leading作成。
(注記)ブルーの欄は前年比5%超の伸び率、イエローの欄は同マイナスを示している。
(4)ドラッグストアVSコンビニの攻防戦
ところで、コンビニエンスストア業界は、一般用医薬品の販売規制緩和を強く求め続けてきました。コンビニ店頭でも風邪薬や目薬などのOTC薬を販売できるようにすることには、消費者の利便性を高めるという大義名分がありました。一方、ドラッグストア業界はこの動きに強く反発し、「対面販売の原則」「専門知識に基づく説明責任」などを掲げて、制度の緩和に歯止めをかけてきた経緯があります。結果として、現在でもOTC医薬品の販売には薬剤師または登録販売者の常駐が必要とされており、ドラッグストア業界は自らの権益を巧みに守ってきたといえます。これは、生活者の健康を守るという建前と、ビジネスとしての競争優位性を両立させる戦略的対応でした。そして現在、ドラッグストアは医療・介護・予防・日常生活支援までを担う「地域包括ケア」(医療・介護・予防・生活支援などを地域で一体的に提供する体制)の一翼を担う存在として、その役割を拡大しています。
(5)ドラッグストアは高齢化社会との親和性が高い
何故、ドラッグストアがここまで成長できたのでしょうか。最大の理由は、高齢化社会との親和性です。徒歩圏内にある中・小型店舗が中心のドラッグストアは、高齢者にとって通いやすいのです。そうした社会インフラであるとともに、医薬品、調剤、食品、日用品、美容関連までそろう「ワンストップショッピング」が可能な業態は、他に例がありません。商品カテゴリー別の売上を見ると、処方せん調剤、ビューティケア、食品が大きく伸びており、とくに食品は3兆円を超える規模で、売上構成比の33.2%を占めています(2024年度実績)。高齢者になると、何カ所も店舗を回って買い物するケースは少なく、ちょっとしたことで体調を崩すことがあります。ドラッグストアという小売業態は、こうした高齢者によるセルフメディケーション(軽度な体調不良などを市販薬で自ら対応すること)から日常の買い物まで1カ所で済ませたいというニーズを的確にとらえているのです。

(出所)経済産業省(確報 商業動態統計調査)を基にIFA Leading作成。
(注記)ブルーの欄は前年比5%超の伸び率、イエローの欄は同マイナスを示している。
(6)コンビニよりもドラッグストアが小売業の主役になっていく
医療機関における、医療供給体制の需給ひっ迫が伝えられています。これからの時代は、国民一人ひとりが健康をマネジメントしなければなりません。「まず病院」から「まずドラッグストア」といった転換は、時間や費用といった生活者の制約に即した合理的な選択でもあります。健康と美容の課題解決と便利さをミックスし、顧客ニーズに対応してきたドラッグストアは、生活の最初の選択肢になるべき存在です。その先にあるのは単なる小売業の枠を超えた地域密着型プラットフォームとしての姿となります。コンビニを超える日は、単なる数字の逆転ではありません。生活の最前線を担う主役が、静かにすり替わろうとしているのではないでしょうか。