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2024.12.05 コラム

物価上昇の実態を探る ~賃金上昇を伴う良いインフレに繋がるかが重要に!~

物価上昇の波が我が国にも到来しています。「失われた30年」と呼ばれるデフレから、明確にインフレに変わりつつある中、昨今のインフレ要因や今後の見通しなどを解説します。

(1)本格的なインフレ時代が到来

バブル崩壊後、長年、デフレ経済に悩まされてきた日本ですが、2022年頃から物価が上昇に転じており、「インフレ時代」が到来しています。全国消費者物価上昇率は、2021年までは前年比0%台で推移していましたが、2022年に2.5%を記録、2023年は3.2%、2024年に入ってからも2%台後半での伸び率が続いています。また、わが国では人口減少社会の進展によってさまざまな分野で人手不足が問題となっています。企業は人手不足解消の手段として人件費を引き上げる動きを続けており、このことも物価上昇に拍車を掛けている要因となっています。そもそも、今回の物価上昇は2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻に端を発しています。穀物を中心に食料価格が高騰し、エネルギー価格も上昇に転じました。欧米各国による金融引き締め政策によりインフレ率は落ち着いてきましたが、世界的にはまだまだインフレの芽が横たわっています。

(2)わが国の物価上昇は人手不足に伴う賃金上昇に起因

わが国は「失われた30年」によって、物価が上がらない世界が続いていました。100円ショップやディスカウントストアが幅を利かせるようになって、人々は価格上昇を受け入れなくなってしまいました。商品によっては30年前の価格が据え置きとなっている商品すらありました。当然のことながら賃金は上がらず、むしろ名目賃金は低下の一途をたどってしまいました。いつしか、毎年基本給が上がる「ベースアップ」という言葉も聞かれなくなってしまいました。そうこうしていると、本格的な少子高齢化・人口減少社会に突入してしまいました。働き手である生産年齢人口(15~64歳)の減少によって、社会の至るところで「人手不足」による弊害が起こりつつあります。大企業は2020年頃までは60歳定年制がほとんどだったのですが、その後65歳定年制に移行し、さらに70歳定年、或いは定年制廃止といった企業すら出てきています。サービス業、飲食業、医療・介護、警備・清掃、建設業などでは人手不足が深刻化しており、賃金を上げなければ人が集まらなくなってきています。その結果、賃金上昇を商品やサービス価格に転嫁する形での本格的な物価上昇が始まっているのです。

(3)一般消費財価格の値上がりはじりじりと広がっている

ここで一般消費財価格の動きを見てみましょう。一般消費財価格は、コロナ禍前の2019年から2023年に掛けて概ね10~20%値上がりしました。食料品については、家畜に与える配合飼料の主原料である トウモロコシ・大豆価格が高騰したことによって生乳価格が上昇し、さらに円安進行の影響を受けてプロセスチーズが大きく値上がりしました(プロセスチーズの原料であるナチュラルチーズは85%以上を輸入)。コメ価格については、令和のコメ騒動によって2024年には前年比5割超の値上がり率となっています。外食費についてはじりじりと上がっている印象です。例えば、「箱根そば」のかけ蕎麦は、2017年には一杯280円だったのですが、2018年には300円、2021年に320円、2022年に340円、2023年に380円と毎年値上げをしており、2024年10月からは400円となっています。何と7年間で43%も価格が上がったことになります。11月現在、かき揚げ天蕎麦は540円なので、もはやワンコインではかき揚げ天蕎麦を食べられなくなってしまいました。また、衣類、日用品も値上がりしており、洗濯用洗剤は2019年比で30%増、前年比でも2桁の値上がりとなっています。(図1参照)。

図1 価動向を探るその1~一般消費財価格の推移~

(4)公共料金やサービス価格にも値上げの波が襲ってきている

値上げの波は公共料金及びサービス価格にも押し寄せてきています。なかでも、水道・光熱費といった公共料金は我々の生活と切っても切り離せない関係にあるので値上げは死活問題となります。このため、政府では原材料価格上昇に伴う電気代値上げに対しては、補助金を活用して時限的に価格を抑える政策を取っていますが、いつまで続けられるかは不透明な状況となっています。特に、近年は記録的な猛暑日が続いているので、電気代節約のためにエアコンの使用を控えることは「熱中症」に繋がりかねません。公共料金及びサービス価格については、住宅価格や消費財価格に比べると比較的落ち着いており、ある意味「物価の優等生」であると言えそうです。但し、サービス価格の場合、主たる原価は人件費であることから、これからは人件費アップを価格に反映して値上がりに結びつく可能性が高いと思われます。

(5)サービス価格では需要によって価格変動に格差が生じている

サービス価格のなかで最も値上がり率が大きかったのはタクシー代です。2019年から2023年の4年間で18.6%上昇しました。タクシー代の場合、初乗り料金を引き下げましたが、その後の距離加算、待ち時間加算などの値上げによってタクシー利用料金は上昇しています。また、バス代はそれほど上がっていませんが、昨今の運転手不足によって都市部でも減便路線が拡大していることから、利便性は低下していると言えそうです。一方、社交ダンス、ピアノ教室、英会話教室などの授業料はほとんど上がっていません。そもそも生徒の人数が減ってきており、需要が減っていることが影響しているのではないでしょうか。

そのほか、入浴料、ペット美容院代、新聞購読料は過去4年間で2桁の値上がりとなりました。入浴料はスーパー銭湯等の増加、ペット美容院代はペット保有者の増加、新聞購読料は新聞料金値上げが影響しているものと思われます。最近では、家事代行料の値上げが注目されます。家事代行の場合、自宅内のさまざまな場所の掃除はもとより、買い物、洗濯、料理など全ての日常の家事が対象となります。場合によっては、ペットの散歩や子供の送り迎えまで代行してくれるサービスもあるようです。共働きで家事に割ける時間が無い、プロに頼んだ方が安心だ、といったことが背景になっているのではないでしょうか。家事代行業は引き続き成長ビジネスであると言えそうです(図2参照)。

図2 物価動向を探る・その2~サービス価格の推移~

(6)良いインフレとは賃金上昇を伴ったインフレ

最後に今後の物価動向について考えてみたいと思います。わが国の物価高は、「人手不足に起因した賃金上昇によるもの」が主たる要因となっていますが、「円安に伴う仕入れ価格の上昇」に加えて、企業の成長を阻害する「極端な低価格指向」、「低収益に甘んじている企業文化」といったデフレ時代の反動が顕在化していることが影響しているのではないでしょうか。そもそも、企業が適正な利潤を確保できなければ賃金上昇もままならず、経済の好循環は生まれません。一般に、賃金上昇を伴う適度なインフレは「良いインフレ」とされています。良いインフレが起こることで、人々の生活は豊かになり、経済全体のパイも広がっていくことになります。残念ながら現在のインフレは賃金上昇を伴っていないので、「良いインフレ」であるとは言い難いと思います。今後、賃金上昇を伴う良いインフレに移行できるかどうかは、政治・行政による政策立案能力、企業経営者による経営力が問われていると言えそうです。

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