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貿易不均衡の実態とは ~日米の貿易動向~
貿易不均衡を是正するためとして、トランプ大統領は関税政策を大胆に行っています。この記事では、日米の貿易動向、人的交流、サービス収支から、貿易不均衡について解説していきます。

- (1)トランプ政権による関税政策の真意とは何か
- (2)米国は本当に競争力を失っているのか
- (3)日米貿易不均衡は本当なのか?
- (4)人的交流でも米国からの入国者の超過状況となっている
- (5)サービス収支、証券投資は日本側の赤字構造に
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目次
(1)トランプ政権による関税政策の真意とは何か
トランプ米国大統領は、就任早々、関税政策を進めています。まず、隣国であるカナダとメキシコに対して25%の関税賦課を表明しました。次いで中国に対して10%の追加関税、鉄鋼・アルミニウム製品に対して15%の関税、さらには貿易相手国に対して同率の相互関税を課すと表明しています。尤も、カナダ、メキシコに対しては、関税の発動を1カ月延期するとしており、現時点では当初の想定通りに関税が課せられるかどうか不透明な状況となっています。そもそも、トランプ大統領は、関税政策の目的は貿易不均衡を是正するためとしていますが、最大の目的は相手国に対して圧力を掛けることにあるのではないかとみられています。というのは、トランプ政権の最大の政策は米国の優位性を誇示する「米国第一主義」であり、さらには「移民対策」であるとみられているからです。このため、国境を接しているカナダ・メキシコに対しては移民対策を厳格にするように求めてきたわけです。
(2)米国は本当に競争力を失っているのか
ところで、米国は本当に競争力を失っているのかという点について考えてみたいと思います。米国の場合、製造業の競争力は低下の一途をたどってきており、自動車、鉄鋼、電機機器、化学工業など次々と他国の企業にシェアを奪われてしまいました。衣類や日用品に至っては、ほとんどが中国やアジア新興国での生産品を米国は輸入しているといった状況となっているのです。基本的には、人件費を中心とする生産コスト上昇と技術革新に米国企業がついていけなかったことが原因とみられています。今日では、米国で競争力があるのは「航空産業」、「農業」、「IT」、「金融」と言われていますが、航空産業にしてもいつしか欧州「エアバス社」にシェアを奪われてしまっています。その意味では、米国の産業で競争力があるのは、「農業」、「医薬品」、「IT」、「金融」といった産業であると言えるのではないでしょうか。「AI分野」、「医薬品開発」といった技術革新に関しては依然として一日の長があると言えそうです。
(3)日米貿易不均衡は本当なのか?
ここで、日本の貿易動向をみてみましょう。資源を持たないわが国は貿易立国として輸出産業に力を入れ、長年貿易黒字を維持してきました。しかし、現地生産拡大によって輸出金額が伸び悩む一方で、資源価格上昇及び円安効果によって輸入金額が増えてきたため、貿易収支は赤字に転落してしまいました。2022年以降、貿易赤字額は減少していますが、さすがに「日本は貿易立国である」と胸を張って言える状況ではなくなってきているのです。こうしたなかで日米貿易収支は、依然として大幅黒字となっており、その差が縮まる兆しはありません。日本が米国から購入している輸入品目は、「医薬品」、「原動機」、「液化天然ガス」、「穀物類」が上位を占めており、ここ数年変化がありません。日米貿易不均衡を解消するためには、これら以外の品目をかなり多く購入しなければなりませんが、なかなか思い浮かばないのが実情であると思われます。結局のところ、「航空機」、「兵器」、「農産物」といった品目になるのでしょうが、決定打には掛ける状況です。スマートフォンやパソコンについては米国製品が出回っていますが、それとて貿易赤字解消の道は遠いと言わざるを得ません。(図1参照)。

(4)人的交流でも米国からの入国者の超過状況となっている
次に、日本と米国の人的交流について見てみましょう。これまで、日本人にとって米国は憧れの国であり、海外旅行先として人気が高く、日本からの出国超の状況が続いていました。これまで年間400万人近い日本人が米国を訪問し、米国からは100万人程度が日本を訪れるといったパターンでした。ところが、コロナ禍が一巡した2023年以降の動きをみると、円安効果もあって米国からの入国者がドンドン増え続け、2025年には300万人を突破しようかという勢いです。これに対して日本から米国へ訪れるのは2025年でも200万人程度とみられており、100万人もの米国からの出国超といった状況になりそうなのです。日本人にとっての人気渡航地は「ハワイ」、「ロサンゼルス(西海岸)」、「ニューヨーク」となっていますが、地上の楽園と言われているハワイも、今では中華系の観光客が圧倒的で、日本人が目立たなくなっているようです(図表2参照)。
訪日外国人数は2024年に3,687万人と過去最多を大幅に更新しました。円安による購買力の増加に加えて、SNSなどで観光地情報が拡散されたことが寄与したものと思われます。わが国は、そもそも治安が良いため、観光地でトラブルに巻き込まれたりするケースは少なく、街並みや建物は清潔で、法外な値段を吹っ掛けられたりということは稀だと思います。このため、2025年以降も訪日外国人数はさらに増えていくものと予想されています。一方、日本人による海外旅行はそれほど盛り上がっていません。実質賃金の伸び悩みや円安進行によって海外に行くハードルが高くなってきたことが影響していると思われます。先進国のパスポート取得率が5割程度であるのに対して、わが国では2割程度にとどまっています。日本のパスポートは「世界で最も競争力を持っている(入国できる国がトップ)」にもかかわらず、何とももったいない話です。今や日系エアラインに乗っても、日本人より外国人の乗客の方が多いといった状況となっているようです。

(5)サービス収支、証券投資は日本側の赤字構造に
最後に、サービス収支、証券投資について見てみましょう。サービス収支が黒字ということは海外から入ってくるおカネが多いこと、赤字は日本が出ていくおカネが多いことを示しています。昨今では、通信・情報サービス、その他業務サービスは大幅や赤字となっており、GAFAMなどを中心に海外企業に対するサブスクなどの支払いが増えていることを示していると言えそうです。また、証券投資については、2024年に取得額が急激に増えています。これは、新NISA導入によって、個人投資家による米国株式及び債券などに対する投資が大きく増えたことを意味しているのではないでしょうか。個人投資家の証券投資では7~8割が外国株式及び債券ではないかと言われており、このことも円安要因のひとつになっているとみられています。確かに、対米貿易収支は日本側の大幅黒字が続いていますが、人的交流、サービス収支などにおいては必ずしも日本側が優位といった状況にはなく、こうした点を理解したうえで、データに基づいた主張を続けていくことが必要なのではないでしょうか。
