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2024.01.30 コラム

バブル後高値を更新か ~バブル期とは異なっている現在の株高~

バブル後高値を更新する勢いで株高が続いている現在の状況について、バブル当時と比較して何が違うのかを解説します。新NISAで株式投資への機運が高まっている中、日経平均は史上最高値を更新することができるのでしょうか。

(1)日経平均は史上最高値更新が視野に入ってきた

2024年に入ってから株式市場は活況な状況が続いており、連日のように「日経平均は34年〇〇カ月振りの高値を更新」といったポジティブなニュースが聞かれるようになりました。株式投資家にとって、株価が上がることは喜ばしいことですが、果たしてこの状況が続くのでしょうか。或いは、何かのきっかけで再び奈落の底に落ちてしまうのでしょうか。今回は、こうしたテーマについて考えてみたいと思います。まず、日経平均株価については紆余曲折を繰り返しながら年内に1989年12月の史上最高値を更新する可能性が高いとみられます。その理由は、①株価を算定する指標であるPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)といったバリュエーションがバブル期及び諸外国に比べて低位にあること、②企業がROEなど効率性を重視した経営を進めていること、③外国人投資家、機関投資家、個人投資家など投資家層が広がっていること、といった点が挙げられます。

(2)バブル期と今日との違い

特に、ここ10年の動きをみると、株式市場は外国人投資家主導で動いてきたと言えます。バブル期における投資家の主体は国内機関投資家と国内個人投資家でした。東京株式市場(第一部)における外国人投資家による売買割合は1割程度であり、外国人投資家はマイナーなプレーヤーとの位置づけでした。一方、国内投資家は、企業も個人も余剰資金をドンドン株式投資に振り向けていき、「財テク」といった言葉が流行ったほどでした。製造業は、現場でコツコツと製品を作るよりも、株式で運用した方がはるかに儲かるのでさまざまな企業で財務・経理部門が幅を利かせることになりました。これに対して、今日では外国人投資家がメジャープレーヤーであり、東京株式市場(プライム市場)における売買割合は7割に達しています。バブル期に活躍した国内企業はバブル崩壊後の財務リストラによってリスク性資産の保有を抑えるようになりました。尤も、その一方で内部留保が積み上がりすぎて「経営が非効率である」といった批判にさらされています。

(3)バブル崩壊後の企業経営の変化

バブル期と今日との違いはさまざまですが、第一に、デフレの長期化によって企業が守りの姿勢を強めてきたことが挙げられます。企業は人件費や設備投資を抑制し、ひたすらキャッシュを貯め込んできました。バブル期、リーマンショック時には上場企業の50社以上が倒産に追い込まれたのに対して、コロナ禍での上場会社の倒産件数は4社にとどまっています。第二に、バブル期の企業は売上高や利益などの量的拡大を目指していたのに対して、今日では効率性を目指す企業が増えてきたことが挙げられます。ROE、資本効率、資本コスト、総還元性向、コーポレート・ガバナンス、スチュワードシップ・コード、アクティビストといった言葉が聞かれるようになったのもここ10年程のことです。第三に、バブル期には環境経営、人的資本、コンプライアンス、ハラスメントといった意識が皆無だったのに対して、今日ではこうした問題を意識しない企業は、株式市場は勿論のこと、社会から取り残されてしまいかねない状況になってきたことです。かつては許されていたことが許されなくなったということだと思います。

株式市場を取り巻くバブル期と今日との比較。
・株式市場動向
①日経平均株価、バブル期、38,915円(1989年12月29日大納会)、今日、36,239円(2024年1月17日)。②バリュエーション、バブル期、予想PER60倍程度、実績PBR4倍程度、今日、予想PER15.6倍、実績PBR1.38倍(2024年1月)。③上場会社数、バブル期1,752社、うち一部上場1,191社(1990年)、今日、3,931社、うちプライム1,656社(2024年1月)。④企業活動の特徴、バブル期、売上至上主義、利益率よりも利益額を重視、今日、ROEなど効率性を重視、環境経営、人的資本。⑤企業財務の特徴、有利子負債膨張、資金調達が好評価される、今日、内部留保強化→資本コストを重視した経営戦略。

・金融市場及び実体経済の動向
⑥為替レート、バブル期、144円/米ドル、今日、145円/米ドル。⑦金利水準、バブル期、7%程度、今日、0.002%程度。⑧名目GDP規模、バブル期、日本3.1兆ドル、米国5.9兆ドル、中国0.4兆ドル、今日、日本4.2兆ドル、米国27兆ドル、中国17.7兆ドル。⑨1人当たりGDP、バブル期、日本2.6万ドル、米国2.4万ドル、中国350ドル、今日、日本3.4万ドル、米国8.0万ドル、中国1.2万ドル。⑩政府債務残高、バブル期、日本291兆円(GDP比63%)、今日、1,502兆円(GDP比255%)。
・人々の生活を取り巻く環境、世相
⑪消費税、バブル期、3%、今日、10%。⑫社会の風潮、バブル期、24時間働けますか?報酬は右肩上がりの時代。今日、働き方改革の推進、ハラスメントへの対峙。⑬非正規雇用の動向、バブル期、非正規雇用は817万人(雇用者全体の19.1%)。今日、非正規雇用は2,101万人(雇用者全体の36.9%)。⑭喫煙率の推移、バブル期、男性の喫煙率60%(駅や航空機でも喫煙可)。今日、男性の喫煙率25%(建物内、飲食店は原則禁煙)。⑮情報収集、バブル期、資料室、図書館、新聞、雑誌などの紙ベース、今日、パソコン、スマホでHP等を介入して情報収集。

(4)デフレ経済から脱却できるかどうかが最大のポイント

バブル崩壊後の我が国経済を評価すると、「賃金、経済、株価が長期にわたって低迷していた」ことに尽きると思います。根本原因はいろいろとありますが、一言でいうとデフレ経済が成長のブレーキになったといえるのではないでしょうか。その点、2024年は賃金上昇率が30年振りの高い伸び率が見込まれることに加えて、日経平均株価も1989年の史上最高値が視野に入ってくるなど大きな変化の兆しが出てきています。経済成長率についてはこれからといったところですが、百貨店など個人消費の強さ、企業による設備投資マインドの回復など明るい兆しが出ていることから、潜在成長率が高まってくる可能性があると思われます。一方で、住宅投資の弱さ、貿易収支の悪化など改善しなければならない点も少なくありません。

(5)2024年は新たに成長元年になると期待したいが…

これから我が国の株価がどのような軌跡をたどるか、いろいろな見方があると思いますが、基本的には史上最高値を更新した後も堅調に展開すると思われます。外国人投資家はもとより、新NISA導入によって個人の投資資金が流入しているようです。株式市場にとって東証による低PBR企業への資本効率の改善要請、企業によるイノベーション強化なども追い風となりそうです。但し、財政・金融政策に関しては大きな課題を抱えており、巨額な国債発行残高の状態、マイナス金利政策の修正に関する議論、受益者負担(医療・社会保険等)の議論に踏み込まなければ、我が国に対する国際的に信認は低下せざるを得ず、その場合は海外資金が引上げてしまうかもしれません。そして、その可能性は十二分に考えられると思われます。

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