IFAL Times

 
2024.10.16 コラム

アノマリーとは何か ~金融市場ではアノマリーの法則が生きている?~

アノマリーとは、ある法則や理論からみて説明できない事象を指します。この記事では、株式市場を中心に、有名なアノマリーの法則や考え方について解説します。

(1)アノマリーとは何か?

株式投資を行っている人、或いは株式市場に関わっている人であれば、「アノマリー」という言葉を耳にしたことがあると思います。アノマリー(英: anomaly)とは、ある法則・理論からみて異常な状況、説明できない事象などを指しています。科学的常識、原則からは説明できない逸脱、偏差を起こした現象を含んでいますが、すでに説明できるようになった現象であっても、アノマリーあるいは異常という名称がそのまま残ったものも多いとされています。アノマリーの語源は、ラテン語の「anomalia」から来ており、ギリシャ語の「anomalos(不均一)」に由来していると言われています。アノマリーという言葉は、17世紀ころから「一般的な規則からの逸脱」という意味で使われ始めました。そもそも、アノマリーという言葉は、天文学、物理学、数学、生物学などで用いられていたのですが、やがて経済学などでも使われるようになりました。そして、相場に関する経験値が積み上がった結果、格言のようなアノマリーが幾つも言われるようになったのです。

(2)アノマリーは株式市場における投資スタイルのひとつ

ところで、株式投資にはさまざまなスタイルがあります。代表的にものは、ファンダメンタルズ分析に基づいた投資です。これは、企業業績や産業動向を分析して投資を判断するスタイルです。基本的には中長期で投資するスタイルに適しているとされています。次に、テクニカル分析に基づいて投資するスタイルがあります。これは、チャートなどを活用して過去の経験則を基に投資タイミングを計って投資するというやり方です。このほかにも、配当性向や配当利回りを重視するスタイル、株主優待などを目的に投資するスタイル、金利や為替といったマクロ環境をみて指数や個別企業に投資するスタイルとさまざまです。応援投資という点では、親戚・友人・知人が勤めている会社に投資するといったスタイルもあるかもしれません。こうしたなかで、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などに当てはまらない投資スタイルとしてアノマリーに注目する向きがあります。月曜日は外国人投資家がお休みなので株価が上がりにくいといった事象はアノマリーと言えるでしょう。これは、日本時間の月曜日は欧米では日曜日にあたるため、現地投資家の売買高が細るためと言われていましたが、昨今では日本市場に合わせて売買を行う海外投資家も増えているため、このようなアノマリー効果は薄らいでいるようです(図表1参照)。

図1 投資スタイルからみたアノマリーとは何か
アノマリーとは? 株式市場において「何故、そのように動くがわからないけれど、その時が来たら株式市場が予め決められたように動く傾向のこと
投資スタイル
(1)ファンダメンタルズ分析:業界動向、業績、株主還元など企業が公表している情報、或いはアナリストによる分析レポート、公表されたニュースなどに基づいて投資を行う手法 ⇨ 中長期で投資するスタイルに適している。
(2)テクニカル分析:テクニカル分析とは、株価の値動きに着目して、過去の値動きから一定の法則を見出して、将来の株価を予測して取引を行うというもの ⇨ 短期で投資をするスタイルに適していますが、中期的視点からも有益な分析手法でする。
(3)アノマリー:ファンダメンタルズ分析及びテクニカル分析のどちらにも当てはまらない、何故、そうなるのかを説明できない動きを基にした投資手法。但し、アノマリーに基づく動きが何度も繰り返されると、将来のそのような動きになるだろうと予想する点ではテクニカル分析に似通っているとも言えそうです。

(3)アノマリーの法則によって市場の動きを観察してみると…

 株式市場における「アノマリー」とは、 効率的市場仮説や経済理論市場による説明が困難であるものの、価格動向に一定のパターンや予測可能な周期性が見られる現象を指しています。次に、アノマリーの法則によって市場の動きを観察してみましょう。図表2については、毎年そうなるという訳ではありませんが、そうなる傾向が強いと理解することが必要です。例えば、1月から2月に掛けて、アノマリーでは下落傾向が強いとされていますが、仮にこの時期に金融政策が大きく変更されたり、為替が大きく動いたり、株式市場にとって好ましい政権が誕生したりすると、株式上昇は上昇するかもしれません。しかし、特段、株価に影響を与える材料が無いにもかかわらず、ある期間の下落傾向であったり、上昇傾向であったりする場合、アノマリー効果によるものではないかと考えるわけです。

3月決算発表シーズンである4月下旬から5月中旬に掛けて、3月決算企業の株主総会集中期間である6月下旬、外国人投資家が休暇に入る7~8月に掛けては「様子見ムード」が広がるといった点は頭に入れておいても良いかもしれません。

図2 アノマリーの法則(その1)~日経平均、TOPIXなど株価指数をめぐる動き
     時期(概ね変動する時期)	 株価の方向性	    株価の動きの背景・要因(そのような株価の動きとなると思われる推論)
 (1)1月から2月に掛けての動き	 ⇨ 下落傾向	 ✔ 前年末に掛けての上昇(クリスマスラリー)の反動によって下落する
 (2)2月から3月末に掛けての動き	 ⇨ 上昇傾向	 ✔ 3月末に掛けて配当取りを目的に株価が買われる
 (3)4月から5月中旬に掛けての動き	 ⇨ 上昇傾向	 ✔ 3月期決算発表シーズン(4月末から5月中旬に掛けて)に向けて、好業績を期待し
		     た買いが膨らむが、決算発表を受けて売り圧力が強まる
 (4)5月中旬から6月末に掛けての動き	 ⇨ 下落傾向	 ✔ 6月末の開催される3月決算の株主総会を控えて様子見ムードが広がる
 (5)7月から8月に掛けての動き	 ⇨ 下落傾向	 ✔ 最大の「買い手」である外国人投資家のバカンス(夏休み)により商いが低調になる
 (6)8月から9月末に掛けての動き	 ⇨ 上昇傾向	 ✔ 9月末に掛けて配当取りを目的に株価が買われる(日本企業の中間決算)
 (7)10月から11月に掛けての動き	 ⇨ 下落傾向	 ✔ 10月下旬以降の決算発表(日本企業の中間決算)に向けての様子見及びヘッジ
		     ファンドの決算に向けての売りが膨らむ傾向がある
 (8)11月から12月に掛けての動き	 ⇨ 上昇傾向	 ✔ 米国株式市場のクリスマスラリーを追い風に年末高が期待される傾向がある

(4)有名なアノマリーを理解することは肝要である

次に、株式投資の世界で有名なアノマリーについて見てみましょう。以前から言われていたのは「月曜株安」というアノマリーです。これは、わが国の上場企業が週末金曜日の引け後に悪材料を発表するケースが多いことに由来しています。金曜日の夜遅くに悪材料(業績下方修正、減配)等を発表して、企業の担当者はさっさと帰ってしまうというパターンです。アナリストや記者が問い合わせをしても誰も応答してくれませんし、月曜日の朝になって慌てて当該企業の株を売却するといったパターンとなります。こうした事例は2000年頃には幾つかありましたが、さすがにフェアディスクロージャーやタイムリーディスクロージャーが重視されるようになると、企業の情報開示姿勢に対して投資家の厳しい目が注がれるようになり、こうした事例は少なくなりました(図表2参照)。

ところで、日本の株式市場に最も大きな影響を与えるとみられている米国株式市場は、時差の関係で日本時間に対して1日遅れとなります。このため、日本の月曜日は様子見に徹して火曜日から売買を本格化するといったケースも見受けられました。最近ではグローバル化やオンライン取引の進展により、以前ほど「月曜株安」は意識されていないようです。ちなみに、「2日新甫(しんぽ)は荒れる」という格言については、9月の株式市場のボラティリティ(変動率)が大きかったことから、今でも生きていると言えそうです。但し、この理由や背景については分かっていません。

図表3 アノマリーの法則(その2)~株式投資の世界で言われている有名なアノマリーとは
     アノマリーに関わる格言	    格言に関わる解説(何故、そうなるのかという意味の解説)
 (1)2日新甫(しんぽ)は荒れる	 ✔ 新甫(しんぽ)とは、その月最初の取引日のこと。1日が休日の場合、その月の最初の取引日は2日新甫
	    となり、そうした月は相場が大きく変動しやすいという格言 ⇨ 2024年9月は2日新甫でした…
 (2)1月効果	 ✔ 他の月より1月は利益が出やすいという格言 ⇨ 12月に節税等で売りが増え、1月に買い戻されるから?
 (3)節分天井、彼岸底	 ✔ 2月上旬の節分時期に高値になり、3月中旬の彼岸時期には安値になるという格言。
 (4)セルインメイ(Sell in May)	 ✔ 株は5月に売れという格言 ⇨ アメリカ生まれのアノマリー。NYダウは5月をピークに6月に掛けて下落する
	     ケースが多かったことが背景。
 (5)夏枯れ相場	 ✔ 夏場は値動きが小さくなるという格言 ⇨ 夏になると投資家が休暇に入るため、市場参加者が少なくなり
	     取引高が少なくなるから。実際には薄商いのなかで、むしろ値動きが大きくなることもあるようです!
 (6)月曜株安	 ✔ 月曜日は株価が下がりやすいという格言 ⇨ 週末に掛けて悪材料を発表する企業が多いため
 (7)サザエさん効果	 ✔ 日曜日に放送されるテレビアニメ・サザエさんの資料率が高いと株式相場は下がり、視聴率が低いと株式相
	    場が上がるという格言 ⇨ サザエさんの視聴率が高い時期は、景気が悪くて自宅で過ごすことが多い? 
 (8)小型株効果	 ✔ 時価総額の大きい大型株よりも時価総額の小さい小型株のほうが利益が大きいという格言 ⇨ 小型株の
	    場合、倒産リスクなどが高いために割安な状態に放置されがちで、成長した時の投資リターンが大型株に比
	    て大きくなることがあるから。
 (9)低PER効果	 ✔ PERの高い銘柄に比べ、PERの低い銘柄のほうが利益が大きい ⇨ 但し、昨今では低PER≒低成長・低
	    収益、高PER≒高成長・高収益といった評価がなされていることが、低PER効果は薄らいでいる?

(5)アノマリーはあくまでも参考程度にとどめておくことが肝要

これまでアノマリーについて述べてきましたが、アノマリーとはあくまでも経験則であり、必ずしもファンダメンタルズ分析や相場分析に基づいたものではありません。しかし、多くの投資家が知っているアノマリーの場合、それを意識したトレードをする人が多くなることからアノマリーが機能しやすく有効な参考情報にもなり得るのです。「2日新甫は荒れる」といったアノマリーの格言を意識していたら、9月の株式投資のスタイルは変わっていたかもしれません。但し、アノマリーは万能ではないため、もちろん外れることも珍しくありません。あくまでも参考程度に楽しむ感覚で意識しておくことが望ましてと思います。

例えば、野球の世界でのアノマリーとしては、「ノーアウト満塁は点が入りにくい」、「ピンチの後にチャンスあり」、「相手のピッチャーが交代したらビッグイニング(1イニングに5点以上の大量得点する)」、「日本シリーズなどの短期決戦は先手必勝(初戦に勝ったチームが優勝する)」、「左対左は投手有利・打者不利」などがあります。これらについては明確な理由は無いのですが、試合を見ているとそうかなと思わせることは多いようです。ピンチをしのいだチームが、次の回に逆転するといったことは印象に残っているパターンだと思います。

IFA Leadingのアドバイザーにお気軽にご相談ください

無料相談・お問い合わせはこちら

セミナーのお申し込みはこちら

 

#アノマリーとは