2026.07.16

出入国統計に構造的変化
~訪日外国人の増加に対して日本人出国者数は低迷~

訪日外国人旅行者は、円安や観光需要の回復を背景に増加してきましたが、足もとでは中国人旅行者の減少や中東情勢の影響により伸びに変化がみられます。一方、日本人の海外旅行者数は低迷が続いています。本コラムでは、出入国統計の構造的な変化と、その背景や今後の課題について解説します。

2026.07.16

コラム

出入国統計に構造的変化
~訪日外国人の増加に対して日本人出国者数は低迷~

目次

01 訪日外国人旅行者の拡大基調に変化の兆し

観光庁の推計によると、2025年の外国人旅行者数は、前年比15.8%増の4,268万人と過去最高となりました。コロナ禍後に外国人旅行者が急速に増えた要因としては、①円安進行に伴う日本旅行に対するお得感・割安感の台頭、②北は北海道から南は沖縄までバラエティーに富んだ観光資源の存在、③治安の良さ、食べ物の美味しさといったわが国特有の魅力、④政府や地方自治体、民間企業による観光誘致に関する積極的な施策、などが奏功したものと考えられます。④については、全国のJR線の乗り放題となる「ジャパン・レール・パス」は外国人旅行者にとって魅力的なサービスであると言えるでしょう。

こうしたなかで、2026年に入ると訪日外国人の動きに変化が見られています。2026年1~4月累計の訪日外国人数は前年比0.5%減の1,437万人とわずかながら減少しました。この最大の要因は、中国からの旅行者が前年比55.1%減と急減したことが影響したものと見られています。中国からの旅行者の割合は2019年には30%を超えていましたが、2026年1~4月累計では9.8%にまで落ち込んでしまいました。また、中東情勢の悪化の影響に伴う欧州航路の変更、航空運賃高騰などもあって、それまで増加傾向が続いていたドイツ、イタリア、イギリス、中東地域からの訪日客数も減少、または伸び率が鈍化しています。こうした状況は短期的に収束する見通しが立たないため、2026年の訪日外国人数は前年比横ばいまたは若干の減少になるのではないかと見られています(図表1参照)。

(図1)訪日外国人数の推移・年次ベース

(出所)観光庁資料等を基に(株)IFA Leading作成。2026年の数値は速報値ベース。

02 訪日外国人の問題点と対処方法

訪日外国人旅行者に起因するインバウンド需要は、わが国経済にとって有望な成長産業とみられており、関連業界では歓迎する声が大きかったのが実情です。しかし、訪日外国人数がコロナ禍前の水準を超えてきた2024年あたりからは、オーバーツーリズム問題が指摘されるようになってきました。オーバーツーリズム問題は、観光客の急増によって、特定の地域や観光地において住民の生活環境を悪化させるという問題です。昨今では、観光客の増加によって地元の住民が路線バスに乗ることが出来ずに学校や病院に通えないといった事例や、観光客が自宅の庭に入り込んでお弁当を広げているといった苦情も寄せられているようです。異なる文化的背景を持つ観光客との接触は、時に文化的摩擦を引き起こすことがあります。地域の伝統や習慣が尊重されない場合、地元住民との対立が生じることもあります。さらに、インバウンド需要に過度に依存することで、経済が不安定になるリスクがあります。特に、自然災害やパンデミックなどの影響で観光客が減少した場合、地域経済が大きな打撃を受ける可能性があります。 地域の負担という点では、観光客の増加に伴い、交通機関や宿泊施設、公共サービスに対する需要が高まり、インフラの整備や維持管理のために地域の財政に負担がかかることが懸念されています。地元のレストランに行ったら、インバウンド価格でメニューの値段が高騰していたといったこともあるようです。インバウンドは、経済的なメリットをもたらす一方で、地域社会や環境に対する影響も考慮する必要があるのです。イタリアやスペインといったインバウンド先進国では、オーバーツーリズム対策に本腰を入れて取り組んでいるようです。

03 日本人の出国者数は低迷状態

こうしたなかで、日本人の出国者数が低迷している点にも注目したいと思います。2013年頃までは日本人の出国者と訪日外国人旅行者数は概ね2対1の比率でした。その前はもっと日本人の比率が高かった時代が続いていました。欧米及びアジア諸国の旅行者からみれば、日本は「極東にある東洋の神秘の国」、「英語が通じない国」、「(新興国からは)高根の花」といったイメージでした。特に欧米からは、移動に10~14時間もの時間が掛かるし、どこに観光に行ったら良いのかわからないから旅行先リストには入っていないというのが一般的だったようです。勿論、一定数のビジネス客はいたのですが、彼らが日本の魅力を伝えてくれるわけではありません。その後、2010年代半ばからの「円安進行」、「観光立国に向けてのキャンペーン」、「アニメ文化をはじめとしたコンテンツ強化」などが奏功して訪日外国人数は大きく増加しました。

こうしたなかで、2015年には日本人の出国者数と外国人旅行者数が逆転し、その差はどんどん広がっています。2025年時点では日本人の出国者と訪日外国人数は概ね0.34対1の比率となっています。海外行きの航空機のなかでは日本人3人に対して外国人10人といった割合になるわけです。確かに、訪日外国人が増えているということは、その国・地域に魅力がある裏返しでもあるので喜ばしいことなのですが、一方で日本人が海外に出て行かないというのも寂しい現象です。この要因としては、長期にわたる経済低迷によって海外渡航に対するハードルが上がってしまったことに加えて、日本人全体の縮み志向が影響しているのではないかと見られています。ちなみに、2025年の日本人のパスポート保有率は17.8%(過去最高は2005年の27.7%)となっており、イギリス77%、カナダ70%、米国36%、韓国及び台湾60~70%といった他の先進国に比べて著しく低くなっています。韓国や台湾の旅行者のなかには、国内旅行の感覚で日本に年間3~4回訪れるといったケースも少なくないようです。(図表2参照)

(図表2) 訪日外国人数及び出国日本人数の推移(単位:万人)

(出所)観光庁資料等を基に(株)IFA Leading作成。2026年の数値は速報値ベース。

04 日本人の旅行離れの背景と今後の見通し

それではなぜ、日本人が海外旅行に行かなくなってしまったのでしょうか。旅行離れの大きな要因の一つとして、個人の可処分所得の減少が挙げられます。近年、日本では実質賃金が伸び悩んでおり、非正規雇用者の増加や物価上昇も相まって、家計は慢性的に圧迫されています。そのため、旅行に使えるお金や時間の余裕が減少しており、レジャーの選択肢として旅行が後回しにされる傾向が強まっているのです。日本特有の労働文化も、旅行離れを加速させる要因となっているようです。多くの企業では有給休暇の取得が実質的に困難であり、長期休暇を取ることに対して罪悪感を抱く社員も少なくありません。確かに、ゴールデンウィーク、お盆休みなどでは有給休暇を利用して以前と比べると長期休暇を取りやすくなっているようですが、その時期は旅行需要の高まりによって航空運賃やホテル代などが高騰することになってしまいます。また、現代の若者たちは、かつてのように「海外旅行に行って見聞を広めたい」、「絶景を自分の目で見たい」といったモチベーションよりも、「自宅でゆっくりしたい」、「趣味にお金と時間をかけたい」という傾向が強まっているようです。SNSやYouTube、VR技術の普及により、世界中の景色や体験をバーチャルに楽しめるようになったことも影響しているのかもしれません。いずれにせよ、かつてのように日本人がこぞって海外旅行に出かけるというシーンは過去のものになってしまったのかもしれません。

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村松 麻衣子

ウェルスマネジメント戦略部マネージャー

村松 麻衣子

Maiko Muramatsu

2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、浜松支店にて資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。

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