資産インフレという言葉を耳にしたことはありませんか。資産インフレは、一般的なインフレと密接に関連しています。インフレとは、モノやサービスの価格が継続的に上昇し、お金の価値が相対的に下がる現象のことを指しています。例えば、これまで100円で買えた商品が110円必要になる場合、同じ金額で購入できる量が減るため、現金や預貯金の実質的価値は低下することになります。インフレが進むと、やがて120円、130円と価格が上昇してしまい、現金や預貯金の価値はドンドン下がってしまうことになります。この現象が資産に及ぶ場合を「資産インフレ」と呼びます。つまり、現金や預貯金だけで資産を保有していると、物価上昇により実質的な購買力が減少することを意味するのです(図表1参照)。
たとえば、物価が毎年2%ずつ上昇した場合、10年後には現在の100万円で買えるモノの量は約82万円分まで減少する計算になります。つまり、約18万円分の購買力が失われることになるのです。このように、現金をそのまま保有しているだけでは、インフレによる実質的な資産価値の低下を避けることは難しくなります。「お金は銀行に預けておけば安心」と考える方は多いと思われます。確かに預貯金は元本が保護されるという安心感があります。しかし、預貯金金利が物価上昇率を下回る場合、預貯金だけに頼る資産管理には見えにくいリスクが存在します。物価が上昇する環境では、元本が減らなくても、買えるモノの量は確実に減っていきます。そのため近年は、預貯金だけに依存するのではなく、物価の影響を考慮した資産配分を検討する考え方が広がっているのです。
(株)IFA Leading作成。
それでは、インフレに強い資産とは何でしょうか。第一に、株式や投資信託が挙げられます。株式は企業の成長と連動する代表的な資産です。インフレ環境では、企業が商品やサービスの価格を引き上げることで売上や利益が増加し、株価の上昇につながる可能性があります。投資信託は株式や債券など複数の資産に分散して投資できる金融商品で、専門家が運用を行うためリスク分散がしやすい特徴があります。株式や投資信託は、インフレ局面ではインフレ率と同等かそれ以上に値上がりする傾向があると見られています。第二に、不動産投資が挙げられます。不動産はインフレに強い資産の代表例とされています。地価や賃料は物価上昇とともに上昇する傾向があり、資産価値の維持や向上が期待できます。また、賃貸運用によって家賃収入を得られる点も特徴です。但し、不動産投資には多額の資金が必要とされるため、小口化商品などによって不動産の一部を所有して値上がり益を享受するといった方法も有りかもしれません。第三には、金(ゴールド)が挙げられます。金は古くから価値の保存手段として利用されてきた実物資産です。通貨価値が下がる局面では資産分散の手段として注目されることがあり、株式や債券と値動きが異なるため、資産全体のリスクを抑える効果が期待できます。ただし、利息や配当を生まない資産である点には注意が必要です。
ここで国土交通省が公表しているデータを基に2008年以降の不動産価格の動きを見てみましょう。住宅価格は2012年頃までは横ばいで推移していましたが、アベノミクスによる金融緩和政策を背景に2013年以降、徐々に上昇基調に転じてきました。2010年平均を100とする指数では2025年は住宅総合が1.5倍、戸建住宅は1.2倍に上昇しましたが、マンション(区分所有)は2.2倍もの大幅上昇となりました。これは全国平均の数値なので東京都心部に限ると遥かに高い上昇率を示していると言えそうです。2000年頃の都区部における新築分譲マンションの平均価格は4,000~5,000万円程度であったのが、2025年には1億円超といった物件も少なくありません。この間、中古マンション価格も値上がりを続けており、不動産を持っている者と持たざる者の資産格差は大きく開いてきたと言えるのではないでしょうか。
(出所)「不動産価格指数(住宅)」(国土交通省)を基に(株)IFA Leading作成。
また、株価についても同様なことが言えるのではないでしょうか。株式投資の場合、不動産取得或いは投資とは異なり少額投資が可能なため、投資に関してのハードルはそれほど高くないと思われます。最近では売買手数料が軽微(或いはゼロ)であるネット取引が活発化していることに加えて、NISAなどによる非課税制度の拡充効果もあり、個人株主は増加傾向にあります。日経平均株価の動きをみると、2025年以降、インフレ率の高まり、AIや半導体需要の増加、金利上昇等を背景に市場全体に資金が流入し、株価は大きく上昇しました。現在の株価はバブルではないのかといった見方がありますが、企業収益が好調で、市場全体としてはPER等の株価指標が加熱している状況ではないので暴落シナリオは考えにくいと思われます。
株高効果は、株価の上昇が個人の資産を増やし、それが消費を促進するメカニズムが働いていることを示しています。特に、株式や投資信託を多く保有している層が資産価値の上昇を実感し、消費を増やす傾向があります。また、個人投資家は自ら保有している株式や投資信託の時価が上昇することでインフレ率を上回る資産効果を得ることができるようになります。しかし、日本では、株式や投資信託といったリスク資産を多く保有しているのは、主に高齢者や富裕層であり、現役世代である中間層は、預貯金や貯金といった安全資産の比率が高い傾向にあります。そのため、株価が大きく上昇しても、中間層の資産はあまり増えず、資産効果を実感しにくいといった問題があります。株高による資産効果を享受するには、株価が上がるときに資産を保有していることが前提となります。すなわち、早い時期から、無理のない範囲で、継続的に投資を始めることが重要なポイントなのです。資産効果は、金融資産を持つ人だけに発生する現象であるため、自ら投資を始めることで「資産インフレの波」に乗る準備をすることが大切であると言えるのではないでしょうか。
(出所)日本取引所データ等を基に(株)IFA Leading作成。