6月1日、デベロッパーの不動産協会と建設大手が加盟する日本建設業連合会は、建設費高騰への対応を話し合う協議会を設置したと発表しました。両者が協議体を設けるのは初めてのことになります。首都圏を中心とした再開発案件の停滞を受けて、建設現場の生産性向上や労務費の適正な支払いなどの課題を議論することになります。協議会は1年後をメドに、連携して解決すべき優先課題を整理し、取り組み方針をまとめる予定です。両者の意思疎通を円滑にする仕組みも検討するとしています。方針に基づき各社が任意で取り組むほか、両者で政府や鉄鋼・セメント・建設機械など他業界に対して要望活動をしていくことを想定しています。これまで、不動産会社と建設会社との協議は個別企業ごとに行われていました。しかし、昨今の建設費高騰及び人手不足に起因する工事の遅れについては、もはや個別企業の手に負えないところまできているということなのかもしれません。
それでは、建設費は今後どのように推移していくのでしょうか。人手不足や資材価格の上昇を背景に今後とも建設費は高止まりすると見られています。建設物価調査会(東京・中央)によると、4月の東京地区の建築費指数(建築資材物価指数、2015年=100)は、土木部門が144.2、建築部門が152.7と一段と上昇しています。建築部門の内訳はオフィスビル(鉄骨造)が141.8と前年同月比3.9%増、マンション(鉄筋コンクリート造)が143.8と同5.8%増、工場(鉄骨造)が140.6と同4.1%増となっています。これら建設物価が上がり始めたのは、2021年半ば以降なので、約5年間で4~5割上昇したことになります。こうした状況は、5月以降も続いており、イラン情勢の長期化などによって建築費は高止まり或いはじり高傾向が続くと見られています。2026年春以降は、原油供給難に伴う建築資材不足によって建築資材及び設備機器の価格が想定以上に上がっているようです(図表1参照)。
一方、国土交通省が発表している2026年の公共工事設計労務単価(日当分)は、全国平均では前年比4.5%増と14年連続で増加し、それぞれの職種で3~6%台の上昇となりました。全職種の平均単価は上昇基調にあり、2015年度から2026年度に掛けて5割強上がったことになります。建設労働者に対する低すぎる賃金が過去10年強で是正されたと言えるのではないでしょうか。公共工事設計労務単価とは、公共工事契約に際して工事費見積もりの基礎となるものですが、民間工事契約においても公共工事設計労務単価を踏襲するケースが多いようです。今後の見方ですが、引き続き建設労務単価は上昇が続くとみられています。というのは、「働き方改革」導入によって、残業時間の上限規制が適用されるようになったことに加えて、建設作業員の高齢化・離職率の高さによって一段と労働需給がひっ迫すると予想されているからです。建設コストについては、資材価格及び労務単価上昇に加えて、サブコン(設備工事会社)でも人手不足問題によって建設労務単価が上がっていることから、引き続き高水準の状況が続くとの見方が大勢となっているようです。
(出所)建設物価調査会、国土交通省「公共工事設計労務単価」(各年3月より適用される労務単価)を基に(株)IFA Leading作成。
ここで、主要建設会社における受注高及び利益率動向を見てみましょう。5月に発表された決算によると、ゼネコン(総合建設業)、サブコン(設備工事業)ともに受注高は順調に増加しました。2026/3期受注高は再開発事業、データセンター、工場、物流倉庫といった案件が受注を牽引しましたが、オフィスビル、商業施設については必ずしも牽引役とはなっておらず、AI関連や半導体工場、データセンター案件の需要拡大が寄与した格好となっています。これに対して2027/3期会社予想では、サブコンの受注高は引き続き伸びる計画となっていますが、ゼネコンは横ばい或いは減少する計画となっています。この点については、施工能力を勘案した計画であることに加えて、一定程度の採算が見込めない案件については無理して受注しないという姿勢を反映したものと考えられます(図表2-1参照)。建設会社は、「建設需要は旺盛であり、受注価格競争に陥る懸念は小さい」、とコメントしていますが、①低採算案件、②工期短縮を要請される案件、③想定以上のインフレ時における協議に応じない案件、については極力受注しない方針であり、昨今では、発注者の姿勢が問われる状況となっています。
さて、建設会社の利益率はどうなのでしょうか。ここでは、会社全体の収益力を示す売上高営業利益率を見てみましょう。そもそも建設業は、請負業という事業性格上、それほど高い利益率は求められていませんでした。売上高営業利益率5%というのが一つの目安であり、それを上回る利益率は発注者にとっても望ましいものではありませんでした。しかし、ゼネコン、サブコンともに2026/3期には過去最高水準の売上高営業利益率を計上しています。この背景として、①人手不足により発注者に対する価格交渉力が高まったこと、②建設資材価格、労務費上昇を工事価格に転嫁する動きが強まったこと、③工場、データセンターといった好採算案件の比率が高まったこと、などが挙げられます。但し、ゼネコンの2027/3期の売上高営業利益率はやや低下する見通しとなっています。この背景は、原油価格上昇や円安に起因する建設資材価格の上昇ですが、外部環境からは先行きが読みにくい状況となっています(図表2-2参照)。
サブコンの場合、ゼネコン以上に売上高営業利益率が高まっており、今や10%強といった水準も珍しくなくなっています。サブコンの場合、ゼネコン以上に労働集約的工程が多いと見られており、機械化や省力化による代替が難しいと考えられています。このため、建設工事をスムーズに進めるためには、発注者もゼネコンもサブコンを確保することが最優先と言われているほどです。こうした状況が短期的に解消する可能性は小さく、不動産業をはじめとする発注者は、価格交渉よりも施工能力確保を最優先に事業計画を立てることが求められているのではないでしょうか(図表2-2参照)。
(出所)各社有価証券報告書、決算短信等より(株)IFA Leading作成。
2027/3期は会社計画ベースの数値。受注高は単独ベース、売上高営業利益率は連結ベース。
※大手ゼネコン:大成建設、大林組、清水建設、鹿島建設の4社、準大手ゼネコン:安藤ハザマ、長谷工、戸田建設、前田建設、五洋建設の5社
サブコン:関電工、きんでん、クラフティア、高砂熱学工業、大気社、ダイダンの6社をそれぞれ用いている。
こうしたなかで、首都圏をはじめ大型再開発プロジェクトの「中断」や「延期」が相次いでいます。背景には、建築資材価格の高騰、2024年問題による労働時間規制、人手不足など建設業界を揺るがす構造的問題があります。さらに、2025年12月には改正建設業法が施行され、建設技能者の適正な賃金を確保するための基準となる標準労務費が導入されました。これにより、建設費には一段の上昇圧力がかかる見通しとなっています。帝国データバンクによると、建設企業の7割近くが「人手不足」と回答しており、大手ゼネコンですら職人確保に苦慮しています。このようななかで、事業者は予算確保の見通しが立てづらくなり、再開発計画は次々と見直しを迫られているのです。残念ながらこうした動きが収束するメドは立っていません。