わが国にとって、「人手不足問題」は構造的問題であり、喫緊に取り組まなければならない課題であることは言うまでもありません。昨今は、タクシーがつかまりにくくなったり、電車や路線バスの運行本数が減ったり、建設や住宅着工が予定通り進まなかったり、飲食店の影響時間が短縮されたりと社会のさまざまな分野で人手不足の影響が出ています。わが国における人手不足問題の原因は、①少子高齢化の進展によって働き手が減っている、②低賃金の常態化によって地方から都市部への労働移動が進んでいる、③生産性向上の遅れによって依然としてマンパワーで業務を行っている、といった3点に集約されます。
帝国データバンクによる「人手不足に対する企業の動向調査」によると、2025年1月時点で、正社員が「不足」と感じている企業の割合は53.4%となり、コロナ禍(2020年4月)以降で最も高くなりました。非正社員の不足を感じている企業は30.6%でした。人手不足問題に関しては、初任給などの賃上げ動向が人材の確保・定着に向けて焦点となるとみられています。というのは、大企業などでは初任給30万円時代を迎えているなかで、賃上げ機運に追いつけない中小企業では人手不足に対するリスクが一段と高まっていくと考えられます。
わが国における人手不足の背景は、「生産年齢人口(15~64歳)の減少」と「人材のミスマッチ」の2点に集約されると考えられています(図表1参照)。総務省の推計によれば、わが国の生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに減少傾向となり、2025年にはピーク比17.7%減の7,170万人になる見込みです。この間、生産年齢人口の将来予測のベースとなる0~14歳の人口は、2,001万人から1,407万人へ29.7%減少する見通しなので、生産年齢人口は2025年以降も減り続けることになります。労働市場では、女性や65歳以上の高齢者の就業機会が増えているので、一定程度の労働力は確保できますが、就業者全体の減少傾向が続くことは避けられません。
一方、人材のミスマッチという点では、就労や社会を取り巻く構造変化が人材のミスマッチに繋がっていると言えそうです。勤労者の場合、かつては一つの会社で定年まで勤めあげるというのが一般的でした。また、夫は仕事に就き、妻は専業主婦という家庭がほとんどでした。こうした社会では、扶養家族という仕組みが有効だったのです。しかし、今日の労働市場では、自分に合った会社や仕事に転職するケースが増えています。夫婦共働きという形態も増えており、若年層では扶養家族という考え方も薄らいできているようです。また、兼業・副業を許容する社会になりつつあることから、さまざまな働き方が広がっているように感じられます。こうしたなかで、構造的に需給バランスがひっ迫している業種として、運輸、建設、飲食・宿泊、情報サービス、医療・福祉業界などがあります。こうした業種の特徴としては、労働集約的産業であり、システム化や情報化が進んでいないことが挙げられます。
帝国データバンクの調査結果から正社員の不足率を業種別にみると、「情報サービス」が72.5%で最も高く、次いで「建設」が70.4%、「メンテナンス・警備・検査」が66.5%と続きます。「情報サービス」の場合、企業によるDX投資が重視される認識が広まっていることに加えて、インボイス制度や電帳法などの改正に伴ってシステム改修案件が増加していることなどが人手不足に拍車をかけている模様です。また、建設業では、残業時間の上限規制に加えて、現場作業員の高齢化進展、若年層の入職者の減少等が人手不足に拍車をかけています。ただし、全体的に見ると、2024年をピークに人手不足の割合は緩和傾向にあるようです。この点については、「定年延長」、「中途採用の拡大」、「業務内容の見直し」などによって労働需給を調整している動きが反映しているものと見られています(図表3参照)。
一方、非正社員の不足率を業種別にみると、「人材派遣・紹介」が65.3%、「飲食店」が60.7%となりましたが、全体としてみると人手不足割合は緩和傾向にあると考えられます。なかでも、「飲食店」と「旅館・ホテル」は2024年から2025年に掛けて人手不足割合が大きく低下したことが特筆されます。両業種とも就業者の多くを非正社員が占めるなかで、コロナ禍で落ち込んだ非正社員の数が足元で回復していることや、DX 化の浸透、スポットワークの普及などが進んできていると考えられます。こうしたなかで、百貨店やコンビニエンスストアなどの「各種商品小売」(56.8%)や、食品スーパーをはじめ野菜・鮮魚など各種食品を扱う「飲食料品小売」(54.5%)など、個人向けの小売・サービス業を中心とした労働集約型の業種が上位を占める結果となりました。
人手不足業種の共通点として、長時間・重労働、低賃金、労働市場の重層構造といった点が挙げられます。最近では、こうした業種でも働き方改革を進め、賃金水準を見直すなど労働力確保のための施策に取り組む企業が増えていますが、まだまだ改善の余地が大きいと思われます。企業が取り組むべきこととしては、働き方改革や人事制度の見直しによって社員の定着率を向上させることが大切です。特に、残業時間の上限規制が適用されている「建設」、「運輸」、「医療・福祉」については、業務フローの見直しは喫緊の課題となっています。昨今では、建設工事計画の見直しが相次いでいますが、もはや従来のような「工期(工事期間)」、「工事金額」、「スペック」では建設会社と工事契約を締結することが難しくなっていることを意識しなければなりません。
さらに、2040年問題を意識する必要があるかもしれません。2040年問題とは、1970年代前半に生まれた団塊ジュニア世代が高齢者になることによって起こる日本の社会問題であり、「労働の担い手の減少」、「医療・福祉に関わる費用の増大」、「社会インフラの老朽化」といった課題に対峙していかなくてはなりません。2040年問題に向き合うためには、今のうちから準備をしておかなければならないと思います。
#少子高齢化 #賃金上昇 #2040年問題