物価見通しに関する考察
~原油高、円安、人手不足問題の影響が顕在化~

物価上昇が続くなか、日本銀行は2026年度の消費者物価上昇率を2%台後半と見込んでいる。背景には原油高や円安、人手不足による賃金上昇がある。一方で、中東情勢の悪化やサプライチェーンの混乱はさらなる物価上昇リスクとなっており、今後の動向が注目される。

2026.08.06

コラム

物価見通しに関する考察
~原油高、円安、人手不足問題の影響が顕在化~

目次

01 2026年度の物価見通しをどう考える?

わが国は長らく続いていたデフレから脱却し、インフレ時代に突入しました。これまでデフレ時代に慣れ親しんできた国民は、買い物をしたり、外食をしたり、旅行に行ったりしたときに「かつてとは大きく異なる価格」に戸惑いを隠せないようです。かつては1,000円以下で食べられたランチ定食もいつの間にか値上げされていました。また、あるレストランでは、コロナ禍前には「5,000円でコース料理+飲み放題」だったのが、今では「8,000円のコース料理+飲み放題」と形を変えてしまいました。国内旅行に行くにしても、人気観光地であればビジネスホテルでも一人一泊1万円では泊まれなくなってしまいました。こうしたなかで、中東情勢の不安定化、円安リスクの台頭、人手不足深刻化によって2026年度も基調的な物価上昇が継続すると見られています。そして、物価上昇に対して賃金上昇が追いつかない場合、実質購買力は低下することになります。2026年の春闘では大企業を中心に5%台の賃上げとなりましたが、年金生活者や非正規労働者は物価高に対して無防備な状態が続いていることには留意する必要があるでしょう。

02 日本銀行では物価をどう見ているのか?

こうしたなかで、日本銀行は物価見通しをどのように見ているのでしょうか。2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇を販売価格に転嫁する動きが続くもと、原油価格上昇がエネルギー価格や財価格を中心に押し上げ方向に作用することから、2%台後半になると予想されています。その後は、原油高の影響が減衰していくもとでプラス幅が縮小し、2027年度は2%台前半、2028年度は2%程度になると予想されています。この間、人手不足感の強い状況が続くなかで、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持され、中長期的な予想物価上昇率は上昇していくと見込まれています。こうしたもとで、消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと予想され、2026年度後半から2027年度にかけて「物価安定の目標」と概ね整合的な水準となり、その後も同程度で推移すると考えられています。「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現という観点からは、基調的な物価上昇率が2%程度の水準で定着するかどうかも確認していく必要があります。

03 労働需給とマクロ需給ギャップが物価上昇の構造的要因

日本銀行の4月のレポートを基に、2027年度までの物価見通しを前回(1月時点)の展望レポートにおける見通しと比較すると、原油価格上昇の影響から2026年度が大幅に上振れているほか、2027年度も幾分上振れています。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、原油価格上昇が財を中心に価格を押し上げる方向に作用することから、2%を超える水準で推移したあと、原油高の影響が減衰していくもとで、プラス幅を縮小すると見込まれています。物価の基調を規定する主たる要因についてみると、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、振れを伴いつつも、改善傾向をたどっており、足もとでは小幅のプラスとなっています。先行きの需給ギャップは、現下の経済の見通しのもとで、2026 年度にいったんプラス幅を縮小したあと、2027 年度以降は、再び緩やかに改善していくと予想されています。この間、女性や高齢者による労働参加の増加ペースの鈍化もあって、労働需給はマクロ的な需給ギャップ以上に引き締まっています。こうしたもとで、労働集約的な業種を中心に企業が労働の供給制約に直面しつつある状況を踏まえると、マクロ的な需給ギャップが示唆する以上に、賃金や物価には上昇圧力がかかりやすくなっているとみられています。次に、中長期的な予想物価上昇率をみると、緩やかに上昇しています。先行きについては、労働需給の引き締まりなどを背景に、企業の積極的な賃金・価格設定行動が続き、予想物価上昇率は緩やかな上昇が続くと予想されます。その水準は、2026年度後半から2027年度にかけて2%程度となり、その後も同程度で推移すると考えられています(図表1参照)。

(図表1)2025~2028年度の政策委員の大勢見通し

(注1)「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。

(注2)各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、上記の見通しを作成している。

(注3)2025年度の消費者物価指数は、実績値。

(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望2026年4月」(参考)P10

04 中東情勢、原油価格動向が最大の不透明要因

今回の経済・物価の中心的な見通しは、今後、中東情勢の影響が和らぐもとで、原油価格が下落し、サプライチェーンの大規模な混乱は生じないことなどを前提としています。もっとも、今後の中東情勢の帰趨次第ではこうした見通しが大きく変化し得ることを考慮しなければなりません。第一に、中東情勢を巡る混乱が長期化し、原油価格が高止まりすることで、交易条件の悪化などのマイナスの影響が想定以上に大きくなるリスクがあります。中心的な見通しでは、わが国経済は、原油高による下押し圧力を受けつつも、大きな調整局面には至らないと考えていますが、原油価格が想定以上に高止まりした場合には、企業収益や家計の実質所得が大きく下振れることで、経済が一段と減速する可能性があるのです。第二に、サプライチェーンの大規模な混乱が生じ、わが国企業の生産活動に大きな影響をもたらすリスクがあります。物流への影響が長期化した場合には、原油だけでなく、中東からの輸入ウエイトの大きい素原料・中間財等の供給が滞る可能性があります。この点、すでに一部の素材メーカーではプラントの稼働率を引き下げる動きがみられており、こうした動きが一段と広がる可能性には留意が必要であると言えるでしょう。

中東情勢以外のリスク要因としては、①AI関連需要を含む海外の経済・物価動向、②今後の為替相場の変動、③わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率を押し上げる影響、が挙げられます。AI関連については、グローバルに需要拡大が続いており、旺盛な設備投資が世界経済を押し上げる可能性がある一方、投資に見合う収益拡大が実現しない場合には、資産価格の変動なども伴って調整圧力が生じる可能性もあることに留意しなければなりません。また、為替動向については、原油価格の上昇などが円安につながる場合には、基調的な物価上昇率に影響する可能性があるかもしれません。さらに、やや長い目でみたリスク要因として、わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率に与える影響が考えられます。人口動態の構造的な変化等に伴う人手不足感の強まりは、デジタル化やAIの利活用などによる省力化投資の動きを加速させる可能性があり、政府の取り組みと相俟って、成長期待や潜在成長率を押し上げることも考えられるのです。但し、そうした資本と労働の代替が十分に進展しない場合には、供給制約によって成長率が下押しされるリスクがあるのです。

(図表2)政策委員の物価見通しとリスク評価

(注1)実線は実績値、点線は政策委員見通しの中央値を示す。

(注2)  、△、▼は、各政策委員が最も蓋然性が高いと考える見通しの数値を示すとともに、その形状で各政策委員が考えるリスクバランスを示している。  は「リスクは概ね上下にバランスしている」、△は「上振れリスクが大きい」、▼は「下振れリスクが大きい」と各政策委員が考えていることを示している。

(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望2026年4月」(参考)P11(2)

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加藤 映美

ウェルスマネジメント

加藤 映美

Emi Kato

2017年にSMBC日興証券本店に入社。個人・法人向け資産運用コンサルティング業務に従事する。 本質的な運用提案をしたいという思いと自身のスキルアップのため、2019年にIFAとして独立。 資産運用のみならず、法人保険や不動産などのソリューションも提供している。またセミナー講師も経験。 2022年にIFA Leadingの創業に参画。 美容情報収集が趣味で、専門分野のお客様も担当。皆様の人生を全力で楽しめるものにすべく資産運用で伴走します。

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